田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

机司登場/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-31 22:00:47 | Weblog
44

「彩音、なんだか怖い」
「わたしだって、慶子……怖いよ」
「彩音には怖いものないと思っていたのに」
 街が暗い。風も凪いでいる。
 街をいく人はマスクをしている。
 やぶれかぶれで、ノウマスクのひともいる。
 だれも赤い目をしている。
 いやらしい目でふたりの美少女をねめつけている。
 おいしそうだ。
 タベタイ。タベタイ……と目がぎらつく。
 赤くただれた目が迫ってくる。
 ふたりは走る。
 ジョークをとばす余裕などなくなっている。
 アサヤ塾まで距離が遠すぎる。
 バダっと羽音をたててコウモリがおそってくる。
 昼間なのに、薄闇がこの街の東地区をおおっているからなのだろう。
 パタパタと飛び交い彩音と慶子を狙っておそってくる。
 羽を激しく打ち合わせる。
 ギョギヨと動物のような鳴き声でおそってきた。
 鳴き騒ぎ、羽をばたつかせて、さらにコウフンする。
 皐の楔で追い払う。
 どこからわいてでたのかコウモリはいくら払っても追ってくる。
「彩音ちゃん、なに遊んでるの」
 パパラッチだ。フトッチョ洋平だ。
「洋平クン、おねがい、ジャンジャンとってぇ」
 いつもは被写体になるのをいやがる彩音の頼みだ。
 カシャカシャ洋平は薄闇の中でフラッシュをつけて写しまくる。
 コウモリは光りに弱い。
 さっと舞い上がる。鳥瞰している。
「いまよ。慶子。いっきに突破するわね」
 コウモリの排泄物の粉末化した大気のなかをふたりは、いや洋平が健気にもシャッターを切りながら追いかけてくる。
 すごくたのもしい。
 コウモリが頭上で鳴いている。
 羽をパタパタやっいるが、フラッシュの光りに目がくらんで三人には近付けないでいる。
 アサヤ塾はすぐそこだ。
 この府中橋をわたりきれば5分とかからない。
 ところが橋のむこうから吸血鬼が来る。
 みんなステロタイプではっきりとは分からない。
 でも上都賀病院での闘いの場から逃げたヤツだ。
「こんどは逃げださないの」
 けなげにも、彩音が声をかける。
「いただきますよ。いだだきますよ」
「どうしてしつっこくわたしをおそうの」
「彩音、おまえが悪いんだ」
「吸血鬼が、気安く、わたしの名前いわないでくれる」
「おまえが、いちばん邪魔になる。マッサツせよ、とマスターの命令なのでね」
「鹿沼を完全制覇するには、おまえがジャマなの」
 吸血鬼が三方から迫ってくる。
「鍵爪の攻撃から身を守ってよ」
 慶子が洋平に注意する。
「どうしたんですか。ぼくにはなにも見えません」
「洋平、なにかごようかな」
 のんびりとした声がする。
「ありがたい、司センパイ」
「おまえなあ、緊急連絡もいいけど授業中はマズイヨ。二荒高校の授業はむずかしいんだ。先生も厳しい」
「ありがとう。こんなにはやくかけつけてくれて」
「鹿中のパパラッチから携帯にエジエンシーの連絡がはいれば、なにかおもしろいものを見たければ、おいでよってことだよな。洋平にさそわれれば、ぼくでなくてもかけつけるさ」
「女子生徒のシャワーシーンでもノゾけると期待したんだろう。このスケベ」
「ほらよ。これかけてみたら」
 といってなげてよこした特殊なサングラス。
 洋平は腰をぬかした。
 見えたのだ。
 彼にも吸血鬼の存在が見えたのだ。
「ななななんなんだ。コイツラどこからわいてでたんだ」
「バァカ。そんなんじゃないよ。だいいち彩音殿のまえだ」
 こたえが、ワンポイントずれている。スケベといわれたことへの返事だ。
「ちゃんでいいわよ」
「これは、彩音殿に。二荒高剣道部主将、机司です」


