田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

「アサヤワールド」にどうぞ。麻屋与志夫

2021-05-29 05:05:56 | ブログ
5月29日 土曜日
●昨日テレビを観ていたら、「バァチャル原宿」のことが話題になっていた。
スマホでアバターを使い、原宿の街を散策して、買い物ができる。
疑似体験の世界で買い物をして、支払いも、スマホで決済ということになるのだろう。
これで現実の世界での「お金」がへらないのだったら、なおいっそう楽しいですよね。

●ふつうの老人であったら、世の中ここまで進歩したのかと思うのだろうが。

●クリエターであるわたしは、いつも、いままで「未来デザイン」の世界に生きてきた。

●近未来において、あるいは明日、どんなことが起きるだろう、と想像して生きてきた。

●小説の世界にドップリとひたっている。じぶんを常にアバターとして考え、いままでズッ
ト生きてきたのだ。アバターであるわたしは歳をとらない。それどころか、このブログでは
わたしは御覧のように愛猫ブラッキーをアバターとしている。

●そうなってくると、ブログにはあまり世俗にまみれたGGのことは書けない。このとこ
ろショートショートばかり書いている。ジジイの世迷言など若いあなたは読みたくないで
すよね。先日などGGは「メイド喫茶」を体験しました。
どうぞこれからも麻屋与志夫の創り出す仮想現実の世界をお楽しみください。

●現在、伝記小説をかいています。800枚くらいになるよていです。



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蛙とびこむ田んぼかな。 麻屋与志夫

2021-05-28 09:35:54 | 超短編小説
超短編小説 22
蛙とびこむ田んぼかな

 あの三重の災禍に襲われた、今やすでにレジェンドとなっている地域。

 そこからだいぶ離れた県境をこえた村。
 
 子どもが叫んでいる。

「蛙だよ。蛙だ。五本足の蛙だよ!!!!!」
 
 蛙は捕まえようとする子どもの手をのがれた。
 
 あぜ道から蛙はどぼんと田んぼにとびこんでしまった。




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バラの根元には。第三稿 麻屋与志夫

2021-05-27 22:22:03 | 超短編小説
超短編小説 21
バラの根元には 第三稿

 夜半に風雨が強くなった。これではパーゴラで咲き誇っているアイスバークが散りはし
ないかと心配になった。トレリスにからんだシティオブヨークはこれから満開になるとこ
ろだから、大丈夫だろう。
 まだ五月だというのに、雨が降り出した。ことしの梅雨は早まるだろうと報じられている。
 それでなくても、コロナのパンデミック。
 外出して街を散策したり飲み歩くチャンスはますます少なくなるだろう。

「春馬な。バラの息づかいが感じられるような絵が描けなければ、一流になれないんだ」
「バラが息をするの。それが感じられるような絵を書けと言われても……」
 わたしはよく父に逆らった。しまいには口論となることもあった。最後までプロになれなかった父のいうことだ。
 母はもくもくとただひたすら、広い庭で日が暮れるまでバラの世話をしていた。

「わたしにお母さんのように、庭のバラの養生しなさい、なんていわれても困るわ。わたしには勤めがあるのよ。一日だって休むわけにはいかないの」
 妻は警察に事務職員として勤めている。男性の圧倒的に多い職場だ。

 アイスバーク。
 シティオブヨーク。
 モッコウバラの黄色と白の競演。
 ブルームーン。
 アンジラ。
 アドレス帳を見て――。
 春馬は元カノの礼子に携帯した。
「白いバラがきれいに咲いているよ」
 アイスバークの花言葉は、初恋なのだ。
 そういおうとしたが彼女がこころを乱してはと、やめた。
 いまさら、なにを礼子に伝えようとしているのだ。
 すこし、ただなんとなく話がしたかっただけだ。
「五月のバラネ」
 そっけない返事。
 アイスバークのように清楚な彼女はどこにきえてしまったのだ。
 それで、話はとぎれてしまった。
 春馬が携帯を切ろうとすると、ほっとしたような気配がつたわってきた。
 
