ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

ナイト・オブ・キリング

2019-02-06 09:51:37 | 映画


(これは2017年8月14日の記事です)

Huluで配信されたドラマでまた面白いのを見つけたので紹介します。

ナイト・オブ・キリング 失われた記憶

「シンドラーのリスト」を書いたスティーヴン・ザイリアン脚本のドラマでHBOが制作。

ニューヨークのクイーンズ地区に住むパキスタン系移民の青年ナシル・カーン(通称ナズ)は真面目な大学生だったが、ある夜、パーティに行く為に父親の商売道具であるイエローキャブを無断で借り、犯罪に巻き込まれてしまう。

ナズの車をタクシーだと思って乗り込んできた若い女性が可愛かったので、ナズは彼女を乗せ、彼女に言われるままに彼女の自宅に行き、勧められるままにドラッグを使用し、彼女と関係を持つ。

ところが、ドラッグのせいで眠り込んでしまった間に、彼女が何者かに殺されてしまう。

慌てたナズは凶器であるナイフを持ち出し、しかもパトロール中の警官に捕まってしまう。

ナズ自身は彼女を殺した記憶がなく、殺してはいないと思うのだが問われると確信はなく、そのまま殺人容疑で逮捕されてしまう。

こうしてナズは一夜にして殺人容疑をかけられ、NYの悪名高い拘置所に入れられ、タフな囚人たちの中でサバイバルを余儀なくされる。

取引に応じれば15年の服役で済むと敏腕弁護士に持ちかけられるが、無実なので取引を拒否し、裁判に持ち込まれる。

面白いのは彼を取り巻く人たちだ。
退職間際の刑事、金目当ての敏腕弁護士、その弁護士の助手をしている新人弁護士、また女性の検事もなかなかしぶとい。

ナズを一目見て彼の弁護を申し出るジョン・ストーンという弁護士がいい。彼は売春婦やドラッグなど軽犯罪専門であまり敏腕ではないが、人間性は実に豊かだ。
このジョンを演じるのがジョン・タトゥーロ。味わい深い人物像を演じている。彼は「名探偵モンク」のモンクの兄弟アンブローズ役でも有名。

ジョンは足の湿疹で悩んでおり、また殺された女性が飼っていた猫を、猫アレルギーがあるにも関わらず引き取ったりと、コミカルな役柄でもある。

また拘置所内でナズを助けてくれた元ボクサーとか、拘置所で生き延びるためにどんどんタフになっていくナズとか。

見どころは満載で、毎回、物語がすごく進むわけではないのに目が離せなくなる。
9・11以後のアメリカ社会のあり様、イスラム系移民の過酷さ、その中で、ナズの澄んだ瞳がすべてを語っている。台詞は多くないのに、存在感のある役者だと思う。

真犯人は果たして誰なのか。ナズは裁判に勝てるのか。
そうしたミステリー要素を満載しつつ、同時に、ナズの社会的立場、周囲の人物たちの姿が克明に描かれる。

人間観察の鋭さ、人物像の克明さ、ストーリーの彫りの深さ、どれをとっても、社会派ドラマとして超一級である。

シリーズ1全8話。続編があるのかどうかは不明。
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ヒッチコックふたたび

2019-02-04 10:35:33 | 映画


(これは2017年8月5日の記事です)

東京ではあまり夏らしくない曇り空が続いていますが、夏というと思い出すのが、ヒッチコックの

「鳥」(1963年公開)

冷房の効いた映画館で見た「鳥」は、その恐ろしさと冷房の寒さとがあいまって、私はすっかり震え上がったのでした。あんなに怖い映画を見たのは初めてでした。

Huluで配信していたのでなつかしくなって見てみました。

すごい!
半世紀も前の映画なのに、今見ても面白い!