花粉/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-31 15:38:02 | Weblog
43

 彩音の真剣な顔に慶子はうなずく。
 ふたりは校門を走り出た。
 学校からエスケープするところをだれかに見られても……。
 もうそんなこと気にしない。
 そんな、バアイじゃない。
 街が黄昏ている。
 いや、そんな時間ではない。
 だが、空気は蒼茫と暮れはじめている。
 おかしい。
 空を見上げる。彩音は理解した。
 鹿沼を有名にしたスギ花粉だけではない。
 コウモリのフンの粉末がまざったウイルスが漂っているのだ。
 そうにちがいない。
 空を見上げる。
 あの霧のなかだ。
 スギの花粉の中にコウモリのフンが混ざり合っているのだ。
 でなかったら、こんないやな臭いが街に漂っているわけがない。
 スギの花粉には臭いなんかないのだ。
 ゼッタイニマチガイナイ。
 あの霧とともに降って来ているのは……。
 いままでのスギ花粉ではない。
 チガウのだ。
 いままでのスギ、ヒノキの花粉の飛散量とは比較にならない。
 これは前の年に記録的な空梅雨と猛暑でスギの花芽が大量についたせいだとマス コミでは報じている。
 そんなことじゃない。
 あの花粉には、吸血鬼ウイルスが混ざっている。
 あれを吸いつづければ、人は人の血をすいたがるように変容してしまう。
 平気で人が人を殺せるようになる。
 ナイフで恩師を襲うことができるように頭がchangeしちゃう。
 怖いことだ。
 黒川の上流に白鳥が飛来してくるようになった。
 街の人は観光資源になる。
 と。
 よろこんでいる。
 その白鳥が死んだ。
 H5N1型ウイルスをまき散らしていなければいいのだが。
 もう手遅れなのかもしれない。
 もう、わたしたちに助かる道はないのかもしれない。
 彩音はすごく悲観的になっている。
 なんだか、もうみんなおかしくなっている。
 鹿沼だけではないのかもしれない。
 ナイフによる通り魔殺人がおおすぎる。
 ナイフは鉤爪。鉤爪は吸血鬼を連想する。
 花粉を吸うと。
 生きたまま火をつけたり、子どもを川に投げ込んだり出来るようになる。
 人をナイフで刺しても平気になる。怖いことだ。
 NPO花粉情報協会に報告したいくらいだ。
 今年のスギは全国的にも、ものすごい着花量だという。
 ここは鹿沼だ。日光杉並木に囲まれた街だ。
 スギ花粉は史上最高を記録している。
 鼻炎用の点鼻薬も飲み薬、マスクも在庫が足りないさわぎだ。
 でもちがうヨー。
 すくなくとも、この鹿沼ではただのスギ花粉の飛来ではない。
 吸血鬼、コウモリウイルスが混入した乾いた霧におそわれているのだ。
 ハンデミックだ。
 濃霧にさえぎられて太陽光線が街にとどかない。
 街を暗くしている。
 もう、彩音の好きなルネ・マグリットの絵のような澄んだ青空は見られないのかもしれない。
 彩音は走る。
 吸血鬼バリヤのはってあるアサヤ塾の敷地内に逃げ込めば安全だ。
 彩音に吸血鬼の食料保存室で嗅いだコウモリのフンの臭いがよみがえった。
 これは、この空を薄暗くするほど降っているのはコウモリのフンだ。
 まちがいない。
 この悪臭はいつものスギの花粉だけではない。
 鹿沼はいま乾季にはいって、空気が乾ききっている。
 いつものようにスギの花粉がとんでいる。
 ともかくスギ花粉症発見の土地なのだ。
 日光例幣使街道杉並木の花粉が分厚く飛んでいる季節だ。
 街の人はマスクをしているからこの悪臭に気づいていない。
 知らないことはいいことなのかもしれない。
 この世に生きるものがしぶんたちだけでないと知ってしまうと悪夢に悩まされる。
 これはちがうのよ。
 いままでのスギ花粉とちがうの。
 もうここまでくるとバイオ・ハザードだぁ。

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赤目/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-31 06:27:12 | Weblog
42

