四日市から南へ8駅、急行で10分、伊勢若松は静かな分岐駅だ。
初めましての町だから、取り敢えず町を探索、東へ10分も歩けば伊勢湾が見えるはずだ。
ジリジリ照りつける午後の陽に汗が噴き出す頃、短かい防波堤に白い灯台、小さな若松漁港に行き止まる。
紺碧の海、対岸にコンビナートが点々と、滑るように湾を出て行くコンテナ船、悪くない。
調べてきた訳ではない。漁港の手前で清水清三郎商店を発見、これ偶然。今宵は「作」に酔うことを決めた。
4番線に停まっている鈴鹿線はワンマン運転の3両編成、どうやら湯の山線と共通運用らしい。
この時期に鈴鹿市内でお座敷があるのか?芸妓さんが数名乗り合わせている。
鈴鹿線はわずか5駅、8.2キロの路線、名古屋線と分岐をするや緑豊かな田圃の中を走っていく。
鈴鹿市駅の近くには神戸城址がある。かつては信長の三男・神戸信孝が築いた五重六階の天守があった。
3両編成は鈴鹿市駅で上り列車と交換した後、10分の短距離走を終えて、平田町駅の車止に行く手を塞がれる。
鈴鹿市〜平田町は1950年代、鈴鹿市の工場誘致による大規模な工場進出により、通勤輸送のために延伸した。
小さな終着駅だけど、駅前の交差点まで足を進めると、旭化成鈴鹿製造所が目に飛び込んでくる。
一辺が1キロはあろうかと思う工場を行き過ぎると、さらに広大な本田技研工業鈴鹿製作所がどこまでも続く。
もの作りの町・鈴鹿のスケール感を足で感じる。出張帰りの革靴なのでもうくたくたなのだ。
っと言うことで、鈴鹿山脈に日が沈んだら、終着駅近くのすし居酒屋でお約束の地酒「作」を愉しむ。
先ずは純米酒 “穂乃智”、甘いフルーツの様な香りだけど、喉越し良く後味はすっきりとキレが良い酒だ。
刺身盛合わせの舟には、さっぱりと夏のごちそう “鱧の梅肉添え” が乗って美味しい。
“冷奴” とふっくらサクサク “キスの天ぷら” を肴に二杯目は純米吟醸 “奏乃智” をいただく。
升を迎えに行って、爽やかですっきりとした香り、キリッとした辛口の酒を口に含む。至福だ。
“雅乃智 中取り” はエレガントな純米大吟醸、冷やして飲むと美味しい、今宵はこれで〆る。
大好きな “ネギトロ” と “ねぎさば” を抓みながらちびりちびり、もの作りの町で「作」に酔う鈴鹿の夜なのだ。
近畿日本鉄道・鈴鹿線 伊勢若松〜平田町 8.2km 完乗
キッスは目にして / ヴィーナス 1981