「悪女」にまつわるメキシコの伝説がある。
「マリンチェ」の伝説だ。
十六世紀のはじめ、エルナン・コルテスがアステカを滅ぼしたとき、敵将の通訳となったタバスコ族の女性だ。
それ以来、メキシコの男たちは自分を裏切った女を「マリンチェ」と呼ぶ。
自分自身の過ちや女遊びは棚に上げて。
荒唐無稽なエピソードを積み重ねているように思えるこの小説で、メキシコ系の容貌の(背が小さく、名前からしてラティーノっぽい)作者を捨てて、別の白人男のもとに走ったガールフレンドを彷彿とさせる登場人物たち(ジプシーの血のまざったエリザベス、黒人の血のまざったカメルーン)が作者に対して批判の言葉を浴びせる。
まさに「マリンチェ」の逆襲だ。
(つづく)