「もうじゅうぶんまきこまけているじゃないか。しんぱいしないいで、校長室においで。校長先生と仲良くしよう」
 狼が小羊をみて、おいしそうだな、はやくたべたいなと涎たらすコミックそのままのいやらしい顔。吐く息がくさい。ほんとに涎たらしてるぅ。
「彩音ちゃんはきれいだね。きれいだね」
「たんま、たんま。あとでね。あとで」
 彩音は右手をあげて制止する。それ以上近寄らないで。
 異形のものにたいする、得体のしれない恐れ。
 逃げなければ。
 ヤバイ。タベラレチャウ。
 昨夜の病院での闘い。
「サスケ」会場での逃亡に疲れた体からは闘志が喪失している。
 逃げるのよ。彩音。
 じぶんを励まして、逃走にうつるのがやっとという感じだぁ。
 戦慄。恐怖。
 そして、不吉な予知。白日夢なんかじゃない。
 この街は、吸血鬼の大攻勢にあっている。
 吸血鬼が大量発生している。
 吸血鬼の怖いところは、だれでも吸血鬼にされてしまう可能性があるということだ。
 血液から血液へいくらでも伝播し、増殖することができる。
 さらに怖いことには血液の中でおきることなので、だれの目にもとまらないのだ。だれも気づかない。
 だれか他のひとにも、あるいはみんなに見えればいいのに。
 見えないから平気なんだわ。
 見えたらのんびりとひとの噂を交換するだけの携帯なんかもって、あそんでいられない。
 ほらあなたの横のヒト、あなたをたべたがっているわよ。
 胸さわぎがしていた。
 それが、現実となった。
 吸血鬼が学校にもうじゃうじゃいる。
 一夜にして、吸血鬼が大量発生したのだ。
 なんとかしてよ。
 彩音は廊下を2年D組の教室にむかって逃げながら叫びだしていた。
 それでなくてもおかしな校長だった。
「おれは日本一の校長だ」
 といつも豪語し ているのだ。
 どこが日本一かというと、わからない。
 いっそのことと、わたしは 人狼吸血鬼だ、くらいの告白してよ。
 彩音は教室の扉をおした。
 すごいいきおいだったので、みんながいっせいに文音を注視する。                                            その目が赤い!! みんなの、振り返った目。
 ギラギラ、赤くひかっている。
 
 一番後ろの席までいく。慶子に話しかける。
 よかった。ここ正常な澄んだ目の慶子がいて。
 昨夜の労をねぎらってから、声を故意に低める。
「校長が冒されている」
「それってジョークよね」
 沈黙。
「ねね。彩音。それってたちの悪いジョークでしょう」
「ドウスル。アイフル。慶子」
「ああ、よかった。ヤッパ、ジョークだったのね」
 周囲の耳が気になった。
 ごまかしておいて、慶子を廊下につれだす。
「アサヤのオッチャンにメイルうって。それから静。赤い目でないひとも誘って」
「わたしは文美おばあちゃんに……」

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校長がおかしい/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-30 14:54:53 | Weblog
41

 彩音は無情壁にとりついた。
 なんなく征服する。
 実況アナが「飛び入りです。とびいりの、ノミネイトされていなかった少女が驚異の技を披露しています。さすが日光猿軍団の土地。伝説の猿軍……失礼しました伝説の日光忍軍はほんとうに実在していた、クノイチはいまも綿々と日夜技を磨いているのかもしれません」
 アナは興奮している。
 彩音はクノイチにされてしまった。

     13

 校長先生の両眼が赤光を放った。
「学都先生のかわりに新任の先生がくるのですか」
 という質問を彩音はのみこんだ。
 廊下ですれちがった。
 女生徒にはめっぽうやさしい。
 鹿沼中学の名物。
 宮部校長だ。
 直接質問してもしかられないだろう。
 声をだしかけた。
 目の光りが普通ではない。
 目が赤い。
 ぐぐっとちかよってくる。
 彩音はおどろいて見つめる。
 吐く息。
 肉食獣のなまぐさい臭い。
 険悪なムード。
 彩音は警戒モードにきりかえる。
 でも、聞いてみたい。
 でも、逃げなければ。
 気持ちが分かれた。
「彩音ちゃん。上野学都なんて先生はこの学校にいませんよ。はじめからそんな名前の先生はいません」
 わたしの名前しっている。
 超ヤバーイ。
 どうして?
 校長が彩音をみつめた。
 恐怖で体がすくんだ。
 ぞうっとした。
 まただ。校長までおかしい。
 いや、いちばんおかしいのは校長なのかもしれない。
 こちらの心をよむヒトが、またあらわれた。
 昨夜の事件でつかれている。消耗がはげしい。
 美穂は病室で眠りつづけている。
 美穂の意識はまだもどらない。
 どうなるの? 
 彩音はむしろ精神的な消耗がはげしくて立ち直れないでいる。
 じぶんに起きたこと。
 じぶんだけが経験したこと。
 じぶんだけの恐怖。
 人狼回廊をぬけてから経験したこと。
 まだ信じられないでいる。
 その恐怖が彩音をさいなむ。
 もう、いや。
 つかれたー。
 わたし、まだ闘えない。
 やだからね。
 すこし休みたいのに。
 また。
 へんなことにまきこまれるの。
 いや。

