田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

いますこし待ってください/麻屋与志夫

2011-06-30 15:22:58 | Weblog
6月30日 木曜日

プログです。

●昨日は閲覧数が1,173あった。
「三億八千万年の孤独」を、どなたか、最初から読んでくれたのだろう。
たぶんそうだ。
うれしかった。
ありがとう。

●きょうも暑い。
雷鳴がとおくのほうでかすかにひびいている。

●いつも新しく小説を書きだす時。
どこかとおくでこれから書く小説の世界がさわいでいる。
登場人物の声がきこえてくる。
泣き声が。
悲鳴が。
笑い声が、きこえてくるような気がするのだ。
そしてその世界をリアルにじぶんのそばにひきよせれば。
書き始めることができるのだ。

●きょうも暑い。
あれこれ本を読みあさっている。
「学校の怪談」を書き始めるにあたって悩んでいることが二つある。
一つは読者の年齢を何歳くらいに設定するか。
やはり幅広い世代の人に読んでもらいたい。
でも小学生に一番読んでもらい。
うむ、むずかしいな。

●そのむずかしさは、第二の問題につながる。
文章だ。
やさしい文章で書かなければならないだろうな。
やさしく書くのはむずかしくかくよりも大変な苦労だ。

●まだまだすこし悩むひつようがありそうだ。

●来週の月曜日から書きだす予定をたてている。

●書き始めるまで、いますこしまてください。


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「学校の怪談」書いてよ/麻屋与志夫

2011-06-29 17:35:15 | Weblog
6月29日 水曜日
プログです

●昨日で、震災の直後に連載を開始した「三億八千万年の孤独」が書き終わった。
長いことご愛読いただきありがとう。

●こんどなにを書こうかな?
と、迷っていたら……。
塾生のツルちゃんと七海ちゃんに『学校の怪談』書いてよ!!
とたのまれた。

●中二の女子生徒にはわたしたちのクラブ活動について書いて、
と前からいわれていた。

●ええ……?????
わたしに書けるかな。
いままで一度も書いたことのない主題だ。

●でもやるしかないだろう。
みんなが学校でいま語られている怪談を書いてもってきてくれた。

●どんなものが書けるかわかりません。
えいっと、気合いで書きだします。

●でも、書けるのかな?
不安です。

●日光に行った時のシヤシンがおくれていてごめんなんなさい。

●もうあれから10日も経つのですね。
せめて鹿沼石を使用したという教会だけでも見ていただきたいです。
もっとも鹿沼石は内部構築に使われているとのことです。
ざんねんながらそれはとれませんでした。

     

     

     

     

●夕方雷雨。
すこし涼しくなった。
これから夏の暑さとたたかって書きぬくぞ!! 
とじぶんに、もういちど気合いをいれました。

●期待してください。



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終わりの始め/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-28 15:57:36 | Weblog
最終章

2

『今年の春もおわりね』

はらはらと山藤の花が散っている。

「はい、カット」

美智子が頼んで監督が承諾した。
急きょ撮影現場が霧降りの滝への道沿いに移動した。

街道には雑木林がせまっている。
むせるような緑の葉。
藤の花はナラやクヌギなどの木に巻きついて花を咲かせていた。

『山藤の花、見る約束だった。ふたりでここにきて、霧降りの「山のレストラン」で食事して、夕暮れどきの藤を見にくる約束だった。それなのに、あなたはさきに死んでしまった。どうしたらいいの。教えて。直人。わたしはこれからどうすればいいの』

つぎのシーンでは。 
美智子が相手役の名前を「直人」と間違えてしまった。

あまりに美智子の実体験に近いシーンだった。
『戦火の村で』での、ラストシーンだった。
亡き恋人に語りかけるシーンだった。

それで、つい直人と呼びかけてしまった。
なんどかNGがだされている。

美智子がこの3年間かかえてきた悲しみと孤独。
隼人にはじぶんのことのように受け止めることができた。

――直人。あなたの愛した人をぼくも好きになりました。あなたの代役は務まらないとしても、彼女の孤独は癒すことができるでしょう。

「隼人なにボゾボソいっているの」

美智子が缶コーヒーを片手に近づいてきた。
隼人は思いきって美智子に聞いてみた。

「直人でなければだめですか。ぼくでは、まだ……だめですか」

「もういちど、ひとを好きになってもいいかな……とおもっている。だって初めて隼人を浅草の駅の構内でみたちきから、直人に見えていたもの……。隼人は交際することはを直人もよろこんでいてくれる。隼人を好きよ。直人のことをいまも愛していいる。忘れられない。それでいいのだったら……」

