長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ファインディング・ドリー』

2016-09-06 | 映画レビュー(ふ)

 ついにディズニー×ピクサーはネクストステージに到達した感がある。
 ディズニーがジョン・ラセターを経営トップに迎えて早数年。意欲的な試みはあれど互いにスポイルされてしまったかのような印象の作品が続いてきたが、今年は春公開の
「ズートピア」とわずか半年間で2本も興行面、批評面で大成功を収めた。そのどちらにも共通するのが十数名規模のストーリーチームの存在である。練りに練った企画開発は小手先だけのプロットに終始せず、正しく時勢を読み取る同時代性がある。テーマはヘイトであり、レイシズムについてだ。

本作の主人公は前作でニモを助けたナンヨウハギのドリーだ。
エレン・デジェネレスが愉快に演じるこのキャラクターは記憶が保てないコミックリリーフとして人気を集めてきたが、本作ではそれが早々に“病気”として描かれる。若年性健忘、ADHD…障害を抱えたドリーの将来を悲観して人知れず母親が涙をこぼす。ひょんな事からはぐれてしまったドリーはここまでたった一人で生きてきたのである。

ドキッとさせられる切り口だ。
奇しくもアメリカではドナルド・トランプによるヘイトの嵐が吹き荒び、日本では“障害者を抹殺する”という狂人によって大量殺人が引き起こされた。海の仲間達もトラブルメーカーの彼女を時に疎ましく思ってしまう。他人との違いをどう受け入れるのか?ハンデを背負った人を社会はどう受け入れていくのか?いや、そもそも障害がハンデなのか。違う事とは障害なのか?人は違って当然である。無邪気なニモは問いかける“ドリーならどうする?”

人間は“相手の立場に立って思いやる”という人間でしか成し得ない行為を忘れてしまったのだろうか?海の中にはヘイトの潮流なんてない。ドリーの思い、行動が多くの魚たちを動かしていく様は感動的であり、何より痛快だ。

 …とテーマに字数を割いてしまったが、ギャグあり、アクションありと親子で楽しめる最高のサマームービーになっており、僕は冒頭の神秘的で雄大なエイ達の男性コーラスから一気に心を掴まれてしまった。オスカーは「ズートピア」との一騎打ちになるだろう。シガーニー・ウィーバーでした(←ここ笑うとこ!)



「ファインディング・ドリー」16・米
監督 アンドリュー・スタントン、アンガス・マクレーン
 出演 エレン・デジェネレス、アルバート・ブルックス

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