長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『DUNE デューン 砂の惑星』

2021-11-04 | 映画レビュー(て)

 フランク・ハーバートの人気SF小説、再々度目の映像化となるこのドゥニ・ヴィルヌーヴ版は先頃、興行的成功を受けてPART2の製作が正式決定した。ヴィルヌーヴは続編制作の担保なしにこの第1弾を作り上げていたのだ。そこには少年時代から『DUNE』映像化を夢見てきたヴィルヌーヴの絶対的な自信と確信があったのだろう。亡国の王子ポールが砂漠の民を率いて帝国に反旗を翻し、やがて銀河の救世主へと成長していく…『スター・ウォーズ』や『風の谷のナウシカ』等、多くのフォロアーを生み出した元祖にして王道である原作のナラティヴを信じたヴィルヌーヴの語り口は驚くほど遅く、サンドワームを呼び寄せる機械のように一定している。先行するホドロフスキー版やデヴィッド・リンチ版のような歪んだフェチズムもなく、まるでDUNEの伝説を詠う吟遊詩人の如く原作に殉じているのだ。これを退屈と取るヴィルヌーヴファンも少なくないだろうが、どうやら原作ファンにとっては“完璧な挿絵”と映るらしい。

 これまでのヴィルヌーヴ映画との違いはスタッフ陣の名前からも明らかだ。音楽ヨハン・ヨハンソンは既に亡く、前作『ブレードランナー2049』をベンジャミン・ウォルフィッシュと共作したハンス・ジマーが専任。ヴィルヌーヴ同様、原作の熱烈なファンであったと公言しているジマーはもう少し自制できなかったものか(ノーランから007、DCまで手掛ける巨匠は独禁法に抵触しないのか?)。
またヴィルヌーヴ映画の“顔”とも言える撮影ロジャー・ディーキンスもいなければ、『メッセージ』ブラッドフォード・ヤングの姿もなく、『ゼロ・ダーク・サーティ』『LION』のグレッグ・フレイザーが撮影を担当している。物語と共にカメラも凄味を増していくディーキンスの不在は、これまでのヴィルヌーヴ映画がいかにこの名撮影監督に依っていたかを浮き彫りにしている。

 そしていつになくオールスターキャストだ。ティモシー・シャラメがいよいよ新時代のハリウッドスターとして昇り詰めれば、その周りをオスカー・アイザック、ジェイソン・モモア、ジョシュ・ブローリン、ハビエル・バルデムらが固め、ここに端役でチャン・チェンを起用するところに作家監督としてのヴィルヌーヴの個性が見える。おそらくゼンデイヤの見せ場が増すであろう第2部にはリンチ版でスティングが演じた悪役フェイド・ラウサや、ホドロフスキーがサルバドール・ダリを起用しようとした銀河皇帝、そしてポールの妹アリアら重要人物が初登場する事となり、オールスターが信条のヴィルヌーヴ版でどんな配役が行われるのか楽しみだ。

 そう、ここにはいつになくメインストリームを進むヴィルヌーヴの気概がある。昨年、ワーナーブラザースが劇場公開と同時にHBOmaxでの配信を決定し、ヴィルヌーヴは激しく反発した。その理由は映画を見れば明らかだ。通常のIMAXですら収まらない破格のシネマトグラフィーは僕達がコロナ禍で失ったスペクタクルであり、ヴィルヌーヴはこの『DUNE』をもってして世界に劇場体験を取り戻そうとしている。それはワーナーを離れたノーランが、はたまたフィルム至上者のptaらシネアスト達の使命であり、この超大作で挑むヴィルヌーヴはまさにスピルバーグ級のヒットメーカー、映画作家へと羽ばたこうとしているのだ。

 そんな本作において、救世主誕生を画策し、我が子のメンターとして共に砂漠を彷徨うレディ・ジェシカに『灼熱の魂』『静かなる沈黙』『メッセージ』『ブレードランナー2049』で“母性の危機”を描いてきたヴィルヌーヴの作家性を垣間見る。アルフォンソ・キュアロンとも通底するテーマ性はより母子の間に仄暗い密着性があり、素晴らしいレベッカ・ファーガソンとシャラメの目線によって大作には不似合いな驚きが生まれていた。救世主ではなく、それを産む母に焦点を当てたヴィルヌーヴ版の真価は続くPART2でより明らかになる事だろう。


『DUNE/デューン 砂の惑星』21・米
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、ゼンデイヤ、シャーロット・ランプリング、ジェイソン・モモア、ハビエル・バルデム、オスカー・アイザック、デイヴ・バウティスタ
 

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