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鹿沼から隼人は直人の部屋にもどった。
同じ階に内閣府直属の特殊犯罪捜査室がある。
室長の黒髪秀行とは密に連絡が取れる。
麻薬の低年齢層への蔓延を恐れた政府が創設した。
関東甲信越麻薬取締官事務所とは別にこの機関を設けた。
新世紀に入ってからだ。
隼人は持ち帰った麻耶翔太郎のCDをたちあげた。
CDには翔太郎の行方を捜す手掛かりとなるような記載はなかった。
翔太郎が生涯かけて追究した日光の裏の歴史。
鹿沼の裏の歴史。
勝道上人と日光忍軍がオニガミと戦った履歴が綿密につづられていた。
隼人の先祖のことものっていた。
翔太郎の行方は彼らの必死の探索にもかかわらず、わからない。
直人のCDには美智子への個人的な思いがはいっていた。
二枚のCDをその夜隼人は読んだ。
美智子さんに捧げる百本の薔薇。
直人の詩のように美しい文章がつづられていた。
そのパートだけプリントアウトした。
隼人は明け方になってテレビをつけた。
渋谷の百軒店の路地で。
服飾デザイナーの大津健一が逮捕された。
と報じていた。
容疑は麻薬法取締違反。
同伴していた。妻。女優の酒の谷唄子は。
任意の同伴を拒みそのまま街の雑踏のなかに消えた。
とつづけた。
日本の芸能界の知識のない隼人はピンとこなかった。
マスコミはたいへんなさわぎになっていた。
ともかく人気抜群らしい唄子の夫が路上で警察に連行された。
そして彼女は行方不明。
隼人は直人の詩をプリントアウトしたものを美智子の前に置いた。
美智子は椅子から身をのりだした。
「なにかしら」
「それから、これも。直人の部屋にありました」
黒髪室長からあずかってきた。とはいえなかった。
婚約指輪を偶然直人の机の引き出しで見つけたことにした。
どうやら、直人は表の姿しか美智子には見せていなかった。
表の顔はプロのカメラマンだ。
あたりまえのことだ。
麻薬捜査官の身分はかくす。
身分は秘密にして置くことになっている。
秘守義務だが、恋人にも身分を明かすことができないで辛かったろう。
「直人は霧降からもどったらわたしにプロポーズするきだったのね。
マジなんだから。わたしはとっくにその気でいた。
恋人以上、妻未満。早く結婚したかった。
わたしは彼の妻であるとおもっていた」
美智子は婚約指輪をとりだして指にはめた。
「直人。ありがとう。ずっと待っていてよかった。
これからも、いつまでも直人を待ちつづけるわ」
美智子のようすがおかしかった。
もう会うことはできない。
どんなに思っていても、会うことはできない。
ようやくあきらめかけていたのに、心ないことをしてしまった。
と……隼人は反省した。
直人のエンゲージリングわたすべきではなかった。
直人が美智子さんに捧げた愛の詩。
機会をみて、ようすを見てわたすべきだった。
直人への想いに美智子は涙ぐんでいた。
ようやく忘れかかけていたことを思い出してしまったようだ。
悲しそうな顔からなみだがはらはらとおちてきた。
人前では見せることのできない悲しみ。
スターの顔ではない。
家だからみせることのできる悲しみのなみだだった。
隼人はなにもいえなかった。
慰める言葉。
悲しみを癒す言葉。
励ましの言葉をかけることができなかった。
このとき、二階の階段から女性がおりてきた。
ジーンズに、襟に毛皮のついたハーフコートをきていた。
テレビで見たばかりの酒の谷唄子だった。
「ダメじゃない、唄子。部屋にいて」
「こちら……あらぁ、直人さんにそっくりじゃない。
これって、どういうことなの」
「だからぁいったでしょう。直人の従弟なのよ」
「だからソックリなのね。いいなぁ。
わたしはとうぶんダーリンと会えないな」
隼人が目礼をかえす。
「酒の谷唄子です。美智子とおなじバンビ事務所に所属していますの」
という言葉がもどってきた。
「わたしのセンパイなの。
トラブルにまきこまれてプレスの人たちに追いかけられているの……」
