そんなロサンジェルスの臍からまっすぐ東に走るハイウェイ一〇号線(愛称・バーナディーノ・ハイウェイ)を十五キロほどいったエルモンテという町がこの小説の舞台だ。
一般には、メキシコ系のストリートギャングが縄張り争いに明け暮れる暗いステレオタイプなイメージしか持たれていない。
というか、全米の他の地域の人々には無名で、ありきたりな住宅地とモールだけのイメージしか浮かばない郊外の町を、作者は言葉の魔力だけで「神話」の町に変えてみせた。
カーネーションの花摘みに汗をながすEMF(エルモンテ・フロレス)の刺青をいれたチョロ(ギャングの若者)や父の目を盗んでライムをかじってばかりいる娘、畑仕事が終わるとウジ虫のはいったメスカル酒を飲みながらドミノに興じる農場労働者、あるいは日曜日の朝にオアハカ出身のおじいさんの経営するメヌード(モツ肉のスープ)の屋台やグアダルーペの聖母教会に通うメキシコ人住民など、血の通った人々が登場する。
とりわけ、僕にはクランデロ(民間療法師)のアポロニオが印象深い。
薬草の知識だけでなく、ハイチのヴードゥ、キューバのサンテリアにも詳しく、死んだリトル・メルセドを調合薬で生き返らせる。
のちにバチカンから使者がやってきて商品は押収され、彼は破門される。
(つづく)
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