長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ガルヴェストン』

2020-10-08 | 映画レビュー(か)

 メラニー・ロランが監督としての才能を証明した2014年作『呼吸-友情と破壊』は2人の女子高生の友情と憎しみを描いた少女映画の傑作であり、一級品のスリラーだった。とりわけルー・ドゥ・ラージュ扮する転校生の秘密を暴いたカメラの横移動には戦慄したのを覚えている。この作品を見て僕は確信した。ロランはサスペンスやアクションも絶対にイケる、と。

 『トゥルー・ディテクティブ』で知られる作家ニック・ピゾラットの小説を映画化した本作はロランの横顔が目に浮かぶ端正なハードボイルドだ。年々、凄みを増すベン・フォスターがヤクザ者に扮し、エル・ファニング演じる娼婦と逃亡の旅に出る。男は病を診断され、余命幾ばくもなかった。

 ロランはまたしても横から引いて撮らえ、『トゥルー・ディテクティブ』シーズン2でも顕著だったピゾラットのナルシズムを取り払う。フォスターとファニングの間には恋愛感情はおろか、疑似親子愛も存在せず、2人を繋ぐのは傷ついた者達の同士愛と大人が子供を守る使命感だけだ。“男のロマン”であるハードボイルドを女性監督が読み直せば何とも凛々しく、ストイックではないか。ピゾラットはロランが原作から離れた事を理由に、自ら務めた脚色クレジットをジム・ハメット名義に変更。事実上、降板した。

 ジョゼフィーヌ・ジャピ、ルー・ドゥ・ラージュをブレイクさせた『呼吸』同様、ロランはエル・ファニングのフォトジェニックな魅力を撮らえるのはもちろん、少女娼婦という難役で演技的見せ場を与えている。多くの映画作家によって“被写体”の役目を与えられてきたエルには新境地と言えるだろう。リリ・ラインハート登場のタイミングも完璧。彼女らの痛みが露になる終幕は本作唯一の感情的場面であり、心揺さぶられた。サスペンスとバイオレンスに満ちた横移動のロングショットもロランならでは。この端正さが2020年代の格好良さを再定義していくのだ。


『ガルヴェストン』18・米
監督 メラニー・ロラン
出演 ベン・フォスター、エル・ファニング、リリ・ラインハート

 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ボーイズ・イン・ザ・バンド』 | トップ | 『人数の町』 »

コメントを投稿

映画レビュー(か)」カテゴリの最新記事