ほのぼのとした美智子の感情が隼人につたわった。

「わたしは永遠に直人のことを思いつづける。けっして、忘れることはできない。そんなわたしでよかったら、わたしのそばにいて」

それが美智子の応えだった。

「よかったら……。そこからスタートしましょう」

隼人は同意した。
藤の花房が彼女の肩にとどいていた。

EPILOG

いま生起しているものは、以前に生起した。将来生起するであろうものも、以前に生起した。そして神は、過ぎ去ったものを再び探し求める。

                          「ソロモン」第三章十五節

                                     




 
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最終章/一億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-28 07:29:41 | Weblog
最終章

1

等々力渓谷のロケ。
ここが都内かとおもうほど森閑としていた。
渓谷の流れに沿ってふたりは、散策していた。
ふいに美智子がいった。
樹間から漏れる都会の陽光のもとで山藤が数房咲いていた。
木漏れ日をうけて。
紫色の光の雫となっている。
藤の花はまさにいまが盛り。
それで思い出したのだろう。

「霧降りもフジの花がきれいに咲いているわ。
いってみたいな。
なつかしいわ。
3年も霧降りの山藤の花をみてないなんて信じられない」
「あのときも、
藤の花を見に来ましょうって誘ってくれましたよ」
「直人が生き返ったと思った。おどろいたわ。ただもう夢中だった」

「まだ直人の夢をみますか」
「まえほどではないけど」
「死ぬには若過ぎましたから」

美智子がさびしそうな横顔をみせて撮影現場のほうに去っていった

『ああ、わたしたちの命が永遠につづくといいのに。あなた、あなたはどうしてわたしをのこして死んでしまったの。わたしをつれていってくれればよかったのに。わたしだけをのこして死ぬなんてどういうこと。わたしもあのとき死んでいればよかった。わたし、さびしい。さびしい』 

美智子がセリフの練習をしていた。
隼人に聞かせたいのかもしれない。
隼人には美智子のさびしさがいたいほど伝わってきた。


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しばしの平和/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-27 17:14:33 | Weblog
第二十三章 隼人の想い

3

中山美智子主演の新作『戦火の村で』は撮影当初から苦難つづきだった。
内乱の国で報道カメラマンが射殺される。
ショッキングな事件をモデルとしている。   
その国のテロ組織が潜入して妨害している。
そんな風評まで流れている。

だが、隼人は鬼神の残党のいやがらせだと確信していた。

美智子の再誘拐もありうる。
負傷から回復した隼人は美智子と行動を共にしている。
ボデーガードにあたっていた。

キリコが生きていれば、ふたりでその任にあたっていた。
キリコは、霧降りの攻撃で。
オニガミに倒された。
もう、三人で寝食を共にすることはない。
もう、キリコはこの世界にはいない。
かわいそうな、キリコ。
キリコと先に会っていたら。
美智子との出会いがなかったら。
ぼくはまちがいなくキリコと結ばれていた。
美智子は撮影の合間には、隼人との会話をたのしんだ。
美智子は闇にいきるオニガミと隼人たちの戦いの詳細は知らされていない。
撮影の合間には、美智子は隼人と会話をたのしんでいる。
おおぜいの仲間の犠牲のうえに、このしばしの平和がある。

隼人は移りゆく日本の季節をたのしんでいた。



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ぼくは彼女とキスしたい/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-27 06:43:42 | Weblog
第二十三章 隼人の想い

2

オニガミはじぶんたちの正体を見ることのできるものを。
この世から抹殺しようとしている。
じぶんたちと結ばれることをこばむものは許せない。
じぶんたちの子を受胎しないものは単なる餌だ。
血を吸ってやる。生かしてはおかない。
オニガミはそう思っているのだ。
美智子が危ない。
いままでだって危なかった。
直人にかわって、守らなければ。
ぼくに直人が託したメッセージをひしひしと感じる。
直人の願いがわかる。
美智子を守ってくれ。

美智子を守るように。
そしてなによりも、ぼくは彼女を愛している。
ぼくはフロリダにもどりたくない。
ぼくはこのまま日本にいたい。
そして、美智子を守りたい。
ぼくはいつまでも彼女のそばにいたい。
そばにいたい。
いっしょにいたい。
彼女の笑顔を見ていたい。
彼女と話しをしていたい。
彼女をこの胸にだきしめたい。
彼女とキスしたい。
キスしたい。キスしたい。


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隼人の告白/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-26 12:54:12 | Weblog
第二十三章 隼人の想い

1 A boy meets a girl.

出会いは不意にやってくる。
日光駅だった。
世界遺産に登録されている日光だ。
駅は小さく平凡だった。
おどろいていると「霧降りに行くの」と声をかけられた。
ドキっとするほどきれいな女性だった。
声をかけておいてハニカンデいる風情。
いかにも日本の女性らしかった。
フロリダから成田。
成田から東京。
そして浅草駅。
日光。
日本の風景も女性もアメリカとさほど違いがない。
そう思っていた。
それが……。
運命の女性に出会った。
それが中山美智子だった。