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クノイチ/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-30 11:36:57 | Weblog
40

 男は吸血鬼だったのだ。
 おそらく、この後で、純平はすすんで吸血鬼に噛まれたのだ。
 澄江の敵、憎い上沢寮監を打つために吸血鬼となって、剣の修行に励んだのだ。 麻屋はそう思った。
 過去に起きたことが……。
 吸血鬼の侵攻が……。
 100年たったいま……。
 またはじまっているのだ。

「先生。勉強してる場合じゃないよ。彩音と美穂がいないの」
「いつからいないことに気づいたのだ、慶子? むろんさがしてはみたんだろうな」
「携帯もうったよ。でもつながらないよ」と静か。
「あっあれみて」
 慶子がつけっぱなしになっている待合室のテレビをさした。

 彩音は美穂の声を頼りに奥に駆け込んだ。
 美穂が倒れている。
 彩音は夢中で美穂をだきおこす。
「そのまま走れ」
 さきほど、闇の中から話しかけてきた声がした。
 彩音は美穂の腕を肩にかえて走りだす。
 美穂を引きずっている感じだ。
 とてつもない害意が追いすがってくる。
 バッと行く手が白く発光する。
 かまわず飛び込む。
 ぬける。
 発光する空間を抜け出すと夜間照明されたイベント会場だった。
「美穂ここでまっていて。助けを呼んでくるからね」
 美穂を植え込みの奥に横たえる。
 彩音はさらに走りつづけた。

「先生たいへんだよ。彩音がテレビに映っている」
 慶子が目をまるくして叫ぶ。
 クノイチ「さすけ」の北関東予選の会場だ。
 予選参加者が大勢おしかけたのだろう。
 夜更けの会場。
 茂呂山の鹿沼花木センターで今夜おこなわれている催しだ。
 でもこの病院からでは一キロちかく離れている。
 いままで一緒に吸血鬼と戦っていた彩音がどうして、あんな遠くにいるのかと疑 問がわいた。

 彩音は『倒連板』に跳ね上がった。
 軽々と渡っていく。
 それは最盛期のニジンスキーが舞台のはしからはしまで飛んでいるようだったと いわれる跳躍に似ていた。
 ただしバレーではない。
 彩音の所作は日本舞踊のそれだ。
 鹿沼流の舞い手の優雅な動きだ。
 Gを感じさせない素早い歩行で進む。
「いかん。彩音は追われている。だれか車をだしてくれ」
 麻屋には彩音を遠巻きにした人狼の影が見えている。
「あたしが、バイクでいく」
「わたしも彼氏のバイクできてる」
 数人のともだちが病院のフロントから走りでる。

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純平/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-29 22:57:09 | Weblog
39

 慶子はあおくなった。
 いままで一緒に戦っていた。
 どこにいってしまったのか。

     12

 麻屋は『女工哀歌』を読んでいた。
 輸血をしなければならない犠牲者がおおい。
 病院には血を提供しようという生徒でごったかえしている。
 麻屋は一刻も早くこの吸血鬼、あるいは人狼の襲撃の実態を理解したい。
 待合室の椅子で読みだしていた。

 鹿沼の旧東大芦村の一部では死者を二度埋葬する習慣がある。
 民俗学者によって注目されたことがあった。
 仮りに埋葬してから、本葬をとりおこなうのだ。
 これは、早すぎた埋葬の為に死者が蘇ったという経験を村人がもった驚きからでた知恵だろう。
 それでなくても、この地方では、死んでからもいつまでも唇だけは色が失せなかった。
 あるいは、死んでも体が固くならなかった。
 などということが伝承としてのこっている。
 吸血鬼になりうる体質に恵まれている。
 
