【自動車】「EVはタクシーには向かないわ」--売り上げ2~3割減、タクシー運転手の"切実な悩み" [10/09]より転載
「いやあ、EVはタクシーには向かないわ」
こうつぶやいたのは、EV(電気自動車)を運転するタクシー運転手である。
太陽の日差しが照りつける夏のある日。筆者は、EVタクシーに乗る機会があった。
とある取材を終えて屋外に出たところにEVタクシーが停まっていたのだ。
次の取材地まで徒歩で行こうと思っていたが、乗車してみることにした。
HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)をはじめとするエコカーの中でも、走行時に排気ガスを一切出さないEVは、「究極のエコカー」と言われる。これまで、自動車メーカーにEVの乗り心地などを聞いたりしたことはあったが、実際の利用者に話を聞く機会はなかった。「EV初体験」である。
■日ごろの不満が大爆発
車は日産自動車のEV「リーフ」だ。車内をのぞき込むと、口ひげを蓄えた運転手が
「どうぞ」と言って扉を開けてくれた。「近くで申し訳ないですが…」と言って行き先を告げると、運転手は「わかりました」と言ってアクセスを踏む。確かに、エンジン車の「ブルーン」という音がしない。なるほど。
「この車、EVなんですね。本当に静かだ」と私がつぶやくと、「そうなんですよ。
この前、病院の先生を乗せたんだけど、騒音がないのでゆっくり眠れるって言われてね。
よく指名してくれようになったよ」と運転手。環境に良いという理由から、女性客にも好評だと言う。
「どのくらいの距離を走れるんですか?」と聞くと、「エアコンをつけて高速道路を走ったりすると120kmくらいかな」と運転手。経済記者の性か、とっさに「売り上げが落ちるのではないですか?」と聞いた。
この質問で、運転手の会話のスピードが上がった。
「売り上げは2~3割は減ったね。だって長距離のおいしい客は断らなきゃいけないんだから。これはやるせないよ。だから会社の同僚はこれには乗りたがらない。そりゃそうだ、売り上げが減ることはわかってるんだから。だから会社でEVに乗ってるのは俺だけ。会社から多少の補助は出るけど、それでもトントンかな。それにこの車、色が青で目立たないんだよ。青い車なんて珍しくないし…」
日ごろの思いが一気に噴出したのか、待ってましたとばかりにEVの不満を話し続ける。
「そうなんですか」「それは大変ですね」と、聞いているうちに目的地に到着。
5分くらいのドライブだっただろうか。料金を払い、降りようとする私に運転手は言った。
「EVはタクシーには向かないわ。もう乗りたくないよ」
私は車を降り、次の取材に向かった。
■極寒の車内、エアコンなしでの一夜
1時間後。取材を終えて、最寄り駅に向かって歩き出した。だが、気になることがあった。
先ほど乗ったEVタクシー運転手の「もう乗りたくない」という言葉だ。乗りたくなければ
「乗らない」という選択肢もあるように思える。しかし、あの運転手は現に今、EVに乗っている。
それに、運転手はいろいろと不満を述べてはいたが、悲壮感はなく、聞いていた私も不快感はあまり感じなかった。何というか、苦労しながらもどこか楽しんでいるような印象を受けた。去り際に見た運転手の表情もどこか柔らかだった。(※続く)
◎http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121004/237633/?bv_ru
「いやあ、EVはタクシーには向かないわ」
こうつぶやいたのは、EV(電気自動車)を運転するタクシー運転手である。
太陽の日差しが照りつける夏のある日。筆者は、EVタクシーに乗る機会があった。
とある取材を終えて屋外に出たところにEVタクシーが停まっていたのだ。
次の取材地まで徒歩で行こうと思っていたが、乗車してみることにした。
HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグインハイブリッド車)をはじめとするエコカーの中でも、走行時に排気ガスを一切出さないEVは、「究極のエコカー」と言われる。これまで、自動車メーカーにEVの乗り心地などを聞いたりしたことはあったが、実際の利用者に話を聞く機会はなかった。「EV初体験」である。
■日ごろの不満が大爆発
車は日産自動車のEV「リーフ」だ。車内をのぞき込むと、口ひげを蓄えた運転手が
「どうぞ」と言って扉を開けてくれた。「近くで申し訳ないですが…」と言って行き先を告げると、運転手は「わかりました」と言ってアクセスを踏む。確かに、エンジン車の「ブルーン」という音がしない。なるほど。
「この車、EVなんですね。本当に静かだ」と私がつぶやくと、「そうなんですよ。
この前、病院の先生を乗せたんだけど、騒音がないのでゆっくり眠れるって言われてね。
よく指名してくれようになったよ」と運転手。環境に良いという理由から、女性客にも好評だと言う。
「どのくらいの距離を走れるんですか?」と聞くと、「エアコンをつけて高速道路を走ったりすると120kmくらいかな」と運転手。経済記者の性か、とっさに「売り上げが落ちるのではないですか?」と聞いた。
この質問で、運転手の会話のスピードが上がった。
「売り上げは2~3割は減ったね。だって長距離のおいしい客は断らなきゃいけないんだから。これはやるせないよ。だから会社の同僚はこれには乗りたがらない。そりゃそうだ、売り上げが減ることはわかってるんだから。だから会社でEVに乗ってるのは俺だけ。会社から多少の補助は出るけど、それでもトントンかな。それにこの車、色が青で目立たないんだよ。青い車なんて珍しくないし…」
日ごろの思いが一気に噴出したのか、待ってましたとばかりにEVの不満を話し続ける。
「そうなんですか」「それは大変ですね」と、聞いているうちに目的地に到着。
5分くらいのドライブだっただろうか。料金を払い、降りようとする私に運転手は言った。
「EVはタクシーには向かないわ。もう乗りたくないよ」
私は車を降り、次の取材に向かった。
■極寒の車内、エアコンなしでの一夜
1時間後。取材を終えて、最寄り駅に向かって歩き出した。だが、気になることがあった。
先ほど乗ったEVタクシー運転手の「もう乗りたくない」という言葉だ。乗りたくなければ
「乗らない」という選択肢もあるように思える。しかし、あの運転手は現に今、EVに乗っている。
それに、運転手はいろいろと不満を述べてはいたが、悲壮感はなく、聞いていた私も不快感はあまり感じなかった。何というか、苦労しながらもどこか楽しんでいるような印象を受けた。去り際に見た運転手の表情もどこか柔らかだった。(※続く)
◎http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20121004/237633/?bv_ru