田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

禁断の恋2/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-08-31 15:29:15 | Weblog
奥様はバンパイァ 42

○洋子はなにをされたのかババの腕の中でぐったりとしている。

九尾族の人狼への怨念が渦巻く部屋にオババが出てきた隣のドアから麻の臭いが流

れてくる。

「どうなっているのよ」

オババの腕には洋子がいる。

うっかり攻撃をしかければどうなるかわからない。

Mはオババと武の戦意を吸い取ろうと目を細めている。

瞑想にふけっているようにも見える。

「武。洋子を返すようにいってよ。オババを説得できれば、つきあうことかんがえ

てもいいよ」

「武!! ダマサレルでない。相手は狐の小娘だ。ヒトをタバカル狐なんだ」

「あら、あんたたちは……人なの?」

隣の部屋から作業着の男たちが飛び出してきた。

体に麻の臭いが染み込んでいる。

乾燥した麻の葉を衣服に付けている者もいる。

それですべてが理解できた。

「乾燥大麻を作っていたのか」

わたしは思わず声に出してしまっていた。


あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

禁断の恋/奥様はバンパイァ 麻屋与志夫

2009-08-31 03:04:54 | Weblog
奥様はバンパイァ 42

○ムアっとするような干し草の臭い。

これは麻の葉の臭いだ。

その部屋の空気―麻の臭いを胸いっぱい吸い込んでみた。

子供のころから嗅ぎつけた懐かしい臭いだ。

先祖代々家業として営んできた「大麻商」とは麻の茎からとった野州麻を商うこと

だった。いまは絶滅してしまった業種だ。

○「玲加は浅く呼吸して」

「わあ、これが麻の葉の臭いなんだ。ステキ」

部屋の中央に武がたっていた。

「見園さん。さっきの返事をしにきたのかな」

「なにあらたまっているのよ」

見園と呼びかけられて玲加が照れている。

○武のまわりにはむかしこの場所で死んでいった女たちの怨霊が渦巻いている。恨

みをのんで死んでいった死霊がここに凝っている。その恨みの対象となっている人

狼に交際してくれといわれてもにわかに承諾できない。

こういう異常な出会いでなかつたら……けっこう玲加のこのみのタイプかもしれな

い。

「それより洋子をかえしてよ」

玲加が迫る。麻の葉の臭いに酔っているので、怖いもの知らずだ。

「たのむ。つきあってくれ」

「だれが、あんたなんかと。洋子をかえして」

「武!! やはり失敗だね。あとは、わたしたちに任せな!!!」

犬飼のオババが現れた。

「洋子‼ 洋子を離しなさい」

オババは洋子を抱えていた。

「どちらか洋子か玲加。うちの武とつきあってあげてな」

「こんどは泣き落としなの……」

     ソフィズ・ローズ
       

     黒いドーナツになって寝ているブラッキー
       

    pictured by 「猫と亭主とわたし

あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

大麻の臭い2/奥さまはバンパイァ 麻屋与志夫

2009-08-30 01:19:26 | Weblog
奥様はバンパイア 41

○臭いはドアの下部から洩れていた。

隙間からは明かりがさしている。

わたしたちが歩いてきた通路よりも明るいことは確かだ。

通路の奥のほうは真っ暗でなにも見えない。

あまり先へは進みたくない気分だ。

人狼でもとびだしてきそうなぶきみな雰囲気だ。

それでなくても、さきほどから異次元からふきよせる狼のハウリングには悩まされ

ている。

恐怖すらおぼえる。

狼のアギトが肉を食らう咀嚼音すら伝わってくる。

そして食べられているのはカミサンの同族の女たちだ。

わたしたちは狼の兇暴な顎に向かってすすんでいるような錯覚に総毛立つ。


○ここはたしかに九尾族と人狼の古戦場だ。

わたしはドアのノブをゆっくりとまわした。

開ける。



あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

大麻の臭い/奥さまはバンパイァ 麻屋与志夫

2009-08-29 17:30:43 | Weblog
奥様はバンパイァ 40

「そうね。洋子を助けるためにここまできているのだから、あきらめてはいけな

い。M&Gおねがい。洋子のためにたたかって」

「玲加。あなたはこないほうがいいかも」

「どうしてなのM。わたしの友だちなのよ。転校生のわたしに初めて声を掛けてく

れたの。友だちになってくれたの。洋子を助けにいくのにどうしてわたしがいては

いけないの」

「大麻の臭いがしたの。わたしは麻生家の嫁。麻の臭いになれている。でも玲加が

嗅いだら悪酔いするわよ。動けなくなるかもしれない。マタタビに酔った猫みたい

に」

「わたし酔ってみたい。大麻の臭いによってみたい」

「そんな無謀なこといわないで。わたしは逃げ出してきたのよ。大麻の臭いにはも

のすごく強い悪意がふくまれていたの」

「大麻は本来この地方では茎から繊維をとるものだった。臭いに悪意があったとい

うのはたしかなのか」

「たしかよ。そのあまりの強さにたじたじとなって逃げ出したの」

わたしたちはモールの方角にあるき出していた。

臭いに悪意がある。そんなことはない。

臭いには悪意も善意もない。

大麻は縁起のいい植物だ。

お祓いをするときも大麻の精麻でやるではないか。

神社の鈴縄も大麻で綯われている。

カミサンのことばが気になった。

単純にかんがえれば、敵地にたったひとりでのりこんだのだ。

神経が敏感になっていたためなのかもしれない。

だがなんとなく気味の悪い発言だった。

「こんどはわたしも一緒に行く」

「あっ。あれ武だよね……」

玲加が目ざとく見つけた。

わたしたちは、三度モールの駐車場まできていた。

そろそろ閉店になる。

車を発進させるひとたちでこみあっていた。

車のあいだをすいすいとぬって武は裏口に向かっていた。

壁に密着してダストシュートの堆積箱があった。

武は箱の側面をとんと叩いた。扉のように開いた。

「あんなところに……地下への隠し階段があるのだ」

武の後を追いかけた。わたしたちも地下への階段をおりだしていた。

「なるほど」

「G……、なに納得しているの」

「玲加。これが麻の臭いだ。いがらっぽいゴミノヨウナ臭いだろう」

「わたしは甘い臭いがするのだと思っていた」





       