トキメイタ。
それを顔にだすまいとした。
さりげなく装うのに苦労した。
それが直人の恋人。
中山美智子だった。

すきです。
ひとこといえたらどんなにか……らくになることか。
直人のことを忘れずに想い続けている彼女に、それはいいだしかねた。
彼女も日本人。
ぼくも日本人なのだ。
そうおもい知らされる。
こころの動きだった。

キリコのこころもわかっていた。
なにもいわずに、だまって、ぼくと美智子をガードしていた。
わざとハシャイデいるようなときもあった。

美智子を想う気もちはおさえられない。
恋しくて、恋しくて。
でも……彼女はぼくを見てない。
ぼくをとおして直人を見ている。

もうぼくはフロリダにもどりたくはない。
遠い未来の記憶のなかでいつかこんな春の夕暮れを思いだすだろう。

霧降りの山藤。

美智子と見ている記憶。
そして、それは直人の記憶でもある。
これからのぼくと美智子の記憶を。
直人よ、ぼくらと共有してほしい。
キリコよ、ぼくらの記憶のなかで、きみは永遠に生きている。
光りと闇の戦いがつづくかぎり。
ぼくらは生きつづけなければいけない。
それが、後から来る光の戦士の励ましとなる。




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キリコ討ち死にする/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-25 08:53:09 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原

5

そこまでだった。
隼人が駆け寄るのが一瞬遅かった。

あんなにいやがっていたオニガミの手がキリコのあごに触れた。
キリコが一瞬ひるんだ。
キリコは金縛りにあったように動きがとまった。
その一瞬のスキをつかれた。
オニガミの鉤爪がキリコの胸に深くつきささった。

「キリコ」
キリコをかばって飛びこんだ隼人。
隼人の左腕にもオニガミの鉤爪が!!!

隼人は右腕だけで、剣をふりおろした。
サル彦ジィの恨み。
黒髪の女たちの積年の怨念。
そして直人の無念。
すべてをこめた剣のひらめき。

王仁の首が中空にまった。

「わたしだめみたいだよ。
……でもこうして隼人の胸で死ねるなんてしあわせだよ。
隼人にだかれて死ねるなんてうれしいよ」
「キリコ。キリコ。まだこれからだ。まだ敵はいる」
「隼人といっしょに戦えてうれしかった……」
「まだこれからだ、キリコがいなかったらぼくはだれとチームをくめばいいのだ」
「だれか探さっせ……。さがさっせ。サガサッセ」
 探さっせ――探しなさいよ。なんとやさしい方言だろう。
「美智子さんと隼人のこと守りつづけたかった。ゴメンね」
「キリコ。これくらいの傷で黒髪の女が弱音をはくな。キリコ、キリコ。しっかりしろ」
「隼人にだかれて死ねるなんておもわなかった。うれしいよ……」
意識がモウロウとしている。
おなじことばをなんどもくりかえしていたが……。
 
古川記念病院の直人と同じ部屋。
三年前に直人が死んでいった病室だ。
同じベッドに隼人が寝ていた。
「直人! 直人!! しっかりして」
東京からとんできた美智子。
隼人にすがりついてから、われにかえった。
「ゴメン。隼人、だいじょうぶ」
「あまり、だいじょうぶではないみたい。霊体装甲がなかったら……」
「キリコ。キリコさんは?」

頭をやっと横にふることで、隼人は応えた。
黒髪の女たちをひとりも助けることができなかった。
オニガミは黒髪の女を根絶やしにしたのだ。
オニガミは半地下の巣窟に彼女たちを追いつめた。
麻薬の精製所もろとも彼女たちを爆破した。
 

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ジイちゃんの恨み晴らします/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-24 07:07:51 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原


4

「いくわよ。武器はもってきたわ。後からついてきて。鬼神一族に積年の恨みをはらすときよ」
キリコがバックをどさっと床に置く。 
キリコが勇ましい声で黒髪の女たち鼓吹する。
キリコは走りだす。
バックからとりだした暗器を手にしている。
サル彦ジイチャンの恨みを晴らす。悲願をなしげるチャンスだ。
母の恨みを晴らす覚悟だ。
キリコたちは黒髪の女たちに導かれた。
森の奥に進んだ。
「電気柵やオニガミの呪術のこめられた障壁に閉じ込められて、逃げられなかったの」
キリコの疑問に応えがもどってくる。
「キリコのおかあさんは? ぶじだった」
「たぶん……」
キリコが首をよこにふる。

