紆余曲折を経てようやく公開された『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第3弾は、MCUフェーズ4の不振を完全払拭するとまではいかないが、少なくとも監督ジェームズ・ガンの勇退(栄転?)には十分な成果と言えそうだ。全米興行成績は初登場1位の1億1400万ドルをマーク、批評家からも概ね好評。けして筋運びがスムーズとは言えないが(重要ではあるものの、ロケットの過去が何度も回想される展開は映画の速度に寄与していない。何せ149分もある!)、ガーディアンズのメンバーを愛している観客なら苦にならないだろう。ジェームズ・ガンは過去のツイートを発端としたキャンセル騒動をきっかけにディズニーを更迭されて以後、ライバルDCへと移籍。そこでほとんど白紙委任のような高待遇で『ザ・スーサイド・スクワッド』、TVシリーズ『ピースメイカー』の快作2本を手掛け、ついにはDC映画の最高責任者に就任した。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3』はそんなガンによる“DC経由のMCU映画”になっているのが特徴だ。巨大宇宙生物の内部を使った宇宙基地に、残忍な改造手術を施された動物たち…これまでのディズニーにはないグロテスクなビジュアルに加え、アクションシーンもDCの数倍希釈とはいえ、いつになくバイオレント。腑抜けた『ソー ラブ&サンダー』や『アントマン&ワスプ クアントマニア』をものの見事に蹴散らしている。
キャストアンサンブルはガンへの信頼からさらなる充実ぶりだ。作品を重ねる毎に芝居感が冴えていくデイヴ・バウティスタとポム・クレメンティーフの掛け合いに、とにかく怒りっぽいカレン・ギランが加わると可笑しくてしょうがない。 ブラッドリー・クーパーに声を演らせるなら当然、ロケットにはこれくらいの過去を背負わせて欲しいところで(おまけに歌まで唱っている。そうこなくっちゃ!)、もちろんクリス・プラットも楽しげでいい。感心したのは別ユニバースから来たガモーラの扱いで、ジェームズ・ガンは無理に過去作との繋がりを作っていない。TVシリーズ『ロキ』はこれまで私たちにとって何の由縁もない別バースのロキにドラマを持たせて無理に観客を引きつけようとしていた。“VOLUME3”のガモーラは姿形こそ同じでも中身は全くの別人。ピーター・クイルが“昔のカノジョ”そっくりな彼女に同じロマンスを求めるのはお門違いで、ゾーイ・サルダナも別の個性で演じている。新ガモーラはガーディアンズではなく、あのスタローン軍団に合流したのだから、それはそれで幸せだろう。この他、新規キャラクターのウォーロック役で曲者ウィル・ポールターが参入。『ミッドサマー』等の怪演のイメージから一転、おバカ芝居を楽しげに演じてキュート。『ザ・スーサイド・スクワッド』でブレイクしたダニエラ・メルシオール、『ピースメイカー』からジェニファー・ホランド(ガンの奥さん!)、チュクウディ・イウジも合流しており、やはりガン経由でDCの風が入っている。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3』はMCUにおける1つの節目どころか、下手をすると“マトモの楽しめた最後のMCU映画”になりかねない。そしてここがDC映画へ移籍したジェームズ・ガンの新たなキャリアの始まりだ。スターロードがガモーラにウィンクする。「オレ達、最高だったろ?」その通り!
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3』23・米
監督 ジェームズ・ガン
出演 クリス・プラット、ゾーイ・サルダナ、デイヴ・バウティスタ、カレン・ギラン、ポム・クレメンティーフ、ヴィン・ディーゼル、ブラッドリー・クーパー、ショーン・ガン、チュクウディ・イウジ、ウィル・ポールター、エリザベス・デビッキ、マリア・バカローバ、ジェニファー・ホランド、ダニエラ・メルシオール、シルベスター・スタローン
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