高倉健が永谷園『お茶づけ海苔』のイメージキャラクターに起用され、8年ぶりにテレビCMに出演している。4日に初めてそのCMを見たとき、申し訳ないが、目を背けたくなった。
このCMのコンセプトは「ひたむきに歩く」で、健さんの“映画一筋”の俳優人生を、企業理念の「味ひとすじ」と重ね合わせ、長い道のりを歩み、ふと一息ついた時に、これまでの感謝の気持ちがそっと口をついて出るというものだという。映像は、健さんの歩く姿、立ち止まり水筒から水を一口。そして、画面いっぱいに映し出された健さんの顔、しばし沈黙の後、「ありがとうございます」とつぶやく。
たしかに健さんの雰囲気がよく現れている静かなCMである。が、そこにはもうかつての高倉健の面影はない。深く刻まれたシワは男の年輪ではあるが、男の美とはほど遠く老いてしまった健さんは見たくなかった。人間だれしも老いてゆくものだが、美しいものの老いは、並のそれよりはるかに無残な老醜を見せることがある―と、私は思う。
健さんが銀幕デビューしたのは1956年、私は15歳の中学3年生で、今から56年も前のことである。だから、最初に見た映画など覚えているわけもないが、たしか楽しい青春映画だったと思う。当初は、大学生とか新米サラリーマンとか、強くて優しくて明るい青年の役が多く、さわやかな好青年のイメージで売り出した大型新人であったと記憶している。
それがいつの間にか、『網走番外地』シリーズに代表されるヤクザ役で有名になっていった。苦みばしったいい男で、目つきの鋭い顔つきはヤクザ役がピッタリ、たしかにカッコよかったねえ。東映のヤクザ路線はそれから20年近く続き、高倉健といえばヤクザ映画しかなかった。が、そんな彼の転機となったのが、1977年の『幸福の黄色いハンカチ』ではなかったかと思う。
それ以後、壮年期に入ったの彼の魅力は最高潮に達し、日本の映画史に残る数々の名作に出演、数々の映画賞を受賞した。“男”を演じさせたら右に出る者はいない。1989年の『あ・うん』1999年の『ぽっぽや』2001年の『ホタル』、この頃の健さんのいぶし銀のようなしぶい演技は、70歳という年齢からにじみ出る健さんの生き方そのものであったかと思う。
この頃から健さんは公の場には姿を現さなくなったようで、私の健さんのイメージもそこでストップしたままだった。それだけに今回は見てはならないものを見たような気分で、少々ショックを受けている。
映画スターは一番すてきな時期を境に大衆の前から姿を消すべきで、老醜など見せてはならないのである。謎だからこそイメージも膨らむのであり、自分の一番美しい時を覚えておいてほしいと願うのが映画スターではないだろうか。スターは永遠に美しく、いつまでもカッコよくあらねばならないのである。ファンのために…。
読ませていただく内に、同い年と分かり
“やっぱり”と同感することしきり。
憧れの人が、久しぶりに見ると「ひどい・・」とおもわずガッカリ・・。自分だってそうなのにね
これから楽しみにしています。
コメントありがとうございました。
昔の銀幕のスターの私生活は謎に包まれていました。原節子などは一切表に現れることなく、それだけに想像は膨らみましたよね。
男でも70歳くらいまででしょうか。ファンを失望させないでもらいたいですね。
自分の老いに気付かないはずはないのに、なぜ健さんはCMを引き受けたのでしょうね。
往年のりりしさの印象が強すぎる年代の方は老醜と見えるかもしれませんが、私は、C・イーストウッド(健さんの一つ上の年齢)のごとく、それを凌駕して余りある、魅力ある老いだと思います。しわの一つ、シミの一つが素敵です。
そんな方はなかなか存在しないから、なお素敵だと思います。
だれにも年相応の魅力というものがあります。
特にハリウッド俳優のC.イーストウッドやS.コネリーなどは、今なおすてきですね。
先日、NHKで2回にわたり、映画「あなたへ」の撮影中の健さんを追ったドキュメント番組がありました。
あれを見ると、やはり健さんはすてきだなあと思いました。
目深にかぶった帽子姿、健さん独特の雰囲気がありますね。
多分、永谷園のCMは顔がアップ過ぎたのでは、「あなたへ」の健さんとは大分違うように感じました。
どういうわけか、最近、あのCMが流れないのですが、評判はどうだったのでしょう。