森の奥に半地下のコンクリートの建物があった。
壁面にはびっしりと苔が生えている。
天然のカモフラージとなっている。
廊下の奥からオニガミが現れた。
暗器を、手裏剣のようにキリコが投げる。
黒髪の女もそれに倣う。

「これが欲しかったのよ。これさえあれば逃げられたのに」
銃撃されても、刀できられても、ひるまないオニガミ。
それが、この槍の先端のような形をした飛鏢を額や胸にうけると。
もろくも倒れる。

「精製工場のレンフイルドはおおかた制覇した」
秀行と霧太の特殊犯罪捜査班がなだれこんできた。

王仁がニタニタわらっている。
それも日輪学園で倒したモノと――。
全く同じ顔。
同じ体つきだ。
不気味だ。
鉤爪が長くのびる。
乱闘向きの武器となる。
投げられた鏢を鉤爪で受ける。
金属音がひびく。
鉤爪は鋼の硬度を具えている。
あんな爪でひきさかれたらひとたまりもない。

「キリコ」
怨念をこめ復讐の思念をこめた。
その対象であるオニガミがキリコを襲う。
「おれの嫁になれ」
「あんたぁ。まだ生きていたの!!」
「あれきしの傷で、あれきしことで、死ぬかよ」

キリコの投じた鏢はことごとく打ち落された。

「おれの嫁になれ」

ニタニタわらっている。
乱杭歯のあいだからダラダラとヨダレをたらしている。
悪臭がする。
「だれが、あんたなんかの――」




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お母さん、仇はうつから!!/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-06-23 05:16:04 | Weblog
第二十二章 奥霧降高原

3

「どんな栽培方法でも採用できるわよ。
設備にはいくらでも金をかけられる。
巨万の富をもたらすのだから」

キリコがじぶんを納得させるようにつぶやく。
キリコはそこで働かされていた母たちをおもっていた。
そこで強制的に働かされていた黒髪族のおんなたち。
おかあさん、生きていた。
おかあさん、あいたかった。
おかあさん、仇はうつから。
おかあさん、恨みははらすから。

長いこと麻薬Gメンが追ってきた流通経路。
やはり日本に畑があった。
それも――霧降高原の奥に栽培地があった。
むろん精製工場もある。
まちがいない。

ドクターヘリが見えくなった。
だが、東京の方角からヘリの影が現われた。

キリコは操縦席で隼人に状況を説明する。
もう泣き顔は消えている。
「自衛隊の、百子のお父さんたちの部隊がきてくれる。
兄が出動依頼したの」
それほど巨大な敵なのだ。 
背後からヘリがついてくる。
霧降の滝が眼下に見える。
行く手の上空で炎が上がった。
少し遅れて銃声。
発砲音がする。
「福島空港から飛び立ったヘリよ。
こちらの指示を待つはずなのに」
「機銃掃射している。
敵が地上から攻撃したので対抗しているのだ」

ロケットランチャらしい。
煙と炎のノロを引いて上空を飛び、ヘリを狙い撃ちにしている。
背後からついてきていたヘリがスピードを上げた。
攻撃ヘリは既に地上の敵が射程圏内にはいったのだろう。
バリバリバリと銃声をひびかせている。

キリコは戦闘場面から少し離れた丘の影にへりを降下させた。
地上はいたるところで薄い霧が渦を巻いていた。
キリコにとっては故郷の霧だ。
霧を透視する能力があるらしい。
隼人を誘導する。
ぐいぐい前にすすむ。
木立をよけて進む。
枝を避けて腰を落と。
森をぬけた。

「うわあ、きれい」
キリコが現況からは不謹慎な歓声を上げた。
ケシの花畑だった。
人口の太陽のような光の塔に畑は照らされていた。
上空に空はない。
巨大なシードルにおおわれているのだ。
森をぬけた。
いつの間にか人工の光に照らされたケシ畑に迷いこんでいた。
わきに粗末な木造の小屋。
キリコが近づくとワッと女たちがとびだしてきた。
「キリコだ。キリコちゃんでしょう」

拉致されていたキリコの同族の女性たちだった。
「やっぱりきてくれたのね。
だれかわたしたちの花びら通信に気づいてくれると待っていた」
黒髪の女たちは、唯一つ彼女たちにできるやりかたで。
ケシの花をオニガミの隙をみて、川に流していたのだ。

美しいケシの花畑だ。
日本で栽培されているとは。
美しいものには近づかないほうがいい。
直人の残した言葉を隼人は思いだしていた。
直人は今日あることを予感していたのだろう。
いや、幻視したのだ。
直人には見えていたのだ。
その能力を恐れた王仁の攻撃をうけたのだ。
彼らの罠にかかって崖から転落したのだ。
のたうつ木の根に足を絡めとられた。
そして死の世界に落ちていった。



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