 林純平は澄江の死をきいて茫然としていた。
 気がつけば、すぐそばを黒川が流れていた。
 満々と水をたたえた川は流れていないように見えた。
 川の面は風にあおられて波がたっていた。
 波は川上にむかっているようにみた。
 流れていないというより、逆流しているように見えた。
 時間が逆行してくれればいい。
 どうして、澄江はおれを待ってくれなかったんだ。
 死ぬほどつらいことってどういうことなのだ。
 なにがあったのだ。
 虐待されていたのか。
 そんなことはない。
 この街の紡績工場にかぎって女工哀歌が現実のものとしては考えられない。
 この街のものは、東北の山村からきた娘たちを大切にしている。
 おれと結婚すれば澄江もこの街に住める。
 独身寮からでられるのだ。
 そして赤ん坊をうみ、育て、鹿沼に根を下ろすのだ。
 今少し、待っていてくれれば。
 それが実現となったのに。
 なぜだ。
 なぜ投身自殺などしてしまったのだ。
 なぜおれを待ってくれなかった。
 なぜだ。
 茅やすすきの群生をわけて男が現れた。
「澄江さんは、上沢寮監に乱暴された。あんたには会えないとこの川に身投げした」
「うそだ」
「寮監はそんなひとじゃない」
「ひいひい泣きながらいやかる娘をむりにいうことをきかせるのが、あの男の趣味
なのだよ」
「うそだ、上沢寮監はそんなことをするひとじゃない」
「それなら、それでいい。あいつの剣に勝つにはたいへんな努力が必要だ。その必要を感じたらいつでもわたしのところへおいで」
 男はやさしくいうと、柳の木陰に消えていった。

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撃退/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-29 09:03:04 | Weblog
38

 美穂の悲鳴に彩音は戦慄した。
 襲われている。 
 美穂の命が危ない。 
 彩音は声をたよりに走りだした。
 薄暗い空間を走る。広場にでる。
 墓地をぬける。
 くらいトンネルにまたはいる。
 複雑にいりくんでいる。
 彩音は走る。
 美穂、美穂、どこなの? 
 美穂……。
 恐怖がない、といったらウソになる。
 彩音は親友の美穂を助けたい。
 どんなことがあっても助けたい。
 彩音を走らせているのは友情だった。
 どんなことがあっても美穂を助けたい。
 そして、怒りだった。
 怒りが彩音の恐怖に打ち勝った。
 怒りが彩音を走らせていた。
 故郷鹿沼を蹂躙する吸血鬼集団にたいするはげしい怒りだった。
 親友美穂を餌食にしょうとする人狼集団にたいする怒りだ。
「美穂」

 
 病院では。
 シュシュシュと威嚇音をあげながら吸血鬼が後退する。
 倒された仲間をみすててホールをぬけ、フロントをでて夜の町にきえていった。
 残された吸血鬼はもえつきた。
 あとには悪臭だけがのこった。
 いやな臭い。
 くさった魚でもやいたような臭い。
 見せ場をつくってもらえなかった麻屋がぽつんと、それでも生徒たちのみごとなはたらきに満面笑みをうがべている。

 携帯の緊急連絡網で50名をこす献血者が待ち合いロビーに集合してきた。
 こんなときの携帯の連絡機能ってすさまじい。
 ぴちぴちの中学生。それも女生徒ばかりだ。
 献血。血液型を記されたそれぞれの胸の名札だってすごく役にたつ。
 血を提供するぴちぴちギヤルの群れをみたら、どこかにいる吸血鬼さんは、血のなみだこぼしてくやしがるだろう。

 慶子のママが婦長のカンロクをみせた。
 医師、看護婦をふくめて輸血の必要ある患者がともかく十名以上はいる。
 これからも、ふえるだろう。ベットの下で、血をすわれたものがうめいているかもしれないのだ。
 病院の中をくまなくさがさなければ。
 みじめなのは警察官。
 鑑識は埃をかきあつめている。
 これらすべてを、みたものを信じられない彼らは、SFX、特撮の撮影現場に巻き込まれたのではないか。
 ドッキリカメラの再現ではないか。
 どこかにカメラがあるはずだ。
 気にしながら、悲しい捜査に血道をあげている。
 あせりで、目が赤くひかりだす。
 というのは、いいすぎだ。
 慶子ははたらく母をはじめてみた。うれしかった。
 どこかにいる父にみせたかった。
 こんなすばらしい妻と、どうして別れたの。ね、ね、どうして。
 彩音と美穂がいないことに慶子が気付いた。

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美穂の危機/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-07-29 00:55:10 | Weblog
37

