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「あっ。純が呼んでいる。わたし、いくね。はやくGG、きてよ」
「GG!! どうしたの。はやくきて」
ミイマも呼んでいる。
ミイマが真っ直ぐ伸びた道路の先に見える。
小柄なミイマがさらに小さく見える。
「どうだ。署名しないか」
蛇のようにしっこい。
煙幕のなかの男の声をきいていると、でも……なつかしい。
なぜか、男の周りだけまだ煙が漂っている。
たのしかったゴールデン街での日々がよみがえる。
『初めての恋も友情もともによみがえってくる』
おかしなものだ。
あの黒光りのするカウンターにHと並んで飲んでいる。
小説家になりたいと彼が言う。
おかしい。
Hはバーテンのはずだ。
一晩で50枚も書いた。
と控えめに彼は言う。
「おれにお宅の半分でもソレだけ書ける筆力があったらな。良しとするのだかな。遅筆でいやになるよ」とGGが言っている。
「村木……半分で、良し……それ……ペンネームにイイな」
Hはとなりの小男をみている。
GGがいることなど忘れてしまったようだ。
「収穫の時期だけは、わたしにまかせてくれますか」
だめだ、そんな契約をするな。とはGGは言えなかった。
Hが文壇に華々しく登場うしたのはそれからまもなくだった。
そのころ、GGは田舎にもどっていた。
「私に小説書いて」と口癖のように言う女がHのそばにいた。
ふたりはむすばれたのだろうか。
「そうだ。よく覚えているな。収穫の時期だけ任せてくれればいいのだ」
GGは無視して走りだした。
「イイ条件だと思うぞ。もうジジイだ。いい加減でわが軍門に下れ」
GGはミイマの待つ街角にむかって走った。
「後悔するぞ!! バカもの!!! 最後のお誘いだぞ」
ミイマまでの距離が遠い。
妖物の――Vの気配を感じる。
鬼切丸をふるう。
Vを斬った手ごたえはある。
だが。
気配は迫ってくる。
斬る。
気配はうじゃうじゃしている。
あのまま東京にのこっていても……半分どころではない。
Hの十分の一の才能もないおれだ。
どうせゴールデン街で飲んだくれて死んでいたろう。
ミイマと会って平凡な日常をたのしく過ごすことができた。
これでよかったのだろう。
斬る。
突く。
斬る。
遠くでミイマが呼んでいる。
いくから。
いまいくから。
「村木。お前さん、田舎かから小説を応募するときは、ペンネームを使うのだろう」
「ああ。これから田舎で継がなければならない家業が麻屋なんだ。ウソ屋のきみのこともいろいろバラスゾ。麻屋がウソ屋を真似ても怒らないよな」
「クヤシカツタら、真似てみろ。チクショウ。バカやろう」
最高の別れの言葉だった。
「GG見てよ。ヤッラを壊滅させたのよ。青山で戦時中の地下壕の跡が陥没だって。うまくツクロッタものね。援軍が来るからね。百子たちが来るから。異能部隊も駆けつけてくれるから」
翔子が携帯を見せてくれている。なにも、見えない。
GGのみみには単車群のドドっという音が聞こえる。クノイチ48の美少女が近寄ってくる。ミイマが顔を寄せてくる。
「あなた、しっかりして。こんなのってウソよね」
ウソ。
Hが迎えに来たのかもしれない。
ない才能をふりしぼって、小説をかくことはない。
村木、お前の人生そのものが小説みたいだ。
いい小説は書かなかったが、小説の中にいるような人生を歩んだではないか。
それで、良しとするのだ。
「噛んでけばよかった。噛んでおけば、こんな、こんな別れに、ならなかった」
なにが起きているのだ?
なにが?
「火炎放射器を装備すればよかった。銃器ではVに歯がたたない」
勝則の声がする。
おれたちは負けたのか????
GGが握っていた鬼切丸。
ミイマの手にある。
翔子の手の鬼切丸。
純の鬼切丸。
勝則の鬼切丸。
「決着はやはり刀でか」
勝則が戦闘にもどっていく。
ミイマ、翔子、純が敵陣にむかって斬りこむ。
作者注。『』の内はゲーテのファウストからの引用です。
Hとはさてだれでしょう?