 春馬は元カノの遥に携帯をいれた。
 スパイシーな匂いをかいでいるうちにキミを思いだした。
 なにかエロチックなことをいっている。
 そうきこえては、迷惑だろうとおもった。
「子どもを幼稚園にむかえにいかなければ。電話してくれてありがとうね」
 やさしい返事がもどってきた。もっと話をしていたかったのだが……。
 そうか彼女もいまは、子持ちなのだ。彼女に似てかわいい子だろうな。
 どんな男と結婚したのだろう。
 結婚案内はもらった。
 出席はしなかった。
 会場は〈明治記念館〉だった。
 あの廊下に飾ってある日本画。名匠の技をを観るのが好きだった父。
 さいごまで画塾の先生で終わってしまった。
 いまはもういない父を思いだすのが悲しかった。
 どうせわたしも……ろくな絵描きにはなれない。

 春馬は元カノの佐代子に携帯した。
「バラがきれいに咲いている」
 バラの花びらのしっとりとした湿り気。
 彼女の肌の感触を思いだした。
 だれも母が自慢のバラ園を観にきてくれるものはいない。

 最後に電話した。妻の永華に――。

 彼女の職場に携帯を入れようとした。
 妻がよく職場の男性に電話しているのは気づいていた。
 職場の男子職員のひとりひとりに嫉妬していると思われる。
 妻は警察に事務職員として勤めている。
 こっそりと、ものかげで、電話しているのは知っていた。
 問いただしても、返事しない。
「男でもいるのか」
 そこまできいても沈黙しているだけだ。
 春馬は妻をなぐりつけた。
 こんなに意固地な女だとは思ってもみなかった。
 
 母は春馬にガールフレンドができる。
 かならず遊びにきたときに、庭仕事を手伝ってもらっていた。
「バラの世話をしているのを見ると、その子の性格がよくわかるのよ」
 バラに愛情を感じるような娘さんがいいのよ。なんにんも落第した。
 反対された。支配者の母がやっとたどりついたおきにいりは。
 永華。
 いまの春馬の妻だ。
 たが、結婚してみると、母の期待はみごとに裏切られた。
 妻は家庭に入るはいることはしなかった。
 したがって、バラの世話は年老いた母の負担。
 広すぎる庭だ。
 母はじぶんに見る目がなかったと落胆した。
 バラの世話。若いときは軽くこなしていた園芸の仕事。過負担となった。

「わたしはバラの世話をするために結婚したのではないわ。職場が生きがいなのよ」
 
 母が倒れても、妻は庭仕事をしなかった。
 しかたなく、春馬が画業の時間を削って庭にでた。
「わたしはバラと結婚したわけじゃないわ」
 
 母は過労で心筋梗塞。ばらの庭で倒れていた。
 
 さすがに春馬ははらがたった。妻をなぐった。
 快感。スっとストレスが、妻に対する不満が霧が晴れるように消えた。
 それが習慣となった。事あるごとに妻に暴力をふるった。
 母が生きているうちに、こうすればよかったのだ。
 ごめんな。お母さん。

 永華に電話した。妻の永華にだ。
 どうしても妻の声が聞きたかった。
 妻のさわやかなバラの香りのような声が聞きたい。
 春馬は妻のいる場所にはかならず男がいると信じていた。
 妻は浮気しているのだ。春馬は嫉妬に狂っていた。
 それでも妻の声が聞きたい。
 ところが携帯を切る前に聞こえてきた。
 彼女の携帯の着信音。
 
 ふいに門扉がひらいた。そこに老人。
 顔見知りの妻の職場の刑事。
 なんどか来宅したことがある。
 いまは嘱託として職場に残っているという老刑事。

「春馬君。なんてことをしたのだ。永華くんから、なんども電話で相談された。あんたのDV
が日増しにひどくなると……」
シテイオブヨークの根元から。
 彼女の電話の着信音。
 聞かれてしまった。
 
