住宅街の中から飛び出て来たかのように、8000系の8連が最徐行で競馬場通りの踏切を通過する。
平日は2両編成が1番線から発着するのに対し、休日は堂々8両編成が2番線から発着する。
京王線の特急が臨時停車する東京競馬開催日、東府中駅の駅員さんは忙しなく立ち回る1日になる。
特急が吐き出す多くの乗客を、同じホームの反対側で府中競馬正門前行きが受け止める。
今日の旅は0.9km、ここ最近にも増して極端に短い旅になる。
2番線をゆっくりと滑り出した8000系8連は、旧甲州街道を挟んで浅いV字で京王線と離れていく。
そしてすぐさま9000系8連とすれ違う、こんな短い路線ながら堂々たる複線なのだ。
席が温まる間もなく進行方向右側のドアが開く。ここまで2分、ファンは一斉に進行方向の出口へと歩き出す。
ご夫婦に女性グループ、子ども連れも混じって、競馬場への客層はずいぶん変わったと思う。
赤鉛筆を耳に挟んだ御同輩など何処にも居ない。どうもボク一人が感覚が古い様だ。
府中競馬正門前駅の看板を見つめるのは黄金の馬(アハルテケ)像、必勝願掛けの人気のスポットだ。
アハルテケは非サラブレッドの品種で、中央アジアのトルクメニスタンが原産らしい。
改札口と東京競馬場のメインエントランスはペデストリアンデッキで直結しているから、
降車客のほとんどは、そのままエントランスへと流れていく。
コイン2枚を券売機に入れて入場券(QRチケット)を購入する。今どきなぜ現金のみなのだろう?
エントランスとメインスタンドとを結ぶデッキの下にパドックが見えてくる。
ファンが鈴なりになってパドックを囲み、馬の歩様やイレ込みの気配を探っている。
いやぁ、素人のボクからすると、馬たちの豊な個性を見ているだけでも興味深い。
パドックからスタンド下の通路を抜けると、青々とした芝生のコースが広がっている。
その内側はダートコース、この緑と白のコントラストがキレイだ。
遥か向こうにスターティングゲートが見えて、その先に中央フリーウェイが西へ流れている。
振り返ると、仰ぎ見るようなフジビュースタンド、22.5万人を収容するというから桁違いだ。
勝馬投票券発売所からスタンドから、ゴール前広場に観客の流れがあるなぁと眺めていたら、
いつの間にかレースがスタートしている。
バックストレッチから3コーナーあたりの展開では静まり返っていたスタンドは、
4コーナーからホームストレートに入るとウォーという振動が徐々に大きくなって、
ゴールラインでそれは最高潮に達する。
勝馬投票券を買わない呑み人は、どよめきに背を向けて、一杯やれるスポットを探す。
4階だったか5階だったか、ターフィーくんが並ぶ先に頃合いのテナントを見つけた。
食券制なのと気怠そうなスタッフには少し興醒めするが、まずは基本に忠実に “生ビール” から。
しかしながらこの “おつまみチャーシュー” は、ねぎ塩だれでなかなかの美味。
寒風に晒された後だから、なんてことはない “おでん盛り合わせ” の温もりが嬉しい。
二杯目の “ウイスキーハイボール” はレモンの具合が絶妙で、何杯か重ねられそうな味わいだ。
案外と満足度を上げた時間を過ごして、短い短い競馬場線の旅を終える。
帰り道はルートを変えてフジビューウォークへと流れてみる。
この夕陽のトンネルが、ビクトリーロードかルーザーズウェイになるかは、それぞれなのだ。
京王競馬場線 東府中〜府中競馬正門前 0.9km 完乗
中央フリーウェイ / 山本潤子