ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

青いパパイヤの香り

2019-05-17 10:01:55 | 映画

 

ベトナム旅行から帰ってきたら、ベトナムの映画を見つけました。今GYAOでフリーで見られます。

「青いパパイヤの香り」(1993年 トラン・アン・ユン監督作品)

公開直後に見た記憶があります。
1951年のサイゴンを舞台とした作品で、ベトナム、フランス合作映画です。
トラン・アン・ユン監督のデビュー作で、いろんな賞を受賞しています。

トラン・アン・ユンはベトナム生まれのベトナム人ですが、子どもの頃にパリに渡りフランスで育っています。
従って、感性はヨーロッパのものかもしれない。
カズオ・イシグロのような感じでしょうか。

でも、彼の中に色濃く残っているベトナムへの郷愁はあますところなく描かれています。

とにかく映像が美しい。最初に見たときも、ああなんて美しい映画なんだろう、と思ったことを覚えています。映画というのはまさに映像の芸術なのですね。

ストーリーはシンプルです。

田舎からサイゴンの商家に使用人として雇われた10歳のムイという少女の成長物語。

同時に、ムイの目から見たサイゴンの富裕層の生活が細部まで見事に描かれます。

パパイヤの茎から落ちる白い雫、アリが砂糖の塊の運ぶ様子、コオロギを竹の籠に入れて飼うムイの様子、とても暑そうだけど風が吹き抜ける商家の家の中、台所で立ち働く女性たち、通りを行きかう人々など、細部がとにかく美しい。

そして、ムイがすごくかわいい。
全体に会話が少なく、映像と音楽だけで見せる映画なのですが、
ムイの利発さ、冷静に大人や商家の家族を観察している様子、小さな虫に対する愛情に満ちた目、実に賢い少女なのです。

そうした少女ムイの目から見た商家では、父親である一家の主が全財産を持って妻と子供たちを残して蒸発します。それも初めてではなく、過去に何度も起きていたことがわかります。

働くのはもっぱら女性で、主人は長男と一緒に音楽を奏で、次男三男もやりたい放題です。男尊女卑は日本でも同じですが、この商家の妻は逃げた夫にも義理の母にも一切抵抗することはありません。

残された妻はまだ幼い息子たちや使用人を養うために、家業である反物商だけでは足りず、装飾品や貴重品を売り払い、畑で野菜を育てます。これ全部女性の仕事。
ベトナムの女性の強さがあますところなく描かれます。
まるで「おしん」のような話ですが、ムイの境遇が「おしん」と違うのは、妻がムイのことを、幼くして死んだ我が子に重ねて大事にしてくれていること。

そして、10年後、美しい女性に成長したムイは音楽家である長男の友人宅の使用人として商家を去り、やがてその音楽家と結ばれる、というお話。

でもねえ、やっぱりこれ、男性目線の映画なのですねえ。
1951年のサイゴンが舞台なので、仕方ないといえば仕方ないのでしょうけれど、それを描こうという時点で監督の方向性がわかる気がします。

一方、1951年といえばまだインドシナ戦争の最中。
戦争の影はあるものの、商家の主は戦争とは無縁の生活をしており、庶民の生活もいたって平穏に行われている様子も描かれています。

そして、だからこそ、ベトナム女性の強さ、凛々しさ、美しさが際立つともいえます。
それもまた男性目線であることに変わりはないのですが。

とにかく、映像が美しい。
そして、
ベトナムってこんな国なのね、という発見があること間違いなし。
ホーチミン市で何軒かのカフェやレストランに入りましたが、この映画にあるような家具調度、そして雰囲気があり、とても素敵でした。

これを見たら、きっとベトナムに行きたくなると思いますよ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

女神の見えざる手

2019-05-15 19:50:19 | 映画


(これは2018年4月の記事です)

ジェシカ・チャステインという女優を知ってますか?
「ヘルプ~心がつなぐストーリー~」「ゼロ・ダークサーティ」「インタースティラー」等々に出ています。

今回この映画を見ようと思ったのは、ジェシカ・チャステインが主役だったから。

女神の見えざる手(ジョン・マッデン監督作品 2017年公開)


すごい映画です!
とにかく主役のジェシカ・チャステインがすごい!

