長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『デッドプール&ウルヴァリン』

2024-08-16 | 映画レビュー(て)

 「俺ちゃんはマーヴェルの救世主だ!」またいつもの大口かって?ちっとも!20世紀フォックスからディズニーへ移籍しての第1弾『デッドプール&ウルヴァリン』は近年、いいとこなしのMCUにとってホンモノの救世主となった。オープニング興収は歴代6位となる2億1140万ドルを記録し、これはR指定映画として歴代最高。最近、すっかり見放されていた批評家からも概ね好評だ。これがMCU復活のきっかけになるのか?それはまだわからない。既に軌道修正を始めていたMCUは2024年の劇場公開作を本作1つに絞り込み、選択と集中はラインナップのクオリティを上げ、来る『アベンジャーズ』シリーズ最新ヴィランにロバート・ダウニー・Jrを再招聘するなど話題性にも事欠かない。「マルチバース設定なんかやめろ!」「シリーズ第3弾なのに説明だけでこんなに時間かかっちゃったよ!」ケヴィン・ファイギは俺ちゃんの説教を聞き入れたのか?第4の壁を突破するメタ構造がウリのデッドプールは今回、なんとディズニーによる20世紀フォックス買収という、映画産業構造そのものをネタにしている。

 ライアン・レイノルズのインタビューによれば、MCU合流にあたって提示された条件の1つが「移行できるのはデッドプールのみ」だったという。これまでシリーズを彩ってきたサブキャラクターやストーリーを全てマルチバースとし、時空警察が裁断してしまうのだ。『ロキ』にも登場した虚無の砂漠には20世紀フォックスのロゴが埋まり、彼方には『タイタニック』のような船体、『猿の惑星』よろしくな自由の女神像が打ち捨てられ、この地を支配する凶悪バイカー軍団(いや、『マッドマックス』はワーナーだから!)の顔ぶれは20世紀フォックス時代に製作された『X-MEN』シリーズのヴィランたちだ。彼らと戦いを続けているのはエレクトラ、ブレイドというフォックス時代に製作されたマーベルヒーローたち!そしてフィルモグラフィを見渡せば出オチで使われることも少なくないチャニング・テイタムがガンビットとして現れる。テイタム主演のガンビット単独映画は長年、企画開発が進められてきたが実現には至らず、ディズニーによる買収劇によって消滅した。

 …そんな話わからないよ!公開初日に押しかけた熱狂的なファンダムは大歓声を上げただろうが、あまりにも多い楽屋ネタの数々は映画のエモーションを作品の外に求めすぎている。近年、この成功例は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』であり、作品内外で膨張し続けるジャンルを収束させようとしていたのが『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』『ザ・フラッシュ』だった。筆者は公開4日目の満席の劇場で本作を見たが、相次ぐカメオ出演に場内は「アンタ誰?」とシラけたムードだった。

 しかし、レイノルズの真の目的はそんな偏ったファンサービスではない。大人の都合でなかった事にされる作品群、先人たちの努力に敬意を払い、今再びスポットライトを当てることだ。スーパーヒーロー映画が一大ブームとなる以前から熱意と努力を持ってジャンルを開拓してきたのが『X-MEN』シリーズであり、『デアデビル』『ブレイド』であり(白髪交じりで衰えぬ大立ち回りを演じるウェズリー・スナイプスを見れば、MCUがリブートに手こずっているのも頷ける)、そしてウルヴァリンを演じ続けてきたヒュー・ジャックマンだった。そんな消えゆく者たち、いわば負け犬にこそ共感を寄せ続けるのがかつて『グリーン・ランタン』に主演し、世紀の大失敗をやらかしたライアン・レイノルズならではなのである。


『デッドプール&ウルヴァリン』24・米
監督 ショーン・レヴィ
出演 ライアン・レイノルズ、ヒュー・ジャックマン、エマ・コリン、マシュー・マクファディン

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