     pictured by 「猫と亭主とわたし





あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

怨霊2/奥さまはバンパイァ 麻屋与志夫

2009-08-28 13:09:37 | Weblog
奥様はバンパイア 39

○このモールの建っている辺りが昔は那須野が原の南端だった。

それは信じられる。

地形からいってもまちがいない。

しかし、この地で滅んだ九尾族の怨念が凝って、ここに次元の裂け目が出来てい

る。にわかには、信じられない。

○わたしは耳をすます。

○狼の雄叫びめいた声が響いている。

確かにこれは!! 狼の雄叫びだ。

わたしは立ち上がろうとした。

「横になったほうがよくきこえるわよ」

カミサンにいわれたとおりにした。

大地から軍馬や、ひとびとの相争う気配が伝わってくる。

「これは……? どうなっているのだ」

わたしにもイメージがなだれこんできた。

犬飼のものと戦っているのは鎧もつけていない女人ばかりだ。

「まだなの。吸美の援軍はまだ到着しないの」

悲痛な叫びがとびかっている。

「あのときわたしたちの祖先は、野生の麻の群生地にまよいこんでしまっていた

の。わたしの記憶ではそうなっているのよ」

わたしのイメージはふつうであったら過去を照らすことはない。

この土地に残留した怨念のイメージがあまりに強烈すぎる。

そして過去に向かうカミサンノ記憶の確かさが助けとなっている。

麻の群落で、麻の強い臭いに嗅覚も方向感も曖昧になっている。

先行している九尾族の護衛にかけつけるどころか麻に惑わされ臭いに酔い、ごろっ

と横になってしまう者さえいる。

「だめよ。これは罠よ。はやく玉藻さまに追いつかなければ」

追いつく。追いつく。

「どうしたのG。イメージに酔っている」

カミサンに肩を揺すられていた。

「洋子さんをもういちど探しにいこう」


あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

怨霊/奥様はバンパイア 麻屋与志夫

2009-08-27 07:40:56 | Weblog
奥様はバンパイア 38

○「洋子は見つからなかったの」

玲加がどこからかあらわれた。

不安で声がふるえている。

応えはもどってこない。

○帰りは無事。なにごともなくモールの駐車場からでられた。

乗ってきたクリッパーはそのままにした。

○夜風がふいている。JR日光線の土手にわたしたち三人は腰をおろしていた。

モールの全景が見下ろせる。

見下ろせるといっても土手の高さはモールの屋上くらいだ。

武がいた小屋には明かりはついていない。

「結局また空振りよ。でもたいへんなことがわかった」

「なにがあつたのおばさま? じらさないで、早く教えて」

「ここに来た時、狼の遠吠えを聞いたでしょう」

玲加は耳をすます。

「いまでも聞こえるわ」

「落ち着いて……聞き耳をたててごらん」

「あら……なにかおかしい」

「そうよこの遠吠えは時空を超えたもの。この土地に凝り固まった地霊の叫びみ

たいなもの。わたしたちの祖先が滅びていったまさにその箇所にモールが建てられ

ているの」

「じゃこれは雄叫びね。九尾族を滅ぼした凱旋の雄叫びね。ヒドイ」

「九尾族のなかの武闘派、敵のマインドすら操ることのできるわたしたちが駆けつ

けるのが遅すぎたのよ。その理由もなんとなくわかってきたの……」

「なにがあったのだ」

「玲加。わたしの体、変わった臭いがするでしょう」

「ほんとだ。シビレそう……」

「なんの臭いだか……わかるわよね」

玲加がうっとりとした顔になる。とろんとしてまぶたが閉じそうだ。

「猫にまたたび。きつねに大麻草」


あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

キツネ化ける 3/奥様はバンパイア 麻屋与志夫

2009-08-26 07:12:47 | Weblog
奥様はバンパイア 37

○わたしと玲加は地下室への階段を下りた。

ひとの? 気配はない。

そのほうがありがたいのだが、あまり静かだとかえって不安になる。

声をかけようとした。

玲加はきえていた。

ともかく消えたり化けたりするのは得意技だ。

九尾族なのだから。バンパイアなのだから、なにが起きても不思議はない。

ナンデモありの女性と行動をともにしているのだ。

通路の奥からひとがくる。

その気配で玲加は姿をかくしたのだ。

わたしはかまわず早足で男にちかよった。

「武はこなかったか」

「会っててはいません」

作業用のカーキ色のキャップの男は疑うような目をむけてくる。

シマッタ。見破られたか。

おなじ誤魔化しはきかなかったのか。

「犬飼のオババでもいい」

「オババならあとから来ますよ」

テキパキとした返事がもどってきた。

よく教育されている。

疑念を抱きながらも男はあるいていった。

いちどだけふりかえった。

廊下の右手をゆびさした。

そこからヒョイとオババがあらわれた。

隠れる場所はない。

わたしはオババを真っ直ぐみながらすすんだ。

オババが立ち止まった。どうする。

わたしの正体が見破られたようだ。

○鼓動がたかなる。

こちらから攻撃をしかけるか。

わたしは内ふところの銀の針をにぎった。

胸がどきどきともりあがる。

まだまだ修行がたりないな。

針をとりだそうとすると。

オババの唇るがほころびた。

「わたしよ」

愛する美智子のこえだった。

やっと聞きとれる声だった。

ふたたび、ふりかえっていた男は、こんどこそ足早にとおざかっていった。




あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

きつね化ける2/奥様はバンパイア 麻屋与志夫

2009-08-25 07:17:25 | Weblog
奥様はバンパイア 36

○業者専用駐車場のセキュリティの厳しさは先刻承知だ。

警備の目を盗んで正面から忍び込もうとしても困難だろう。

遠回りして広いモールの裏口にまわった。

店の内部はまだ賑わっている。

わたしたち倉庫の裏口を探した。

冷えびえとしたコンクリートの外壁が月光を浴びていた。

わたしたちの侵入を拒むようにそびえていた。

「玲加。猫に変形するのよ」

わたしの足元から黒猫がさっと壁の基底部に走りこんだ。

ぼっかりと空いた穴に潜りこんだ。

カミサンもその穴の前でかがむと吸いこまれるように消えた。

やがてうらぐちの鉄の扉が内部から開かれた。

「どうぞお入りください」

おどけた調子で玲加がいう。

「あれ、黒猫は……」

返事はもどってこない。

ガラス窓で囲われた事務所がある。

携帯でゲームに興じている若者がいた。

わたしが堂々とドアから入っていくと、あわてて机の上から足をおろした。

この倉庫には部外者が入りこめない。

そんなことは絶対におきない。

そうした思いこみがあるのだろう。

わたしを不審者として認識していない。

「武はどこにいる」

ハッタリをかましてみた。

「あれ、屋上の小屋にいるはずてすよ」

「連れてきた娘もいなかった」

さらにブラフ。

うまうまとのってきて「それなら地下室でしょう」という返事がもどってきた。

これ以上ここにいるとボロがでる。

「うまくいつわね」

玲加よってきた。

「Mならもうその地下室にむかっているわ。洋子の臭いを追っていったの」


     ブラッキー
       


あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

