五十嵐大介の同名漫画を原作とする『海獣の子供』が映画館で見るべき作品だったと気づいて非常に悔しい想いをしている。精緻でいて詩的な作画はとりわけ海洋シーンで神秘性を感じさせ、これは映画館の闇に耽溺し、生命と宇宙についての思索に耳を澄ませるべきだったのだ。これほど視聴体験に左右されるアニメーション映画も近年、稀だろう。異様な作家性と幼稚なキャラクターデザインの『天気の子』が市場を席巻した陰で、本作のようなアートフィルムが登場していたとは。ここに日本製アニメの豊かさを感じる。
この2作に共通するのが環境問題だ。中学2年生の主人公ルカはジュゴンに育てられたという少年海(ウミ)と空(ソラ)を通じて地球自然と宇宙に耳を傾ける。人間に保護された事で命を短くする少年達と、海獣たちの異変が気候変動を表している事は言うまでもないだろう。
そして本作は“少女映画”でもある。ルカは世界との関係を知り、生きるための“物語”を手に入れる。少女期という刹那の季節は終わりを告げ、神話の声を聞く力が失われる一方、“物語”は生きる力を与えてくれるのだ。重ねて言うが、映画館で見ていたら僕は本作に熱狂しただろう。
『海獣の子供』19・日
監督 渡辺歩
出演 芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、稲垣吾郎、蒼井優、田中泯
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