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鹿沼から隼人は直人の部屋にもどった。
同じ階に内閣府直属の特殊犯罪捜査室がある。
室長の黒髪秀行とは密に連絡が取れる。
麻薬の低年齢層への蔓延を恐れた政府が創設した。
関東甲信越麻薬取締官事務所とは別にこの機関を設けた。
新世紀に入ってからだ。
隼人は持ち帰った麻耶翔太郎のCDをたちあげた。
CDには翔太郎の行方を捜す手掛かりとなるような記載はなかった。
翔太郎が生涯かけて追究した日光の裏の歴史。
鹿沼の裏の歴史。
勝道上人と日光忍軍がオニガミと戦った履歴が綿密につづられていた。
隼人の先祖のことものっていた。
翔太郎の行方は彼らの必死の探索にもかかわらず、わからない。
直人のCDには美智子への個人的な思いがはいっていた。
二枚のCDをその夜隼人は読んだ。
美智子さんに捧げる百本の薔薇。
直人の詩のように美しい文章がつづられていた。
そのパートだけプリントアウトした。
隼人は明け方になってテレビをつけた。
渋谷の百軒店の路地で。
服飾デザイナーの大津健一が逮捕された。
と報じていた。
容疑は麻薬法取締違反。
同伴していた。妻。女優の酒の谷唄子は。
任意の同伴を拒みそのまま街の雑踏のなかに消えた。
とつづけた。
日本の芸能界の知識のない隼人はピンとこなかった。
マスコミはたいへんなさわぎになっていた。
ともかく人気抜群らしい唄子の夫が路上で警察に連行された。
そして彼女は行方不明。
隼人は直人の詩をプリントアウトしたものを美智子の前に置いた。
美智子は椅子から身をのりだした。
「なにかしら」
「それから、これも。直人の部屋にありました」
黒髪室長からあずかってきた。とはいえなかった。
婚約指輪を偶然直人の机の引き出しで見つけたことにした。
どうやら、直人は表の姿しか美智子には見せていなかった。
表の顔はプロのカメラマンだ。
あたりまえのことだ。
麻薬捜査官の身分はかくす。
身分は秘密にして置くことになっている。
秘守義務だが、恋人にも身分を明かすことができないで辛かったろう。
「直人は霧降からもどったらわたしにプロポーズするきだったのね。
マジなんだから。わたしはとっくにその気でいた。
恋人以上、妻未満。早く結婚したかった。
わたしは彼の妻であるとおもっていた」
美智子は婚約指輪をとりだして指にはめた。
「直人。ありがとう。ずっと待っていてよかった。
これからも、いつまでも直人を待ちつづけるわ」
美智子のようすがおかしかった。
もう会うことはできない。
どんなに思っていても、会うことはできない。
ようやくあきらめかけていたのに、心ないことをしてしまった。
と……隼人は反省した。
直人のエンゲージリングわたすべきではなかった。
直人が美智子さんに捧げた愛の詩。
機会をみて、ようすを見てわたすべきだった。
直人への想いに美智子は涙ぐんでいた。
ようやく忘れかかけていたことを思い出してしまったようだ。
悲しそうな顔からなみだがはらはらとおちてきた。
人前では見せることのできない悲しみ。
スターの顔ではない。
家だからみせることのできる悲しみのなみだだった。
隼人はなにもいえなかった。
慰める言葉。
悲しみを癒す言葉。
励ましの言葉をかけることができなかった。
このとき、二階の階段から女性がおりてきた。
ジーンズに、襟に毛皮のついたハーフコートをきていた。
テレビで見たばかりの酒の谷唄子だった。
「ダメじゃない、唄子。部屋にいて」
「こちら……あらぁ、直人さんにそっくりじゃない。
これって、どういうことなの」
「だからぁいったでしょう。直人の従弟なのよ」
「だからソックリなのね。いいなぁ。
わたしはとうぶんダーリンと会えないな」
隼人が目礼をかえす。
「酒の谷唄子です。美智子とおなじバンビ事務所に所属していますの」
という言葉がもどってきた。
「わたしのセンパイなの。
トラブルにまきこまれてプレスの人たちに追いかけられているの……」
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