ずっと昔から、私はそれを追いかけていたものです。
しかし、追いかけても追いかけてもそれとの距離はいっこうに縮まらず、きっと永久に辿り着くことはできまいとなかば諦めたりもしたものです。
それでも諦められない私は、無い知恵を絞って、誰か信頼できる友(その人は決してその場を離れない)が私のそれに向かって走るのを見ていてくれれば、その友の目には私がとうとうそれに到達したように見えるのではないかと思い付いたりもしたものです。当然、この思い付きも成功しませんでした。結局のところ、私のところからそれまでへはあまりに遠過ぎ、そして私自身が実感しない限りはやはり到達したことにはならないと気が付いたものですから。
それへの憧れと焦燥をきりもなく繰り返すと思われた私の生涯に、昨日、ささやかで大きな転機が訪れました。私はついに、私が憧れる対象そのものに比べるとごく小さなものに過ぎませんが、しかし確かにその小さなかけらをこの手に収めることに成功したのです。
汚れた手を洗いにいったら、そこにそれはありました。
それとは、つまり、これです。
(それとは、つまり、虹)
このように、とうとう虹を手に入れてしまった。私の無能の象徴である左手に、それを載せてやった。こんなふうに実現するとは思わなかった。実現可能な望みだとは思っていなかった。
プリズム。
どうして私はこれまで、そのことに気が付かなかったのだろう。私の幻想は、科学とは折り合わないような気がしていたけれど、それは逆だった。もっと科学と出会わなければならないということを、今こそ心から実感した。
これは小さいけれど美しい鍵です。いつかあの空にかかる大きな虹を手にすることも、もはや不可能ではないような気がしてきました。ついに大いなる虹へと踏み込んだ私が喜びのあまり絶叫する姿が目に浮かぶ。気を失ってしまわないように、今から心構えをしておかなければならない。
「しかし、そうは言っても、虹の中に入れたとしても、そのときにはやはり君自身にはそのことが分からないだろう」という人もいるかもしれません。まあ、待て。私にもそのくらいは分かっている。だが、なにかをまだ見落としているような気がするのだ。
そもそも、望むことのできるすべては、実現不可能ではないが故に望むことができるのに違いない。さあ、考えろ、考えろ。もっとよく見ろ。鍵穴は、どこにあるんだ。
今世紀最大の発見に、わずかばかりですが近づきました。そこへ辿り着くその日までは、この小さな虹を楽しみたいと思います。気が付いてしまった私は、なにをもなし得ないと思われた左の手のひらにさえ、望むだけの虹を(小さいけれど)、日の当たるうちはいつでも映してみせることができるのです。
しかし、追いかけても追いかけてもそれとの距離はいっこうに縮まらず、きっと永久に辿り着くことはできまいとなかば諦めたりもしたものです。
それでも諦められない私は、無い知恵を絞って、誰か信頼できる友(その人は決してその場を離れない)が私のそれに向かって走るのを見ていてくれれば、その友の目には私がとうとうそれに到達したように見えるのではないかと思い付いたりもしたものです。当然、この思い付きも成功しませんでした。結局のところ、私のところからそれまでへはあまりに遠過ぎ、そして私自身が実感しない限りはやはり到達したことにはならないと気が付いたものですから。
それへの憧れと焦燥をきりもなく繰り返すと思われた私の生涯に、昨日、ささやかで大きな転機が訪れました。私はついに、私が憧れる対象そのものに比べるとごく小さなものに過ぎませんが、しかし確かにその小さなかけらをこの手に収めることに成功したのです。
汚れた手を洗いにいったら、そこにそれはありました。
それとは、つまり、これです。
(それとは、つまり、虹)
このように、とうとう虹を手に入れてしまった。私の無能の象徴である左手に、それを載せてやった。こんなふうに実現するとは思わなかった。実現可能な望みだとは思っていなかった。
プリズム。
どうして私はこれまで、そのことに気が付かなかったのだろう。私の幻想は、科学とは折り合わないような気がしていたけれど、それは逆だった。もっと科学と出会わなければならないということを、今こそ心から実感した。
これは小さいけれど美しい鍵です。いつかあの空にかかる大きな虹を手にすることも、もはや不可能ではないような気がしてきました。ついに大いなる虹へと踏み込んだ私が喜びのあまり絶叫する姿が目に浮かぶ。気を失ってしまわないように、今から心構えをしておかなければならない。
「しかし、そうは言っても、虹の中に入れたとしても、そのときにはやはり君自身にはそのことが分からないだろう」という人もいるかもしれません。まあ、待て。私にもそのくらいは分かっている。だが、なにかをまだ見落としているような気がするのだ。
そもそも、望むことのできるすべては、実現不可能ではないが故に望むことができるのに違いない。さあ、考えろ、考えろ。もっとよく見ろ。鍵穴は、どこにあるんだ。
今世紀最大の発見に、わずかばかりですが近づきました。そこへ辿り着くその日までは、この小さな虹を楽しみたいと思います。気が付いてしまった私は、なにをもなし得ないと思われた左の手のひらにさえ、望むだけの虹を(小さいけれど)、日の当たるうちはいつでも映してみせることができるのです。