 老刑事は錆びたスコップを道具置き場からもちだしてバラの根元を掘りはじめた。
 ところがなにも、期待したものはでなかった。
 妻の死体でも埋まっていると思ったのだろう。

 老刑事はキッチンに冷蔵庫の内蓋や棚をはずしてあったのを見過ごしてしまった。

 それから間もなく、公募展で春馬の絵が、特選となった。
 画題は「氷の中の美女」




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バラの根元には 麻屋与志夫

2021-05-26 05:55:37 | 超短編小説
超短編小説 21 第二稿
 バラの根元には。

 いよいよ蔓バラが咲きだした。庭はバラのドームにおおわれている。
 バラのいい匂いが庭にはみちている。
 アイスバーク。
 シティオブヨーク。
 モッコウバラの黄色と白の競演。
 ブルームーン。
 アンジラ。
 アドレス帳を見て――。
 春馬は元カノのRに携帯をした。
「白いバラがきれいに咲いているよ」
 アイスバークの花言葉は、初恋なのだ。
 そういおうとしたが彼女がこころを乱してはと、やめた。
 いまさら、なにをRに伝えようとしているのだ。
 すこし、ただなんとなく話がしたかっただけだ。
「ゴガツデスモノネ」
 そっけない返事。
 アイスバークのように清楚な彼女はどこにきえてしまったのだ。
 それで、話はとぎれてしまった。
 春馬が携帯を切ろうとすると、ほっとしたような気配がつたわってきた。
 
 春馬は元カノのOに携帯をいれた。

 スパイシーな匂いをかいでいるうちにキミを思いだした。
 なにかエロチックなことをいっている。
 そうきこえては、迷惑だろうとおもった。
「子どもを幼稚園にむかえにいかなければ。電話してくれてありがとうね」
 やさしい返事がもどってきた。もっと話をしていたかったのだが……。
 そうか彼女もいまは、子持ちなのだ。彼女に似てかわいい子だろうな。
 どんな男と結婚したのだろう。
 結婚案内はもらった。
 出席はしなかった。
 会場は〈明治記念館〉だったろうか。

 春馬は元カノのSに携帯した。
「バラがきれいに咲いている」
 バラの花びらのしっとりとした湿り気。
 彼女の肌の感触を思いだした。
 だれも母が自慢のバラ園をみにきてくれるものはいない。

 Eに電話した。妻の永華にだ。

 彼女の職場に携帯を入れようとした。
 妻が職場の男性にでんわしているのは気づいていた。
 職場の男子職員のひとりひとりに嫉妬していると思われる。
 妻は警察に事務職員として務めている。
 こっそりと、ものかげで、電話しているのは知っていた。
 問いただしても、返事しない。
 こんなに意固地な女だとはおもってもみなかった。
 
 おれにガールフレンドができ、遊びにきたときには――。
 母は庭仕事を手伝ってもらった。
「バラの世話をしているのを見ると、その子の性格がよくわかるのよ」
 バラに愛情をかんじるような娘さんがいいのよ。なんにんも落第。
 反対された。支配者の母がやっとたどりついたおきにいりは。
 E子。
 永華。
 いまの春馬の妻だ。
 たが、結婚してみると、母の期待はみごとに裏切られた。
 妻は家庭にはいることはしなかった。
 したがって、バラの世話は年老いた母の負担。
 広すぎる庭だ。五百坪もある。
 母はじぶんに見る目がなかったと落胆した。
 バラの世話。わかいときは軽くこなしていた園芸の仕事。過負担となった。

「わたしはバラの世話をするために結婚したのではないわ。職場が生きがいなのよ」
 
 母が倒れても、妻は庭仕事をしなかった。
 しかたなく、春馬が画業の時間を削って庭にでた。
「わたしはバラと結婚したわけじゃないわ」
 
 母は過労で心筋梗塞。バラの庭で倒れていた。
 
 さすがに春馬ははらがたった。妻をなぐった。
 快感。スっとストレスが、妻に対する不満が霧が晴れるように消えた。
 それが習慣となった。事あるごとに妻に暴力をふるった。
 母が生きているうちに、こうすればよかったのだ。
 ごめんな。お母さん。

