これだからホン・サンスは堪らない。舞台は冬のドイツ。女優は映画監督と不倫中で、異国の地で逢瀬の時を待っている。だが本当に来てくれるのだろうか?その時が来るまで友人と2人、あてどない散策だ。
女優を演じるのはパク・チャヌク監督の『お嬢さん』に主演したキム・ミニ。本作の監督であるホン・サンスとは実際に不倫関係にある。映画は韓国に舞台を移す。女優は不倫愛に破れ、芸能界からも後ろ指を指されて裏寂れた海辺の町に流れ着いた。それでも映画監督を忘れることはできない。
現実と虚構が入り乱れ、俳優達は緻密な演出の下にあるのか即興なのかも判然としないグルーヴを生み出し、映画は弛緩と飛躍を繰り返す。そんなホン・サンスの作風を貫くのが圧倒的なキム・ミニだ。劇中で何度も言われるように可愛らしく時々、儚げな表情を見せる。そして何より面倒くさいまでに図々しい。終盤の絡み酒は最高だ。あたしの不倫がオマエらに何の関係があるんだ!
芸術家はミューズに惚れ込んでこそである。ホン・サンスの私映画は臆面もない図太さだが、ここには清々しいまでのキム・ミニへの愛と女性への賛歌がある。堪らない逸品だ。
『夜の浜辺でひとり』16・韓
監督 ホン・サンス
出演 キム・ミニ
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