最初に見たとき、主人公のエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は冷徹で血も涙もない、非情なサイコパスのように見えたのですが、二度目に見ると彼女の背景も徐々にわかってきて、決して非情なサイコパスではなく、計算しつくされた戦略によるものだとわかるようになります。

ストーリーはやや込み入っており、しかも物凄いスピードで展開されるので下手すると置いてけぼりを食らいますが、二度見すれば大丈夫。

これは、アメリカの銃規制問題に深く切り込む社会派の映画でもあります。

エリザベス・スローンは敏腕ロビイストで、銃規制法案が上院に提案されたとき、この法案に反対する側から声をかけられます。
女性を味方につければ勝てる、ぜひ、女性たちに銃が必要だと思わせる手立てを考えてほしい(!)
スローンはそれを一笑に付して、反対側の銃規制法案を通そうとしているグループのロビイストになります(ロビイストの団体があり、スローンはその団体に雇われている)。

ロビイストというのは、簡単にいうと、根回し役ね。
議会に法案が提出されたとき、それが通るかどうかは、このロビイストの活躍如何にかかっているというわけ。

アメリカの議会も日本と大して変わらないのね、と思った。
大金を積み、身内の弱みにつけこみと、卑怯な戦略の数々。スローンの冷酷非情な戦略も影が霞むほど。どこの国でもこういうのってあるんだろうな。

銃規制法案が通るかどうかは賛成・反対の議員の数にかかっている。
そこで、ロビイストたちは、議員に根回しをして、銃規制法案が無事通過するように、あるいは銃規制法案が通過しないように、議員たちを説得してまわります。

その最中にいろいろ起きるわけ。

あれやこれやあって、スローンは上院の聴聞会に召喚されます。
映画の冒頭は、この聴聞会から始まり、時間をさかのぼってなぜ彼女が召喚されたのか、そのストーリーが展開されるのですが、時々また聴聞会の場に戻るので、少々ややこしい。

これ以上書くとネタバレになり、ネタバレすると面白さが半減するタイプの映画なので、ネタバレは避けますが、
何より感動したのは、スローンの強さ、そしてアメリカという社会の非情さ、けれども、その非情さに立ち向かう人々も大勢いて、彼らの意思の強さと凛々しさ・・そういうあれやこれやを考えさせてくれる映画です。

何しろ、スローン(ジェシカ・チャスティン)がすごい!
女性で一匹狼。しかも全能といえるくらい優秀で美しく、そして、孤独。
なぜなら、彼女はありきたりの幸福など追求してはいないから。

見応えのあるサスペンス映画ですが、二度見て心に残るのは、スローンの底知れぬ孤独かもしれない。

いい映画です。ぜひ見てみてください。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シャープ・オブジェクツ/KIZU傷

2019-05-09 20:44:31 | 映画

 

今日は久々に最新の記事を!

Amazonプライムで配信中の「シャープ・オブジェクツ/KIZU傷」です。

HBOのドラマで、全8話完結。
原作は「ゴーン・ガール」のギリアン・フリン。
主演はエイミー・アダムス、パトリシア・クラークソン、という豪華な顔ぶれ。

これがねえ、すんごく後味の悪いドラマなので、すっきり解決ひと安心、というのが好きな人にはお勧めしません。私は好きだけど、こういうの。

アメリカの田舎町で起きた連続少女殺人事件を追いかけて、クロニクルの記者カミーユ(エイミー・アダムス)が現地に向かいます。

そこはカミーユの実家のある町で、母アドーラ(パトリシア・クラークソン)と義父、妹アマはまだ一緒に住んでいます。
カミーユのすぐ下の妹マリアンは子どもの頃、病気で亡くなっている。

一見平和な町で相次いで少女が殺されます。しかも、死後歯が抜かれるという凄惨な方法で。
いずれも、カミーユの妹アマの友達。町は騒然とし、殺人犯探しが始まります。

同時にカミーユと母との確執が次第に露わになってきます。
カミーユはアルコール依存症で、しかも彼女の体には刃物で傷つけた跡が無数にある。自傷行為をやめられない。妹を失い、集団レイプにあった昔の記憶から逃れられず、また自分だけ母に愛されていないと思いこんでいるためです。

とまあ、全体に暗く陰鬱なイメージなのですが、映像は美しく音楽もいい。

でも、ストーリーの進行は遅く、犯人はなかなか捕まらない。
そうこうするうちに、殺された少女の兄が犯人として逮捕されます。

でも、カミーユは彼ではないと思う。本当の犯人がいるはず。

第七話まできて、ようやくストーリーは急転直下、
思いもかけない犯人が浮上し、解決に向かいます。

カミーユも落ち着きを取り戻し、アルコール依存症と自傷行為からも解放されそうな気配。

でもね、残された謎がまだあって、え、これで終わり? それじゃあれはどうなったの? と思うわけです。
そして、最後の最後に(本当にエンディングの数秒前に)大きなどんでん返しが来ます。

ギェェーッ!!