 永華に電話した。妻の永華にだ。
 
 ところが携帯を切る前に聞こえてきた。
 彼女の携帯の着信音。
 
 ふいに門扉がひらいた。そこに老人。
 顔見知りの妻の職場の刑事。
 なんどか来宅したことがある。
 いまは嘱託として職場に残っているという老刑事。

「春馬君。なんてことをしたのだ。永華くんから、なんども電話でそうだんされた。あんたのDVがひましにひどくなると……」
 シテイオブヨークの根元から。
 彼女の電話の着信音。
 きかれてしまった。
 
 刑事は錆びたスコップを道具置き場からもちだしてバラの根元を掘りはじめた。



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バラの根元には……。 麻屋与志夫

2021-05-23 17:09:40 | 超短編小説
超短編小説 21
 バラの根元には……。

 いよいよ蔓バラが咲きだした。庭はバラの天蓋におおわれている。
 馥郁としたバラの香りに庭はみちている。
 アイスバーク。
 シティオブヨーク。
 モッコウバラの黄色と白の競演。
 ブルームーン。
 アンジラ。
 春馬は元カノのRに携帯をした。
「白いバラがきれいに咲いているよ」
 アイスバークの花言葉は、初恋なのだ。
 そういおうとしたが彼女がこころを乱してはと、やめた。
 春馬は元カノのOに携帯をいれた。
 スパイシーな匂いをかいでいるうちにキミを思いだした。
 なにかエロチックなことをいっている。
 そうきこえては、迷惑だろうとおもった。
「子どもを幼稚園にむかえにいかなければ。電話してくれてありがとうね」
 やさしい返事がもどってきた。もっと話をしていたかったのだが……。
 春馬は元カノのSに携帯した。
「バラがきれいに咲いている」
 バラの花びらのしっとりとした湿り気。
 彼女の肌の感触を思いだした。
 Eに電話した。妻の永華にだ。彼女の職場に携帯を入れようとした。
 職場の男子職員のひとりひとりに嫉妬していると思われる。
 ところが携帯を切る前に聞こえてきた。
 シテイオブヨークの根元から。
 
 彼女の携帯の着信音。
 
 




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メイド喫茶  麻屋与志夫

2021-05-21 15:07:01 | 超短編小説
超短編小説 20      
メイド喫茶

 ご主人様、おかえりなさい。 

「おかえりなさい。ご主人様。おそかったですね。お待ちしてました。あらぁー、泰くんじ
ゃない。おひさしぶりね。……わからないの??? わたしよー。わたし」
 きゅうに、くだけたことば。メイドの挨拶、メイドことばはどこへやら。

「泰くん、あれからなにしてたぁー。ヤッチャン。ほんとにだれか、わたしが、わからないの。つまんなぁーい」
 
 泰と呼びかけてくれたのだから、しりあいにちがいない。そして、ヤッチャンとますます
くだけた呼びかけ。かなりのしりあいだ。でも、ヤァーさん、ときけてしまうのは、おれの
ヒガミか!!! もっとも、いまどきヤァ―さん、とかヤクザなんて言葉はつかわない。差別用語
だ。パワハラだ。せめて正業でない人、くらいの言葉をつかってもらいたいものだ。

「ほんとにわかんないの?????? 若いのにボケたんじゃないのぅ」

 語尾をのばす癖。それにしても、またしても侮蔑だ。いまどき、ボケる、なんて言葉つか
っちゃいけないのだ。頭がはっきりしない人。くらいの言葉を使ってくれるご配慮はおねが
いしたいものだ。いやあまり洒落たひょうげんではないな。
 ボーっとしたひと。
 ボサットシタ人。
 頭がお留守のひと。まあどうでもいいか……。
 