キツネ化ける/ 奥様はバンパイア 麻屋与志夫

2009-08-24 11:37:53 | Weblog
奥様はバンパイア35

○武の顔が屈辱に歪んでいる。

カミサンと玲加はまだ戻ってこない。

二分は経過している。

武からは瘴気をふくんだ凶念がふきつける。

くやしいのだ。

手も触れずに「気」だけではじきとばされたのがショックだった。

そして、わたしが銀の弾丸で彼の仲間を倒したことは伝わっている。

無暗に手出しはできない。

三人そろって武のまえに現れるとは思っていなかったのだろう。

○いや、ここまでわたしたちがたどり着くとは予想もしていなかつたはずだ。

「どうして……いまになって争わなければならないのだ。むだな争いはやめよう」

「むだかどうかは、上できめることだ。だが、みんな奈良にもどることをねがって

いるのだ。それには、あの時代の争いを再現する必要がある」

○笛のような呼吸音が武の口から洩れた。

そして変化がはじまった。

顎がぐぐっと突き出した。

顔に毛が密生する。

襲ってきた。

わたしは横に走ることで身をかわした。

投げた。

針を。

銃をつかって抹殺するにはしのびなかった。

仮にも玲加のクラスメートだ。

だが投擲したのは銀の針だった。

武の太股で肉の焦げる匂いがしている。

「だめ。洋子いなかったよ」

背後で玲加の声がした。

武はドアからそとに逃げた。

醜い姿を玲加にみられたくはなかったのだろう。

○「あの業者専用の駐車場か倉庫ね。あの警備は異常だったもの。穏行して忍び込

みましょう」

     ブラッキー
       

    アルブレヒト デューラーローズ
      

     pictured by 「猫と亭主とわたし


あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説

洋子の誘拐 6 奥様はバンパイア 麻屋与志夫

2009-08-23 07:16:20 | Weblog
奥様はバンパイァ34

○武がどう動いたのかわからなかった。

「美智子」とわたしには警告を発するのがようやくだった。

部屋の隅に移動したカミサンの前に武がのっそりと立っていた。

美智子は平然としてそこに微笑んでいた。

わたしには、彼女がとうとつに時間を遡行したように見えた。

知りあったころの若やいだ姿で彼女はそこに存在していた。

彼女には年をとるということはないのかもしれない。

○美智子は両手の平を真っ直ぐに武に向けていた。

すうっと武の精気を鼻腔で吸収して体に溜めいっきに「気」として伸ばした腕から

掌から武にたたきつけた。

○「発勁よ」美智子が解説するようにわたしにいった。

いまの美智子の技におどろいているわたしをいちはやく感知していたのだ。

○「わたしたちの一族は唐をへて日本にたどりつく過程でそのルートにある闘技を

学んできたの」

○「いままでは戦う必要がなかったから……。ダーリンには発披露ね」とおどけ

る。

この余裕はどこからくるのか。

武は壁までふっとばされた。

どんという響きが粗末な小屋を揺るがした。

○美智子は部屋の隅に置いてあった段ボールの空き箱を払いのけた。

みよ、床に取っ手がはめこんであった。

○「無防備ね。もっとも人狼のアジトを襲うものがいるとは、想定外だったのね」

カミサンと玲加がダッと階段をおりていくのを見下ろした。

わたしは部屋に残った。

この隠し収納庫の扉を閉められでもしたら危険だ。

武はおのれの凶悪な害意をそのままたたきつけられたショックから立ち直れないで

いる。



あなたのポチが筆者の励みとなります。よろしく。
         ↓
    にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説