ベトナム旅行から帰ってきたら、ベトナムの映画を見つけました。今GYAOでフリーで見られます。
「青いパパイヤの香り」(1993年 トラン・アン・ユン監督作品)
公開直後に見た記憶があります。
1951年のサイゴンを舞台とした作品で、ベトナム、フランス合作映画です。
トラン・アン・ユン監督のデビュー作で、いろんな賞を受賞しています。
トラン・アン・ユンはベトナム生まれのベトナム人ですが、子どもの頃にパリに渡りフランスで育っています。
従って、感性はヨーロッパのものかもしれない。
カズオ・イシグロのような感じでしょうか。
でも、彼の中に色濃く残っているベトナムへの郷愁はあますところなく描かれています。
とにかく映像が美しい。最初に見たときも、ああなんて美しい映画なんだろう、と思ったことを覚えています。映画というのはまさに映像の芸術なのですね。
ストーリーはシンプルです。
田舎からサイゴンの商家に使用人として雇われた10歳のムイという少女の成長物語。
同時に、ムイの目から見たサイゴンの富裕層の生活が細部まで見事に描かれます。
パパイヤの茎から落ちる白い雫、アリが砂糖の塊の運ぶ様子、コオロギを竹の籠に入れて飼うムイの様子、とても暑そうだけど風が吹き抜ける商家の家の中、台所で立ち働く女性たち、通りを行きかう人々など、細部がとにかく美しい。
そして、ムイがすごくかわいい。
全体に会話が少なく、映像と音楽だけで見せる映画なのですが、
ムイの利発さ、冷静に大人や商家の家族を観察している様子、小さな虫に対する愛情に満ちた目、実に賢い少女なのです。
そうした少女ムイの目から見た商家では、父親である一家の主が全財産を持って妻と子供たちを残して蒸発します。それも初めてではなく、過去に何度も起きていたことがわかります。
働くのはもっぱら女性で、主人は長男と一緒に音楽を奏で、次男三男もやりたい放題です。男尊女卑は日本でも同じですが、この商家の妻は逃げた夫にも義理の母にも一切抵抗することはありません。
残された妻はまだ幼い息子たちや使用人を養うために、家業である反物商だけでは足りず、装飾品や貴重品を売り払い、畑で野菜を育てます。これ全部女性の仕事。
ベトナムの女性の強さがあますところなく描かれます。
まるで「おしん」のような話ですが、ムイの境遇が「おしん」と違うのは、妻がムイのことを、幼くして死んだ我が子に重ねて大事にしてくれていること。
そして、10年後、美しい女性に成長したムイは音楽家である長男の友人宅の使用人として商家を去り、やがてその音楽家と結ばれる、というお話。
でもねえ、やっぱりこれ、男性目線の映画なのですねえ。
1951年のサイゴンが舞台なので、仕方ないといえば仕方ないのでしょうけれど、それを描こうという時点で監督の方向性がわかる気がします。
一方、1951年といえばまだインドシナ戦争の最中。
戦争の影はあるものの、商家の主は戦争とは無縁の生活をしており、庶民の生活もいたって平穏に行われている様子も描かれています。
そして、だからこそ、ベトナム女性の強さ、凛々しさ、美しさが際立つともいえます。
それもまた男性目線であることに変わりはないのですが。
とにかく、映像が美しい。
そして、
ベトナムってこんな国なのね、という発見があること間違いなし。
ホーチミン市で何軒かのカフェやレストランに入りましたが、この映画にあるような家具調度、そして雰囲気があり、とても素敵でした。
これを見たら、きっとベトナムに行きたくなると思いますよ。