 あたまにカスミがかかってきた。そうだ。かすみだ。彼女は、かすみだ。だってまったく
歳をとつていない。だからわかった。まちがいない。
 本間香澄だ。花がすみの「飛鳥山公園」の木製のベンチで初デイト。あの公園で知り合っ
たのだ。彼女の服装は、清楚な坂道系。もつとも香澄は正真正銘の女子高生だった。しりあ
って何度かのデートで、尻ではない、その前を密接結合、初体験をした。卒業後は進む道が
ちがったので、ナントナクデスタンス。距離が離れ、それっきり。おれはハングレ。ヤク
ザな生活を送ってきた。
 
 こんなところで、相変わらず清楚な姿。それも純白のエプロンをしている。
「ご主人様、おかえりなさい」なんて迎えられて、ブルっときたもんだ。
 隣の席は、メイドが両手の指をハート型にして「萌え、萌え」とよろこんでいる。男ひと
りを捕まえた自信に満ちた笑顔。
「また明日ね!」


「おれ帰る」
「あら、いまお帰りになったばかりじゃない」
留守ちゅうなにがあったかきかないの。こんどは、脳裏にかぼそくきこえてくる声になら
ない声。わたしね、ヤッチャンと別れてからいいことなかった。ほんとはわかれたくなかっ
たのよ。製紙会社の重役だということを鼻にかけていた父のいうことをきいてしまったの。
ごめんね。わたしばかだった。交通事故で死ななくても、自殺してたかもしれない。ヤッ
チャンはまだこにこなくていいよ。でも、それを口にたしたら、わたしもっとひどいこと
になる。

「おれ帰る」
 逃げるように扉を押した。走り出した。
「もどってきて」
 外はモミジの季節なのか? 真っ赤なトンネル。彼女はエプロンをすてて、緋色の服
で追いかけてくる。凄まじい怨念をうかべた鬼面だ。
 
 でも頭に響いてくるのはあくまでもやさしい香澄の声音だ。
 ヤチャンは幸福になって。わたしのぶんまで、元気に生きていて。
 鬼女の凄まじい形相で追いかけてくる。
 なにがなんだかわからない。だが必死で逃げた。走った。はしった。ハシッタ。
 メカジキ料の集金代行業でやってきたアキバだ。いまどきの正業につかれないひとたちは、
人手不足。なんだかんだと、ハングレのおれたちのところに代行がまわってくる。 

「はやく。生きている。救急車をはやくよんで」
 
 ひとびとのざわめきが耳元でしている。おれは血を流して路上に倒れていた。
 そうか。あそこはメイド喫茶なんかじゃなかった。
 
 冥土喫茶だ。
 
 香澄が追い返してくれなかったら、おれは死んでいた。
 



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下り坂 麻屋与志夫

2021-05-18 17:23:36 | 超短編小説
超短編小説 19         
下り坂

 御殿山公園の登り口。あれ、こんなところに脇道がある。桜の古木の影でふだんであればみえない。夕日が射し込んでいるので、そこに緑のトンネルのような狭い道の入り口があるのに気づいたのだ。
 すでに陽がさしていない。一人がやっと通れるくらいの小道。藻太は好奇心にかられて足をふみいれた。初夏だというのに、ヒンヤリとした冷気。背筋がゾクッとした。
 
 かなり急こう配の下り坂。
 
 むこうから登ってくる人影。
 歩むにつれてそれが女の人だとわかった。
 
 月明りには早すぎる。
 でも彼女の周囲がほのかにあかるい。
 薄手のサマーコート。金色に光っている。
 
 みるまにちかよってくる。
 いやぼくが吸い寄せられていくのだ。
 どうしよう。
 すれ違うことはできない。
 道がせますぎる。
 こうするのよ。
 澄んだ声が耳元にひびいた。
 彼女が藻太に抱きついて――顔をよせて、キスをしてきた。
 そのままからだを半回転させて入れ替わった。

