山上の茶樓から東シナ海が見おろせる。
夏至過ぎの夏の太陽も、さすがに没する時刻になって、空は藍に海は灰に、少しずつ色を変えていく。
テラスの隣の席に美しい女(ひと)が座っていた。すこし憂いを帯びた横顔がキレイだと思った。
スマホに触れるでもなく、ページを繰るでもなく、ただ空と海を眺めているようだ。
海の向こうから訪ねてきた旅行者か、台湾の方か知る由もない。
私が席を立つ頃になっても、彼女は時折山肌を上ってくる海からの風に、肩までの黒髪を靡かせていた。
秋を装う季節になって、彼女はどこかを、こんどは微笑みを湛えて旅しているだろうか。なんだか気になる。
ずいぶん長くかかってしまった夏の台湾紀行も、これで筆を置くことにしたい。
<40年前に街で流れたJ-POP>
恋の予感 / 安全地帯 1984