そして、当時はわからなかったことが今ではよくわかります。

(以下ネタバレ)
主人公のメラニー(ティッピ・ヘドレン)は金持ちのわがまま娘です。

そのメラニーがペットショップで出会った男ミッチ(ロッド・テイラー)に興味を持ち、彼の妹へのプレゼントと称してラブバード(日本名オカメインコ)を持参し、彼の自宅のあるボデガベイに向かいます。

ところが、メラニーを出迎えてくれたのは、一羽のカモメの襲来でした。

ボデガベイの小さな田舎町では鳥たちの異変が相次ぎます。

ミッチの知り合いの男性が鳥に襲われて亡くなったり、小学生たちにカラスの群れが襲いかかったり。

はじめのうち、鳥に襲われたというメラニーの話を信じていなかった町の人たちも、事実を目の当たりにして恐怖を抱きはじめます。
そして、ついに、鳥たちは大集合し、人間を襲い始めるのです。

この映画は、自然界には人間の知らないメカニズムがあり、ある日突然鳥たちが人間を襲うようになるかもしれない、といった恐怖を描いていると同時に、ミッチの家族とメラニーの複雑な人間模様、彼らの心理をも巧みに映しだしています。

ミッチの母リディアは四年前に亡くなった夫が忘れられず、彼の死を嘆き悲しみ、周囲をも巻き込んでいく非常に偏狭な性格の持ち主です。
リディアが頼みにするのは息子のミッチだけ。ミッチが恋人を作って自分から去っていくのではないかという不安にさいなまれています。

リディアのせいで、ミッチは元恋人のアニーとも別れてしまいます。
アニーはその後、ボデガベイの小学校の教師をしながらミッチのそばで暮らし続けています。

そこへ、新たな恋人として、メラニーが登場してくるわけです。

メラニーとアニー、そしてリディアという三人の女性たちの葛藤、その中心にいるミッチという男性。

その人間模様を描きながら、鳥たちも徐々にその行動をエスカレートさせていき、ついに集団で人間を襲うといった事態にまで発展していきます。

その中で、メラニーとリディアは次第に心を通わせるようになるのですが、鳥に襲われたメラニーは瀕死の状態に陥ります。

鳥たちの襲撃事件というのは、言ってみれば、リディアの深層心理の暗喩。
リティアは、潜在意識の中で、アニーやメラニーの死を望んでいたのでしょう。

最後は、周囲を夥しい数の鳥たちに囲まれたボデガベイの自宅から、メラニーとミッチの家族が車で逃げだすシーンで終わりますが、この後、彼らがどうなったのか、ボデガベイ以外の場所ではどうだったのか、といったことは一切語られません。

しんと静まりかえった無数の鳥たちに覆われたボデガベイの大地に電子音で作られた鳥たちの不気味な声がこだまする、といったエンディングのなんと恐ろしかったこと!

いまだにこのシーンを見ると震えが走ります。

ヒッチコックは人間の心理を巧みに描き、恐怖を引き出す天才ですね。

ちなみに、このメラニー役を当初ヒッチコックはグレース・ケリーに依頼していたそうですが、残念ながら実現しませんでした。
この経緯については、映画「グレイス・オブ・モナコ」でも語られています。

グレース・ケリーのメラニーを見てみたかったと思うのは、私だけではないはず。

ああ、ここはグレース・ケリーだったら・・と思いながら見ました。

他にもヒッチコックの映画はたくさんあります。

「めまい」「サイコ」「裏窓」やさらに「北北西に進路を取れ」「見知らぬ乗客」「間違えられた男」といったサスペンス、また「ハリーの災難」といったコミカルなものもあり、今見ても十分楽しめます。
(ちなみに私は「裏窓」が大好きです!)

夏は階段、もとい怪談!と思っているあなた、この夏、ヒッチコックを見直してみてはいかがでしょうか?
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カイロ・タイム~異邦人~

2019-02-01 11:01:05 | 映画


(これは2017年7月21日の記事です)

猛暑の夏を避けてどこかに行きたいけど、夏休みはどこも高くていけない、というあなた。
この映画をみてエジプト旅行をしてみてはいかがでしょうか?