「あなたのくるのをまっていたのよ。わたしから逃げられるかしら……」

 この日をわたしは待ちつづけていたのよ。
 藻太は彼女を愛撫していた。
 なんというなめらかな、それでいてしっとりと潤いのある肌だろう。
「藻太のこと好きよ。愛している。いつまでも、いつまでも忘れない」
 どうしてぼくの名前を知っているのだ。

「わたしを受胎させてくれる藻太。ながいこと、待っていたのよ」

 藻太はとぼとぼと坂道を下っていた。
 膝ががくがくする。老いたものだ。
 イメージのなかのじぶんが若い女を抱いている。
 同じこの道だ。ここにはあれ以来、足を踏み入れたことはない。
 もっとも、そうしようとしても、入り口がみつからなかったのだ。
 それがどうして、今になって――。

「お帰りなさい」
 彼女が微笑んでいる。

「どうしてもっと早くもどってこなかったの。ここにきて名前を呼べば、いつでも会えたのに。そのために、名前を教えてあげたのに」
 
 ところが、藻太はその名前を忘れていた。
 最初からあまり異様な体験だったので、覚えられなかったのかもしれない。
 作家になることを志して上京した。
 失敗だらけの人生だった。
 思うようにいかないときは原点に戻る。
 なんどか里にはもどって来たのだが――。
 ここの道も探したのだがみつからなかった。
 源流を遡って、最初の一滴から、基礎から勉強をしなおす。
 それでも芽がでなかった。
 細い支流となりほかの支流とあわさってメインストリームとなる。
 そんなことはおきなかった。さいごまで、三文文士でいる。

「いつでも会えたのに。こどもたちも大きくなったわよ」
 彼女の指さすほうから男の子と女の子が走ってくる。幼稚園児くらいだ。
 そんな馬鹿な。藻太が彼女にあったのは半世紀以上も昔だ。
「わたしたちの住む場所は時間がゆっくりとながれているの……。わたしが藻太にあったのはついこのあいだのことなのよ」
 そうか、これが浦島効果ということなのだろう。
 竜宮城で過ごしたのはほんとうに短い時間だったが、戻ってみると知っている人たちはみんないなくなっていた。
 いまからでも、彼女についていけば、時間がゆっくりと流れ、まだまだ小説を書く時間はありあまるほどある。

 そうかんがえると、うれしくて涙がほほをつたって落ちてきた。 


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かげぜん/陰膳 set a meal for an absent person... 麻屋与志夫

2021-05-17 07:58:35 | 超短編小説
超短編小説18
かげぜん/陰膳 set a meal for an absent person...

ほら、ほら……そんなにあわてないで。どこで、あそんでいた?????
虹の橋で、アソンデいたんだよ。
そんなにすりすりしないで。でんぐりかえって、おなかみせて、かわいいな、かわいいな。そんなとこ、甘噛みしないで。くすぐったいじゃないか。
パパもいっしょにいこうよ。
どれ、肉球みせてごらん。きれいにふいてあげるから。……ついでに……。
いやだわよ。そんなとこはずかしいわ。
ぼくだって、はずかしいよ。パパ、いっしょに、いこうよ。虹の橋のむこうには、黄金が埋めてあるという伝説が、あるんだよ。お金の心配なんか、もうしなくてすむよ。
パパ、ロイヤルカンナの袋、もう底をついてるんじゃないの。
このアイシアのゼリータイプもおいしいよ。
いつもありがとうね。
アリガトウ。パパ。ありがとう。
近所で老人が孤独死した。枕元にお皿が五つも並んでいた。

