田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

詩8 ブーゲンビリア  麻屋与志夫

2023-04-20 08:51:53 | 
詩8 ブーゲンビリア

ことしの夏
ブーゲンビリアは
咲かなかった
南国の真紅の花
文学作品でしかしらなかった
情熱の血ふぶきの花

ヨーカ堂のフロントの花屋で
鉢植えの花を妻と選んでいた
ときだね きみとあったのは
来春の市長選にはでるから よろしく
とあいさつされたのは

そのきみが 当選の報をきいたのは
臨死の床
そして息をひきとるまでの
百五十秒
にっこり と 笑って 死んだ
と 新聞は報じていた
きみはなにを考えていたのだろう

花を思え 咲かなかった真紅の
ブーゲンビリアを追慕せよ
一秒に一ひら花弁を造形せよ
ヒャクトゴジュウの花弁を
友の墓前に捧げよ

はじめて 友のしにあった
詩人は 死人のように
青い夏を生きています
ことしは冷夏
さむざむとした夏だ
ブーゲンビリアは 咲きません
きみのところでは
どうなんだい……

注 市長当選後、数秒で他界した稲川武君へ。

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詩7  誰もいない部屋で手をたたく 麻屋与志夫

2023-04-19 21:39:18 | 
詩7  誰もいない部屋で手をたたく

毎日の授業で話しすぎるので
のどのいたみがとれません
ヤスリをかけられたように
こそばゆくて
いたみます

塾生は遊びざかりのこどもたち
かれらの話声を封じようと
いたむ声帯をふるわせて
すませました
今宵の授業

誰もいない部屋にもどって
声が出ないので
手をたたいたら
ミュ―とムックがはしってきた
猫は足音をたてない
肉球が音を吸いとる
どうしてかな
とても力強い足音がした

誰もいない部屋で手をたたくと
カミサンのかわりに
ミュ―とムックがとんでくる


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詩6  鹿沼 詩可沼 麻屋与志夫

2023-04-19 14:40:18 | 
詩6  鹿沼 詩可沼

ぼくに一掬の詩魂があれば流れ出て詩の河にそそげ

猫の朝
猫は悪魔 なんていやねえ
悪魔は猫 なんて嘘よーね
魔導師の使い魔は 犬か豚
ミュ―とムック アタシとボクは宿主を見守る眼球
燦々と輝く黄金色の四球
二日酔いのご主人さまには
ウィスキー色に映える
四杯のストレートグラス

アタシはミュー 猫のなきごえ ちがうわー
ミュタントのミュー ネコデナイネコだわよ
ミューミューミューミューミューミューミュー
我が輩にはもう名前があるのでR
母ミュ―の胎内よりいでしときより6キロ
あったのでR なんていっちゃって 実は
不肖の息子 だったりして 名は無食
ムッツリスケベエのアノヒトハ
木喰上人の信奉者でありまして
そこで我が輩 名はムックウとはっします
水濁って 魚住む詩可沼にと湯あみしゃした
ナンッチヤッテ かっこつけちゃっているが
ねね なにも食わずにおおきくなった
無を喰らい6キロにいたった ぼくムック

巨漢の 宿主の のたまうく朝ごとの祝詞
おまえらホンマニ飢えたら
おれを 喰らえ 85キロの生肉だぞ
か細き 奥さまは こころの処女膜をふるわせて
いますこし 寝ていたいわ おねがい
ミュ―とムック ムックおまえ もう太らないで
ミッキーロークも肥え うちの宿六も肥ふとり
ああ男たちよ わたしの夢をさまさないで
また すやすやと 寝息をたて 白河夜船

朝だ朝だ 夜明けだ朝だ あさきゆめみて
詩を書こう
詩を書こう
ミチコよ 目覚めよ ミューとムック もうナクな
朝食のうたげに腹いっぱい詩可沼の水と固形食をやるぞ
詩可沼は朝から梅雨寒
詩の書ける日 仕事は休み 日常の死の日


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詩5  いまは黄泉の国にいるともだちに 麻屋与志夫

2023-04-19 09:07:06 | 
詩5   いまは黄泉の国にいるともだちに

ことしも葉桜の季節になった
どうして花をみずに葉をみにくるのだろう
花が咲くころは華やかすぎてきらいだ
人ごみのなかで花など見上げてたのしくなるなんておかしなことだ
いつもきみたちと会っていたのはここだ
千手山公園の天辺のベンチ
葉桜の下で故郷の街を見下して青春の夢を語り合った
政治家に、なりたかったきみ
お金もちになりたかったきみ
女の子にモテタクテいたきみ
演劇にうちこみたかったきみ
絵かきに、なりたかったきみ
小学校の先生になりたかったきみ
成功したものも挫折したものも
いまはみんな泉下のひと
さびしいよ さびしいよ
桜の葉をみあげながらいまぼくは言の葉をつむいでいる
いつになっても完成しない小説をかいている
いちばんひ弱だったぼくが長生きして
こうして言の葉を茂らせているなんて
不公平だよな
過去った遠い盛夏のアブラゼミの鳴き声
でも でもいますこし猶予をくれ
ぼくらの生きた
この街でのぼくらの青春を
ぼくがきみらとのことを書きとめるまで
いますこしそこでまっていてくれ
そのうち会いにいくから