作者からのあなたへの挑戦です。
ヒントは、イーデスハンソンをペンネームとしたという1933生まれの作家です。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
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「あっ。純が呼んでいる。わたし、いくね。はやくGG、きてよ」
「GG!! どうしたの。はやくきて」
ミイマも呼んでいる。
ミイマが真っ直ぐ伸びた道路の先に見える。
小柄なミイマがさらに小さく見える。
「どうだ。署名しないか」
蛇のようにしっこい。
煙幕のなかの男の声をきいていると、でも……なつかしい。
なぜか、男の周りだけまだ煙が漂っている。
たのしかったゴールデン街での日々がよみがえる。
『初めての恋も友情もともによみがえってくる』
おかしなものだ。
あの黒光りのするカウンターにHと並んで飲んでいる。
小説家になりたいと彼が言う。
おかしい。
Hはバーテンのはずだ。
一晩で50枚も書いた。
と控えめに彼は言う。
「おれにお宅の半分でもソレだけ書ける筆力があったらな。良しとするのだかな。遅筆でいやになるよ」とGGが言っている。
「村木……半分で、良し……それ……ペンネームにイイな」
Hはとなりの小男をみている。
GGがいることなど忘れてしまったようだ。
「収穫の時期だけは、わたしにまかせてくれますか」
だめだ、そんな契約をするな。とはGGは言えなかった。
Hが文壇に華々しく登場うしたのはそれからまもなくだった。
そのころ、GGは田舎にもどっていた。
「私に小説書いて」と口癖のように言う女がHのそばにいた。
ふたりはむすばれたのだろうか。
「そうだ。よく覚えているな。収穫の時期だけ任せてくれればいいのだ」
GGは無視して走りだした。
「イイ条件だと思うぞ。もうジジイだ。いい加減でわが軍門に下れ」
GGはミイマの待つ街角にむかって走った。
「後悔するぞ!! バカもの!!! 最後のお誘いだぞ」
ミイマまでの距離が遠い。
妖物の――Vの気配を感じる。
鬼切丸をふるう。
Vを斬った手ごたえはある。
だが。
気配は迫ってくる。
斬る。
気配はうじゃうじゃしている。
あのまま東京にのこっていても……半分どころではない。
Hの十分の一の才能もないおれだ。
どうせゴールデン街で飲んだくれて死んでいたろう。
ミイマと会って平凡な日常をたのしく過ごすことができた。
これでよかったのだろう。
斬る。
突く。
斬る。
遠くでミイマが呼んでいる。
いくから。
いまいくから。
「村木。お前さん、田舎かから小説を応募するときは、ペンネームを使うのだろう」
「ああ。これから田舎で継がなければならない家業が麻屋なんだ。ウソ屋のきみのこともいろいろバラスゾ。麻屋がウソ屋を真似ても怒らないよな」
「クヤシカツタら、真似てみろ。チクショウ。バカやろう」
最高の別れの言葉だった。
「GG見てよ。ヤッラを壊滅させたのよ。青山で戦時中の地下壕の跡が陥没だって。うまくツクロッタものね。援軍が来るからね。百子たちが来るから。異能部隊も駆けつけてくれるから」
翔子が携帯を見せてくれている。なにも、見えない。
GGのみみには単車群のドドっという音が聞こえる。クノイチ48の美少女が近寄ってくる。ミイマが顔を寄せてくる。
「あなた、しっかりして。こんなのってウソよね」
ウソ。
Hが迎えに来たのかもしれない。
ない才能をふりしぼって、小説をかくことはない。
村木、お前の人生そのものが小説みたいだ。
いい小説は書かなかったが、小説の中にいるような人生を歩んだではないか。
それで、良しとするのだ。
「噛んでけばよかった。噛んでおけば、こんな、こんな別れに、ならなかった」
なにが起きているのだ?
なにが?
「火炎放射器を装備すればよかった。銃器ではVに歯がたたない」
勝則の声がする。
おれたちは負けたのか????
GGが握っていた鬼切丸。
ミイマの手にある。
翔子の手の鬼切丸。
純の鬼切丸。
勝則の鬼切丸。
「決着はやはり刀でか」
勝則が戦闘にもどっていく。
ミイマ、翔子、純が敵陣にむかって斬りこむ。
作者注。『』の内はゲーテのファウストからの引用です。
Hとはさてだれでしょう?
作者からのあなたへの挑戦です。
ヒントは、イーデスハンソンをペンネームとしたという1933生まれの作家です。
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