「カイロ・タイム~異邦人~」

ルバ・ナッダ監督作品。「手紙は憶えている」のアトム・エゴヤン監督が原案協力。パトリシア・クラークソン(「エデンより彼方に」「エイプリルの七面鳥」)主演。カナダ・アイルランド制作。

海外旅行をあまりしない人たちにとっても、ヨーロッパやアメリカなら、どんな感じか大体わかりますね。中南米も、キューバの音楽やリオのカーニバルなどで、なんとなくこんな雰囲気というのはわかります。でも、中東はまだ日本人にとって未知の世界ではないでしょうか。

エジプトのカイロの街がこんなにも絢爛豪華で人々の熱気に溢れ、歴史を感じさせる街だったとは・・
世界は広いのに、私は何にも知らなかったんだなあ。

行ってみたーい、と思う一方で、こんな街に飲み込まれたら生きて帰れないだろうなあとも思う。

それほど、歴史も文化も人々も空気も何もかもが違う。エキゾチックという言葉では表しきれない重厚な歴史と濃密な空気を感じさせる街です。

映画のストーリーは大体こんな感じ。
ジュリエット(アメリカ人50歳前後)はカイロで夫と休暇を過ごす予定でしたが、夫は空港に現れない。彼は国連の職員で、ガザでトラブルがあって足止めされていたのでした。
ジュリエットは一人カイロの街をぶらつきますが、男たちがついてきたりと安全とはいえない。
そこで、夫の部下で空港に彼女を出迎えてくれたエジプト人のタレクに街の案内を頼みます。

二人でナイル川クルーズをしたり、砂漠を歩いたり、ピラミッドに登ったり・・
いつしかジュリエットはタレクに惹かれていき、タレクもまたジュリエットに惹かれていきます。
ところが、待てど暮らせど現れなかった夫が、二人の間が親密になりかけたその時にホテルに到着・・

この映画、はっきり言ってストーリーはどうでもいい。観光映画だと思って見たほうがいいです。

ジュリエットとタレクの恋愛は、夫一筋できたミドルエイジの女性の心の隙間にふと差し込んだ一条の光と影。でも、結局、彼女は夫を捨てる気なんてさらさらない。

往年のキャサリーン・ヘップバーン主演映画「旅情」を彷彿とさせます。

「旅情」の舞台はベニスでした。ひと夏の淡い恋の思い出。

「カイロ・タイム」もひと時の淡い中年の恋の思い出。

でもねえ、
彼女の夫は国連に勤めていて、カイロで一人ぼっちになってもタレクのような案内人がいて、アメリカ人で美人で・・とくればもう我々とは桁違いのセレブ。
どう転がっても、私が一人でカイロに行ったら生きては帰れないだろうなあ・・ということを実感させられた映画でもあります。

カイロはそういう街でもあるわけです。

映画ブログを散見すると、カイロを知っている人にとってはイマイチな映画であるらしい。エジプトならもっと観光の目玉があるはず。カイロの街だって、もっと素敵な場所がいっぱいある、と書かれていますが、エジプトを全く知らない私にとっては、

エジプトって、カイロって、すごい! 行ってみたーい!

という映画なのでした。

そして、世界にはまだまだ私の知らない国や街があり、そういうところで人々は日々暮らしながら歴史を紡いでいるのだなあ。
ああ、行ってみたいなあ。世界の果てまで行ってみたい・・
という気にさせてくれる映画でもありました。

副題にあるように、ジュリエットは「異邦人」。そして、エジプトは異邦人を安易に受け入れない厳しい国でもあるようです。

砂漠の中で生き抜いてきた人々の厳しさ、そして独特の人生観や楽しみなど、西欧の文化とは一味も二味も違う文化が根付いている様子が伺えます。

異邦人が介入する余地はない、介入してはいけないのだ、と強く感じさせられる映画でもありました。

猛暑を忘れて異国情緒を楽しむにはもってこいの映画です。旅費もかからないしね。

今、Amazonプライムで(タダで)見られます。
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