(これは2018年の記事です)
今日の映画はネタバレ全開で進めたいと思います。
なぜならネタバレしないと説明できない映画だから。
これから見る予定の人は、映画を見てからまた来てね。
「ルイの9番目の人生」(2016年公開。イギリス・カナダ・アメリカ合作。アレクサンドル・アジャ監督)
ルイは生まれた直後から事故や食中毒、感電等で毎年死にそうな目に合い、事故多発少年と呼ばれるようになります。
そして、何とか生き延びて9歳の誕生日を迎えます。
ルイが猫ならもう8回は命を使っている、これ以上使わないで、と母親はルイにいいます。
ルイ自身のこうしたナレーションで、映画は始まります。
ここで勘のいい人ならピンとくるはずです。
私も、まさかなあ、と思いつつも予感は感じていました。
中盤にさしかかると、さては、と思い、最後のどんでん返しで、やっぱりそうだったのね、となったのでした。
大体9歳の少年が毎年死にかけるなんて尋常じゃない。
児童虐待か、あるいはそれにからむファンタジーか。
映画は、父親が犯人であるかのようにミスリードします。
彼は酒飲みの元ボクサーだから。
そして、ルイは彼の実子ではなく、妻の連れ子だから。
夫婦仲もあまりよくない。
動機は十分ですね。
父親がルイを殺そうとしているのかもしれない。
でも、
大の男が子どもを殺そうとして、8回も失敗するかしら。
殺すつもりならとっくに殺しているはずです。
そんな状況の中、ルイの9歳の誕生日のお祝いに、家族でピクニックに行きますが、ルイは崖から転落して、一命は取りとめたものの、昏睡状態に陥ります。同時に父親が行方不明になります。
警察は父親がルイの転落に関係していると見て、捜査に乗り出します。
母親のナタリーは昏睡状態のルイにつきっきりで看病します。
その献身的な看病ぶりに、担当医のパスカルはすっかりやられて、ナタリーの虜になっていきます。
何せ美人なのよ、この母親。
楚々として美しく、弱々しげで思わず手を差し伸べたくなるタイプ。男ってこういう女性にとことん弱いよね。
パスカルは美人妻がいるくせに、ナタリーと不倫に走ります。バカだね。
でも、彼女、実は
代理ミュンヒハウゼン症候群という精神疾患を患っていたのでした。
つまり、ルイが死にかけたのは全部彼女のせい。
死なない程度の毒を盛ったり、感電させたり、事故に合わせたり・・
毎回、ルイは死にかけるけれど死にはしない、そういうぎりぎりのところへルイを追いこんできたのでした。
そして献身的に看病をする。
周囲の誰もが彼女を献身的な愛情深い母親だと思い同情し、彼女に注目する、その同情と注目を得たいがために、何度もルイを追いこむのです。
ルイ自身もまたそれが母親の愛情だと思い込み、誰にも相談せずむしろ母を庇う行動に出ます。
崖から転落した時のルイは叫び声も上げず、絶望の表情をしていました。
ルイ自身が母の要求に応えようとして自らの運命を選び取ったともいえるでしょう。
どんだけ酷い母親なんだ。
でも、この病気、実はそう珍しくないようです。
有名どころでは、「シックス・センス」に登場するキラの母親がそう。
娘のスープに洗剤を混ぜて最後は殺してしまいます。
また、日本でも時おり代理ミュンヒハウゼン症候群による犯罪が明るみにでますが、被害者が子どもであることから、大多数は闇に埋もたまま死に至っているのではないかと言われています。
母親って怖いよね。
(父親が怖いのは言うまでもなく)
先日「すべての母親は魔女である」と書きましたが(「ビューティフル・クリーチャーズ」)
この代理ミュンヒハウゼン症候群もまた魔女の片鱗が伺える事例ですね。
病気とまではいかなくても、子どもが病気になったときに甲斐甲斐しく優しい母親を演じて周囲から同情されたりすると、もう一度あの同情を味わいたいと思うのはそう珍しいことではないかもしれない。
火事になったらまたあの人に会える、と思って衝動的に火をつけた八百屋お七みたいに。こういう心理って誰にでも多少はあると思います。
でも、普通はそう思っても行動しない。それを行動に移してしまうところが病的なのでしょう。
ナタリーは精神病院に収容されますが、なんと第2子を妊娠しています。いうまでもなく医師パスカルの子。男ってホントにバカだね。
ミステリー映画としてすごく面白いかというと微妙かなあ、という感じはありますが、ちょっと変わった精神疾患に興味のある人はどうぞ。