だれもその五枚の皿が、亡くなった猫たちのための陰膳だとは気づかなかった。


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日光三仏堂 金剛桜 麻屋与志夫

2021-05-16 11:25:45 | 超短編小説
超短編小説17
日光三仏堂金剛桜
                           

「まちましたか」
 トーマスは日本語を忘れてはいなかった。ユダヤ系のドイツ人で勝利とは日光の小学校で一緒だった。奥日光の南間ホテルで1945年の夏を共に過ごした。六年生だった。第二次世界大戦の折、日本で一番安全な場所として平成天皇が皇太子時代に疎開していたホテルだ。 
「カツトシ、げんきだったか」
お互いになつかしさのあまり若者のようにはしゃいでハグした。勝利おもわずよろけた。
「ダイジョウブカ、勝利」
「トミーはげんきだな。88歳という歳を感じさせない」
 88歳まで生きながらえることが出来たら、三仏堂の前庭のこの金剛桜の下で会おうと約束した。八十八歳は米寿。その半分が四、四。これなら絶対に忘れない。米という漢字は米国の米でもあるし。
2021,4,4日にこの桜の下で再会しよう。
「桜は散って葉桜になってしまった」
「そうなんだ。トミー。ぼく等が別れた四月、あの時は満開だったからな」
 満開の桜の下で勝利とトーマスはいかにも少年らしいロマンチックな別れかたをした。
 勝利はマスクをとった。
「マクドナルドのおじさんみたいなヒゲをはやしたんだ。よく似合っているよ」
 あのころ、トミーに英語を教わった。お父さんがドイツ人でお母さんはアメリカ人だった。コスモポリタンな家族だった。
トミーは勝利が英語の習得がみごとだ。勝利はジュニアスだ  
とよくほめてくれたことをおもいだした。
「桜の開花は年々早まっているんだよ。トミー」
 このところ気になっていることを勝利は口にした。
「地球温暖化の影響だ」
 あのころの季節とはすっかり様変わりしてしまった。桜はすっかり散ってしまっていた。
「コロナウイルスだって、そうだ。地球規模の危機だ。こんなとき、オリンピックを
やるなんて狂気のさたですよ。このまま予防接種も効かない、新しい株が…ウイルスが変異しつづけたら、人類の危機です。そうだろう? 勝利」
 勝利が返事に困っていると――。
「勝利さんですか」
 マスクをとって近寄ってくる。トミーを若くした風貌。
「??????」
「父の約束を果たしにきました」
 振り返るとトミーが金剛桜の幹にすいこまれていく。

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コロナ、パンデミック。おウチ時間を楽しんでいます。麻屋与志夫

2021-05-03 09:53:03 | ブログ
5月3日 月曜日

●GWだが、例幣使街道を走る他県ナンバーの車はほとんどみかけない。観光地日光、鬼怒川方面に行く人がすくないということだ。不要不急の外出を控えているのだろう。コロナの蔓延を抑え込むのにはよいことだが、反面、観光地の景気は冷え込むいっぽうだろう。

●こちらはGGだから、外に出なくてもなんのさしつかえもない。家にいて、楽しむことがありすぎる。静かに本をよむ。小説を書く。この作業は悪戦苦闘だから楽しいとはいいきれないが、どちらかというとマゾ的な性格でじぶんを、苦しめ追い込み仕事をするのを、……楽しんでいるのかもしれない。

●JAZZを聴く。このところロンカーターを聴いている。

●庭に出るとカミさんが丹精込めて育てているバラがまっさかりだ。馥郁とした香りもする。

●ルナが庭を探検して、獲物を探している。アメリカンショートヘアは狩猟本能に長けている。野性の本能のおもむくまま、この狭小庭園をアメリカ西部の大平原とみなしているのかもしれない。

●こうした隠棲の生活にも、テレビやパソコンをとおしていろいろな情報が伝わってくる。訃報が気にかかる。わたしがGGだから、まわりの知己が次第に減っていく。同じ年の友だちはひとりも残っていない。さびしい。いまはGGの心の中にだけ生きている彼らに話しかけながら小説を書き続けている。

●だから……外出しなくても、隠棲しているなどといっているが、全く多忙。余暇をたのしむ余裕はない。不要不急の外出を避けることが、苦痛とは思わない。家にいるのが快楽だ。

●カミさんとの会話も楽しいし……。ルナと戯れて時を過ごすのも楽しいし。楽しいことが、家にいてもありすぎる。

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