2017,4

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詩4 朝 めざめると  麻屋与志夫

2023-04-18 22:06:49 | 
詩4  朝 めざめると

目をさます

目覚める
の あいだには
どんな感性のちがいがあるのか
目覚める という感じではないのだ
中年になってからは
目覚めるには
一日への希望の出発がある
目をさます 倦怠の闇にまだ捕らわれている

朝 目を覚ますのは
ミュとムック 
二匹の猫が起こしに来るからだ
きまった時間に律儀に寝どこに
もぐりこんでくる
かのじょとかれは
わたしがトイレに入っていると
ちゃんと
待っている
かおをかしげて二匹で低く「ニャァ」と朝の挨拶

おなかを空かしているときの猫は
すごくコケティッシュだ
食事をねだるときの猫は
すごくファンタスティックだ
ひともいつも飢えていればいいのに

飢えのためなら
目覚める

目を覚ます
もない
とび起きてさあ仕事だ

庭の紫陽花は咲いているか
無花果の木にかけた農薬は
カミキリ虫を駆除したか
黒竹は雨で傾いだままか

二匹の猫 ミュとムックが
起こしに来る
時間だ

注 この頃母猫ミューとその息子のムックがわが家にはいました。初代の猫の家族です。


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詩3 愛猫リリの旅たちに捧げる

2023-04-18 09:10:05 | 
詩 3 愛猫リリの旅たちに捧げる 

だれかに見られているようで
ふりかえって見上げる棚の上から
わたしたちを見下していた
リリはもういない。
うとうととネボケ眼でわたしたちを
くびをかしげて、眺めていた
リリ、の視線はもうない。

部屋の隅にツメトギ台がポツンと置いてある
バリバリと狩りにでる雄叫びのような
猛々しいツメトギの音はもう聞かれないのだね
リリ、リリ、さびしいよ。

ネズミをくわえてきたり
子雀をくわえてきたり
ビンボーな老人老婆の
わたしたちを養おうとしていた
けなげな勇姿
リリ、リリ、リリはもういない。

よびかけると
かわいいちいさな顔をかしげ
おおきなあくびをしていた
白く鋭い牙をのぞかせて
ワイルドなリリ
リリ、リリ、リリはもういない。

病院につれていく
キャリーバックのなかで
さいごに猫らしくニャオ―と
鳴くことができた
あれがリリ、リリのおわかれの挨拶だったのだね
リリ、リリ、リリ、リリはもういない。

さいごにニャオ―と猫らしく鳴けたね
リリ、リリのおわかれの挨拶
たしかにうけとったからね
リリ、リリこれからもいつもいっしょだ
オワカレナンカジャないよ
リリ、リリこれからもいつもいっしょだ
わたしたちと一体になったのだから

一晩泣き明かして
目蓋のはれあがった妻のひとみに
リリ、リリ、リリ、リリ、リリがいる。

いくら探しても見つからなくなった
サッカ―ボール
指で妻がハジクとリリがくわえて
もどってきた
手製のミニボール
それがふいにリリ、リリの遺体のわきに
あらわれた
リリが一晩よこになっていた
籐椅子のうえにあった
それを見て
妻はまた泣きだした
リリ、リリ、リリ、リリ、リリ、リリ
骨壷にこのボールはいれてやるからね
無限に広がるピッチで独りサッカ―
たのしみなさい
ナデシコ猫のリリよ。

よく見えるよ
よく見えるよ
リリの快活にとびまわる姿が
リリリリリリリリリリリリリリリリリリ
よく見えるよ
よく見えるよ
わたしたちはいつもいっしょだ
いっしよだ
わたしたちは
いつもいっしだ
リリよ

ビンボウな老書生はこんな即興の詩しか
リリに捧げられない
ゴメンよ。リリ。




在りし日のリリ

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詩2  リリよ  麻屋与志夫

2023-04-17 20:33:58 | 
詩2 リリよ

冷凍室をあけると薄緑のアイスノンが目につく
リリは一晩この人工の氷にひやされていた
ほんとうは
人肌であたためていたかったのだが
かなしくてそれができなかった
週刊誌大の氷のうえで
ひと晩独りぼっちだったのだね
リリ
つめたかったろう
リリ
さびしかったろう

こころぼそかったろう
くやしかったろう
病気にさえならなければ
まだまだ生きていられたのに
たった1年8カ月のいのちだったね

腐敗したっていい
腐臭を部屋に充満させたっていい
氷で冷やしておくなんてこと
しなければよかった
腐って
臭くて
リリのことがイヤニなっていれば
リリの
みにくい容姿をみていたならば――
こんなにかなしまなくてすんだ

リリ、リリ、リリ
おまえはさいごまで
かわいいかった

あまりにあいらしいので
「リリ、カワイイ」
ワタシタチノ言葉に応えて
目を細めて
よく――
くるりとよこになったね

あの
あいらしいすがた
いまでも目にうかぶよ

どうして人間のかんがえから
ぼくらはぬけだせないのだろう
かなしいよ
かなしいよ
氷のうえに置き去りにして
ゴメンよ
ほんとうは
庭の隅に埋めたかった
土葬にして
毎日涙をながして
おまえの上にそそいだら
猫の木の芽が
でたかもしれない
大木になったら
ぼくは
おまえに寄りかかって
まいにち、嘆きの詩を
きかせてやれたのに
おまえは
一握りの
骨と灰になってしまった

2016,5



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