こんなどんでん返しがあったんだ!
背筋がゾクゾクっとし鳥肌が立ちました。

そして、ようやくすべての謎が解けるのだけど、エンドロールの後にもまだ続きがあって、後味の悪さも「ゴーン・ガール」以上。
でも、この後味の悪さ、けっこう癖になるかも。

こういうの、また見てみたい! そう思わせるドラマです。

キーワードはまたしても「代・・」です。といえばピンときちゃうかもね。

どんでん返し系が好きな人にはお勧め。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ベトナム、ホーチミン市に行ってきました。

2019-05-07 11:32:20 | 旅行

 

ご無沙汰でした。
実はGW中、ベトナムはホーチミン市に行ってきました。

ベトナムはずっと行ってみたい国でした。
何しろ、私の高校時代はベトナム戦争まっただ中。
クラスのH君は毎日のように、

「僕たちはこんなところで勉強なんかしていていいのだろうか。ベトナムでは毎日大勢の人が殺されているというのに」

といって反戦運動に参加しようと呼びかけていました。

彼は今どうしているのか。

私もべ兵連のデモに参加しました。

1975年4月30日、ベトナム共和国(アメリカの傀儡政権)は北ベトナムから侵攻してきた革命政府軍にあっけなく降伏し、ベトナム戦争は終結したのでした。

ベトナム戦争をテーマにした映画はたくさんありますね。

地獄の黙示録 
プラトーン
ランボー
グッドモーニング・ベトナム!
ペンタゴン・ペーパーズ
等々。

いずれもアメリカの視点で作られた映画です。

ベトナム戦争を知るにはベトナムに行って、人々の暮らしを間近に見ないとわからない、そうつくづく思いました。

「グッドモーニング、ベトナム!」はいい映画だけれど、やはりアメリカ目線で、ベトナムの庶民はああではなかったと思う。

実際に行ってみるとそれがわかります。

何しろ、ベトナムは、アメリカが負けた唯一の国なのだから。

ホーチミン市(昔はサイゴンと呼んだ)にある戦争証跡博物館には、ベトナム戦争当時の様々な記録がこれでもかと展示されています。

また、近藤紘一の「サイゴンのいちばん長い日」にはベトナム共和国が陥落した4月30日前後の様子が克明に記録されていて、今よんでも小説のように面白い。

彼が44年前にたどったフォングーラオ通りを私も歩きました。

そして、ベトナムは何といっても「食」の国。
美味しいものがたくさんあります。
生春巻もフォーもバインミー(サンドイッチ)も美味しかった。

ホーチミン市は、緑が多く美しい街です。
街も建物も洗練されているし女性も美しい。

フランス植民地時代に建てられた建築がたくさんあり、エッフェル塔を建設したエッフェルの設計による郵便局もその一つです。

けれども、街角には緑色の軍服を着て銃を持った兵士たちが立っています。

他のアジアの国に比べると治安もよく秩序も整っているのは、共産圏の国だからかもしれない。

今は雨季前の一番暑い季節。

気温が高いばかりでなく、湿度も高い。

とにかく、暑い!
ベンタイン市場の屋台でアイスティーを飲んでいるといろんな匂いが迫ってきます。パクチーやニョクナムなど香辛料の匂い、揚げ物など料理の匂い、人々の熱気と喧噪・・様々なものがないまぜになったカオス。

こういうカオス、私はけっこう好きです。
これがアジアだ、と思う。

アジアに来ると、五感が目覚めます。

しっかりしないと、横断歩道を渡りきれず死ぬかもしれない。

70歳目前の私も気をとりなおし、左右を確かめてから通りに足を踏み出します。
激しいクラクションが鳴り、目の前を車が通りすぎていく。
何とか通りを渡り終えると、ほっと息をつき、
ああ、命落とさずに済んだ、と思う。

毎日が冒険、サバイバル。

だからしっかり生きないといけない。

アジアに来ると五感が目覚め、生きていると実感します。

昔の日本もそうだったはず。

今の日本は、惰眠をむさぼっている、そう感じます。

だから時々アジアに行って、五感を鍛え、自分を鍛え直す。
その必要を感じるのです。

また行こうと思っています。

帰りの飛行機で見た「ボヘミアン・ラプソディー」がすごくよかった!
飛行機に乗る楽しみは、映画を見る楽しみでもあります。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする