「それにしても本当に嬉しいよ。コブタネエサンにまたこうして会えるなんて、夢にも思わなかったんだから」
コブタクンはコブタネエサンの手を取って、本当に嬉しそうにそう言いました。コブタクンの手はふっくらと柔らかくて温かでした。
「本当にコブタクンなの?」
まん丸い顔のコブタクンをじっと見つめて、コブタネエサンはそう言いました。
「あたり前さ!ぼくは正真正銘のコブタクンだよ。あ!そうか。ぼくがこんなに丸々と太っちゃったからわからないんだね?あれ?そういえば君は雲の上にいた時と同じままだけど…、じゃあ魔女の実を食べたってわけじゃないんだね」
コブタネエサンはこくんとうなずきました。
「コブタクンとコブタママが急にいなくなって、それで魔女のところに行ったの。コブタクンを返してって。そしたら魔女が、コブタクンのところに連れて行くようにってこのバンノトリさんに言ったの。それで…」
「そうなんだ!いやぁ魔女にもバンノトリにも本当に悪いことをしちゃったな。あぁバンノトリ、あの時はだましちゃって本当にごめんね。でもおかげでぼくはこんなに素敵な世界に来ることができたよ。ありがとう!」
バンノトリが、いえいえ…と首を振っていると、家の奥から声がしました。
「お客さまなの?」
コブタネエサンはハッとしました。このやさしい声は、まさにコブタママの声です。
「そうなんだ!とっても素敵なお客さまだよ、ママ!」
「あら、どなたかしら」
そう言いながら出てきたのは、コブタママでした。でもやっぱり、コブタネエサンが知っているあのコブタママではありませんでした。
「まぁ、コブタネエサンとバンノトリじゃないの。コブタネエサン、あなたも魔女の実を食べてこっちの世界に来たの?…その割には…ほっそりしたままねぇ」
コブタママはコブタクンよりも丸々として、肌はつやつやと輝いて見えました。
「そうなんだ。コブタネエサンは、ぼくたちに会うためだけにここに来てくれたんだって。バンノトリに乗ってね」
「まぁそうなの。大変だったでしょうねぇ。そうそう、とてもおいしいおやつをいただいたばかりなのよ。今持ってくるわね」
コブタママがそう言っていそいそを奥に戻っていくのをぽかんと眺めていたコブタネエサンですが、ふと魔女の言葉を思い出しました。
「あの!」
コブタネエサンの声にコブタママが立ち止って振り返りました。
「こっちの世界のものは食べちゃダメって、魔女が…」
「あら。どうしてかしらね。でも魔女がそういうのならダメなのね、きっと」
「もしかして、こっちの世界のものを食べたら、魔女の実を食べた時と同じようになっちゃうんじゃない?」
コブタクンとコブタママはテーブルの椅子に座り、コブタネエサンにも椅子をすすめました。
「だってほら、こっちの食べ物ってどれもこれもびっくりするくらい美味しいじゃない?」
「そうねぇ。いわれてみればそのとおりね。コブタネエサンがわたしたちみたいな体になってしまったら、きっともうバンノトリには乗れないわね」
そう言うとコブタママは楽しそうに笑いました。
コブタネエサンは改めてコブタクンとコブタママの顔をしげしげと見つめました。顔も体も、雲の上にいた時とは比べ物にならないほど丸くなっていますが、どうしてだか二人ともがとても楽しそうで幸せそうに見えました。
「いったい何があったの?」
ようやく落ち着きを取り戻したコブタネエサンがそう聞きました。
「こっちに来たときのこと?それはね、」
コブタクンは魔女の実を食べに行ったことをコブタネエサンに話しました。一度食べたらもう忘れられなくなったこと、バンノトリをだまして魔女の実をたらふく食べたこと。そして雲の下に落ちてしまったこと。コブタネエサンは目を真ん丸にして話を聞いていました。
「気が付いたらこの草原にいたんだ」
コブタクンがそう言うと、コブタネエサンはすかさず聞きました。
「じゃあ、コブタママはどうして?」
「あら、わたし?」
コブタママは思い出すように話してくれました。
「いつの間にかこの子がいなくなったから、心配になって外に出てみたの。そうしたらなんだかとってもいい香りがするじゃない。なんだかわからないままにその香りの方向に行ってみたら、魔女の庭に着いてしまったの」
コブタママはそこまで話すと、テーブルに置いてあったコップで何かを飲みました。コブタネエサンにはそれが何かわからなかったけれど、それは雲の上の町ではかいだことのない、とてもおいしそうなにおいがしていました。
「魔女の庭の魔女の木には魔女の実がたくさんたくさんできていたわ。魔女の実を見るのなんて初めてだったから驚いていたら、なんとまぁ魔女が来たの。そして言うのよ、『おまえさんの息子さんはこの実を食べて雲の下の世界に行ってしまったよ』って」
コブタネエサンは身を乗り出してコブタママの話を聞きました。
「息子のところに行かせてちょうだいって言ったらね、魔女は『だったらこの実を食べなされ』って言うの。だから食べたのよ。そうしたらもうおいしくておいしくて…」
そう言うコブタママの顔はとろけてしまいそうでした。
「本当においしかったよね」
コブタクンも思い出すようにうっとりとそう言いました。
「それで?それでどうなったの?」
コブタネエサンが聞くと、コブタママはにっこり笑って言いました。
「こうなったのよ」
コブタクンとコブタママは、とても楽しそうに笑いました。こんなに楽しそうに笑うところを見るのは初めてでした。コブタクンとコブタママが、知らない間に(でもほんの数日の間に)とても変わってしまったような気がして、コブタネエサンは少し戸惑ってしまいました。そしてふと窓の外へ目をやったその時、
「きゃー!」
とコブタネエサンは叫び声をあげて、椅子から転げ落ちるようにしてテーブルの下にあわてて隠れました。
コブタクンはコブタネエサンの手を取って、本当に嬉しそうにそう言いました。コブタクンの手はふっくらと柔らかくて温かでした。
「本当にコブタクンなの?」
まん丸い顔のコブタクンをじっと見つめて、コブタネエサンはそう言いました。
「あたり前さ!ぼくは正真正銘のコブタクンだよ。あ!そうか。ぼくがこんなに丸々と太っちゃったからわからないんだね?あれ?そういえば君は雲の上にいた時と同じままだけど…、じゃあ魔女の実を食べたってわけじゃないんだね」
コブタネエサンはこくんとうなずきました。
「コブタクンとコブタママが急にいなくなって、それで魔女のところに行ったの。コブタクンを返してって。そしたら魔女が、コブタクンのところに連れて行くようにってこのバンノトリさんに言ったの。それで…」
「そうなんだ!いやぁ魔女にもバンノトリにも本当に悪いことをしちゃったな。あぁバンノトリ、あの時はだましちゃって本当にごめんね。でもおかげでぼくはこんなに素敵な世界に来ることができたよ。ありがとう!」
バンノトリが、いえいえ…と首を振っていると、家の奥から声がしました。
「お客さまなの?」
コブタネエサンはハッとしました。このやさしい声は、まさにコブタママの声です。
「そうなんだ!とっても素敵なお客さまだよ、ママ!」
「あら、どなたかしら」
そう言いながら出てきたのは、コブタママでした。でもやっぱり、コブタネエサンが知っているあのコブタママではありませんでした。
「まぁ、コブタネエサンとバンノトリじゃないの。コブタネエサン、あなたも魔女の実を食べてこっちの世界に来たの?…その割には…ほっそりしたままねぇ」
コブタママはコブタクンよりも丸々として、肌はつやつやと輝いて見えました。
「そうなんだ。コブタネエサンは、ぼくたちに会うためだけにここに来てくれたんだって。バンノトリに乗ってね」
「まぁそうなの。大変だったでしょうねぇ。そうそう、とてもおいしいおやつをいただいたばかりなのよ。今持ってくるわね」
コブタママがそう言っていそいそを奥に戻っていくのをぽかんと眺めていたコブタネエサンですが、ふと魔女の言葉を思い出しました。
「あの!」
コブタネエサンの声にコブタママが立ち止って振り返りました。
「こっちの世界のものは食べちゃダメって、魔女が…」
「あら。どうしてかしらね。でも魔女がそういうのならダメなのね、きっと」
「もしかして、こっちの世界のものを食べたら、魔女の実を食べた時と同じようになっちゃうんじゃない?」
コブタクンとコブタママはテーブルの椅子に座り、コブタネエサンにも椅子をすすめました。
「だってほら、こっちの食べ物ってどれもこれもびっくりするくらい美味しいじゃない?」
「そうねぇ。いわれてみればそのとおりね。コブタネエサンがわたしたちみたいな体になってしまったら、きっともうバンノトリには乗れないわね」
そう言うとコブタママは楽しそうに笑いました。
コブタネエサンは改めてコブタクンとコブタママの顔をしげしげと見つめました。顔も体も、雲の上にいた時とは比べ物にならないほど丸くなっていますが、どうしてだか二人ともがとても楽しそうで幸せそうに見えました。
「いったい何があったの?」
ようやく落ち着きを取り戻したコブタネエサンがそう聞きました。
「こっちに来たときのこと?それはね、」
コブタクンは魔女の実を食べに行ったことをコブタネエサンに話しました。一度食べたらもう忘れられなくなったこと、バンノトリをだまして魔女の実をたらふく食べたこと。そして雲の下に落ちてしまったこと。コブタネエサンは目を真ん丸にして話を聞いていました。
「気が付いたらこの草原にいたんだ」
コブタクンがそう言うと、コブタネエサンはすかさず聞きました。
「じゃあ、コブタママはどうして?」
「あら、わたし?」
コブタママは思い出すように話してくれました。
「いつの間にかこの子がいなくなったから、心配になって外に出てみたの。そうしたらなんだかとってもいい香りがするじゃない。なんだかわからないままにその香りの方向に行ってみたら、魔女の庭に着いてしまったの」
コブタママはそこまで話すと、テーブルに置いてあったコップで何かを飲みました。コブタネエサンにはそれが何かわからなかったけれど、それは雲の上の町ではかいだことのない、とてもおいしそうなにおいがしていました。
「魔女の庭の魔女の木には魔女の実がたくさんたくさんできていたわ。魔女の実を見るのなんて初めてだったから驚いていたら、なんとまぁ魔女が来たの。そして言うのよ、『おまえさんの息子さんはこの実を食べて雲の下の世界に行ってしまったよ』って」
コブタネエサンは身を乗り出してコブタママの話を聞きました。
「息子のところに行かせてちょうだいって言ったらね、魔女は『だったらこの実を食べなされ』って言うの。だから食べたのよ。そうしたらもうおいしくておいしくて…」
そう言うコブタママの顔はとろけてしまいそうでした。
「本当においしかったよね」
コブタクンも思い出すようにうっとりとそう言いました。
「それで?それでどうなったの?」
コブタネエサンが聞くと、コブタママはにっこり笑って言いました。
「こうなったのよ」
コブタクンとコブタママは、とても楽しそうに笑いました。こんなに楽しそうに笑うところを見るのは初めてでした。コブタクンとコブタママが、知らない間に(でもほんの数日の間に)とても変わってしまったような気がして、コブタネエサンは少し戸惑ってしまいました。そしてふと窓の外へ目をやったその時、
「きゃー!」
とコブタネエサンは叫び声をあげて、椅子から転げ落ちるようにしてテーブルの下にあわてて隠れました。