越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

ロベルト・コッシーのサッカー部長日記(5)

2015年05月04日 | サッカー部長日記

4月26日(日)

アメリカの人気作家セローの作品の中に、19世紀フランス作家フローベールのアフリカ紀行に言及する箇所があり、その言葉が引用されている。  

「旅は人を謙虚にする————世界の中で自分の占める位置がいかに小さいかを知ることができる」*(1)    

どのような文脈で、この言葉をフローベールが使っているのか。実際に『フローベールのエジプト』に当たってみたが、当該箇所が見つからない。セローの記憶違いではないだろうか。他の作家かフローベールの別の作品ではないのか。  

それはともかく、「旅は人を謙虚にする」とは、まさに言い得て妙である。  

「旅」には失敗がつきものだ。想定外のことがおこる。スケジュール通りにならないことが多い。だから、「失敗」や「事故」を楽しむぐらいの気持ちがないといけない。命を失ったり、大けがをしたりするような「失敗」でない限り、「失敗」こそが、われわれの「旅」のキャンバスをオリジナルな色彩で塗り込めてくれる。僕にとって、忘れられない「旅」には、すべて「失敗」が絡んでいる。  

モロッコで、外国人に絨毯(じゅうたん)を売る「土産物屋」に一時間近く拘束された「タンジール絨毯屋拉致事件」や、メキシコで、小学一年生たちを写真に撮ろうとして変質者扱いされた「メキシコシティ警察拘束事件」をはじめ、ドジな「失敗」が僕に自分自身の欠陥を教えてくれた。前者は、英語だけで世界を渡れると思っていた自分自身の「浅はかさ」を、後者はエキゾチックな風物に勝手にロマンを感じてしまう自分自身の「観光客のまなざし」の稚拙さを教えてくれたのである。

(写真:練習試合の風景)

   

きょうは、春らしい好天に恵まれた。八幡山のグラウンドに行き、山本真司君(政経3)に頼まれていた推薦状を2通わたす。春学期が始まって2週目、授業も忙しくなってきた。1年生は、朝から晩までびっしり授業スケジュールが詰まっている。当然、宿題や課題も出るから、要領よくこなさなければならない。サッカーの個人練習でも勉強でも、時間のある時にやろうではなくて、こまめに時間を作って、やらなければならない。それが出来る人と出来ない人で、きっと大きな差がでる。  

グラウンドの縁のコンクリートに腰を下ろして、練習試合を見ているあいだに、菊池創太君(法4)、柴田はじめ君(法2)と牛之濱溶(うしのはま・いるる)君(法2)から授業の相談を受ける。大学だから当たり前だが、どの学部でも難しそうな科目を学ばなければならない。  農学部の「細胞情報制御学」「分子発生学」「ICTベーシック」など、僕にはまったくちんぷんかんぷんだ。商学部の「市場調査論」「国際消費者論」にしても、法学部の「国際法」「民法総則」にしても、手強そうだ。  

さて、きのうは第5節、中央大学との試合が「味の素西が丘競技場」でおこなわれた。 結果は2−3で敗戦。初戦の順大戦と同じく、点を取られては追いつく展開。2-2から、今回は、後半に決勝点を中大に奪われた。  

明治が3点目を奪っていれば、「粘りの明治、強し」との見出しがスポーツ紙を飾っただろうが、世の中そうそう都合よく運ばない。  

試合後、栗田監督と神川総監督は、試合前に掲げたきょうのテーマ「貪欲と謙虚」のうち、「謙虚」を強調。それぞれが「謙虚」に敗戦を受け入れて、明日からの練習に活かそう、というアドバイス。  

「旅は人を謙虚にする」をもじって言えば、「敗戦は、選手を謙虚にする」  

学生たちにとって、試合は「旅」みたいなものかもしれない。失敗がつきものだから。失敗すれば、がっかりする。挫折する。自分のつたなさ、下手さが身にしみる。だが、それは終わりではなく、個人にとってもチームにとっても、「成長」の第一歩。そう考えて、失敗を糧にしたい。  

実は、それはスタッフも同じこと。敗戦で、選手だけでなくわれわれスタッフも成長する。選手たちに逆に教わるのである。それがチームプレーの良いところ。  

きのうの試合では、明るい材料もあった。FW土居柊太(しゅうた)君(政経2)が初ゴールを決めてくれたし、DFの鳥海晃司君(商2)もリーグ戦初出場ながら、守備を無難にこなした。相変わらず和泉竜司キャプテン(政経4)は、同点弾を決めてくれて好調である。  

来週の慶応戦が楽しみだ。

註(1)ポール・セロー『ダーク・スター・サファリ』(北田絵里子訳、英治出版、2012)74ページ。

(写真上:和泉のゴール。向こうは直前に強烈なシュートを放った高橋) (写真下:土居のリーグ戦初ゴール)

 

(写真:日曜日、八幡山の土居)