【半透明記録】というこのブログのタイトルについて、今さらながら考えました。なんだろう、このタイトルは。
はじめ私の頭にあったのは恐らく「はっきりとは言えない、なんとない言葉で、どうにか書こう」ということだったのだと思います。私はここに書くときには断定ということを避けて避けて、「…という気がします」、「もしかすると」、「かもしれない」、「ということではないだろうか」、などなどとどこまでも遠回しに書くことに専念してきました。断定するということは怖い。
言い切ってしまうことが怖い私は、しかし一方では、乱暴に、感情的に、投げ捨てるように湧きあがる言葉をそのままに書き散らしてしまうことがあります。そういう言葉は、あとで読み返してみても、ちくちくと尖っていて、あまり心地よいものではありません。暴力的すぎる。
私はもっと静かで穏やかな言葉を使いたいのです。もっと透明な言葉を、それが言葉であることがわからないほどに透明な言葉を見つけられたら、私は不用心に誰かを傷つけたりすることなく、私の心をその言葉に乗せて伝えることができやしないか。
【半透明記録】というのは、私のなにげない思いつきによる名付けではあったのですが、実は私の本質的な願望に迫る、なかなか的確な名前であったのかもしれません。もっと透明になりたい。まだまだ濁って、曇って、暗くて、全然向こう側を透かして見ることができないけれども、もっと透明になりたい。熱いままで、ある種の激しさを保ったままで、透明な言葉で、もっと透明な言葉で、私を覆うこの透明であるがゆえに見えない何かについて、いつか語ることができればいいのに。
そしてそれが、もっと透明に、私から発されたことすら分からないくらい透明に、速やかに、誰かに伝わるといいのに。
透明なものを、透明な言葉を、美しいものを、美しい言葉を、私は探しています。ここに何かを書き続けるということは、追いつけなくても触れられなくても諦めたくないという私の意志のささやかなあらわれです。そんなタイトルでした。【半透明記録】。とても、私らしい。きっともっと転げ回って、傷だらけになって、濁りを増して、透明からはほど遠くなっていくような気がします。でも、それでいい。それでこそ近づけるのではないかという予感もする。だって、私が転げ回るのは、みな透明なもののせいだから、あるのに見えないもののために、あるはずなのに届かないもののために、私は転げ回るのだから、それでいいはず。この届かない遠さ、それと私との距離くらいは測れるのではないかな。
透明。透明。半透明。今日もまた痛いことを沢山書いてしまったぜ。ついでに、過去記事を検索してみたら、私が《架空のミステリ小説》の一節として創作したおかしな文章を見つけたので、笑いの種にでもなるかと思い、ここに再録しておきます。
”君はいったい「透明」であるということを、どのように理解したつもりかね? 君が言うのは「透明」などではないよ。そんなのは違う。「透明」というのは、つまりだ………ああ…それは……………。
彼はそこまでしか話すことができなかった。だが息絶えた彼の言えなかった言葉は、見開かれたままの菫色の瞳から流れ出していた。
それは明るい夜の静寂だった。それは誰にも見られていないときの彼女のあるいは彼の微笑だった。空から一瞬で地上に達する稲妻の中心だった。初めて覚えた言葉だった。暗い海に射し込む明け方の虹だった。触れなかった指先だった。この丸い天球を、太陽を、宇宙を満たしつづけるものだった。
「透明」だった。
残された者のひとりが、それをそっと手に取ったのを、私は扉の向こうから覗いていた。 ”