「なにぶっくさいっている」
 彩音は足下を見た。
 ごくあたりまえの、細いジーンズ。先のとがった靴。
 若者なのだろうと視線をはねあげた。
「ゲッ、吸血鬼」
「ちゃんと犬森タロウって名前がある」
 犬歯が誇らしげににょきっとのびている。
 上顎からはみだした犬歯は下唇の外にとびだしている。
「おどろいたか娘」
「名前をおしえてくれたついでに、美穂をどこへつれていったか教えてょ」
「おどろかないのか。おれは人狼。吸血鬼ともよばれている。人の血を吸うからな。人の肉をくらうからな」
「だから犬歯がながいのね」
「なぜ、おどろかぬ。おれは娘。おまえを餌食にすることもできるのだ」
 涎か犬歯のあいだからしたたっている。
「美穂をどこにやったの」
 応えは鉤爪だった。
 彩音がさっと舞扇をかまえた。
 バックパックから皐手裏剣をだしている余裕はない。
 腰の舞扇をぬいて素早く構えた。
「純平と戦ったという娘か。そのかまえ上沢の血をひくものというのはほんとうだな」
「ひいオジイチャンがそんなに有名だとはしらなかった」
「ぬかせ。あいつはニックキ対抗者。スレイヤーだ。……われらが敵を忘れるわけないだろう」
(このひとたちも長く生きる種族なんだ。だから、むかしのことをいまのことにように話しているのだ)
「もういちどいうよ。美穂をここに連れてきなさい。そうすればおとなしく帰ってあげる」
「勇ましいこといえるのも、いまのうちだ。おねえちゃん。帰りは怖いってこと知らないとみえる」
 タロウがニタニタわらっている。
「お隣りに現れたのはジロウさんかしら」
「ピンポン。よくわかったな」
 てんで話にならない。
 どこか釘がぬけているような会話になってしまう。
 彩音はいらだっていた。
 こうしている間にも美穂が危ない。
「だいいち、帰る道がわかるまい」
 タロウ、ジロウの人狼がニタニタ笑っている。
 狼面の吸血鬼だ。
 奇妙にゆがんだ空間。
 太陽の光でも蛍光灯の光りでもない明るさ。
 足下はジメジメしている。
 鼻を刺す墓土の臭いだ。
 黒い土。
 関東ローム層の風化堆積物の土だ。
 水分を吸うと粘つく土となる。
 タロウがふたたびおそってきた。
 ジロウも真似る。
 それほどふたりの攻撃パターンは似通っている。
 両側からおそってきた。
 武器は鉤爪。
 激しい風圧だ。
 彩音の首筋を切り裂いた。
 しかし鉤爪の先に彩音はいない。
 ふわっと跳んで3メエトルも後方に着地した。
「チエッ」
 タロウとジロウが同時に舌打ちをした。
 こいつらには個性がないのか。
 同じような攻撃。
 同じ舌打ち。
 息が臭いんだよ。
 あんたら。
 吸血鬼さん。
 芳香剤の入ったガムでもかんだら。
「彩音」
 美穂の声がした。
「彩音、助けて」

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狼伝説/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-28 07:29:30 | Weblog
36

 吸血鬼の衣服に火が燃えうつった。
 狂ったように跳ね回っている。
 仲間の〈死の舞踏〉を目の当たりにした。
 あとの吸血鬼が後退りする。
 彩音と美穂がその中の大きな奴を追う。
 廊下の角まで追い詰めた。
 廊下の隅が不意にゆがんだ。
 直進はできないはずだ。
 変化が生じた。
 輝く広い廊下につながった。
 危険を感じて彩音が「とまって」と美穂に制止を命令する。
 この時、美穂の体が吸血鬼にかかえこまれた。
 そのまま白く輝く異界の通路へ吸い込まれた。
 彩音はなんのためらいもなく、あとを追った。
 後方で入り口が閉じた。

「だれだ」
 犬の遠吠えのような不気味な大声がした。
 暗闇の中で異臭がする。獣の臭い。
「これは驚いた。人狼回廊を渡ってきた人間はひさしぶりだ。なにものだ」
 闇がざわめいている。
 吸血鬼たちはみずからは人狼となのるのだろうか。
 ここは茂呂山(もろいやま )のあたりだろう。  
 なんとなく彩音にはわかっている。
 太古から黒川の侵蝕によって形成されてきた河川段丘。
 街の東側の台地。
 街よりも数十メートルは高い場所だ。
 崖が崩れないようにコンクリートで固められている。
 高くそびえるコクリートの崖は『地獄門』のように彩音には思われてきた。
 その場所の内部にいまいるのだと感知できた。
 この上の地上は、狼伝説のある犬飼地区だ。
 高寵神社。
 狼塚がある。
 玉藻の前を那須野が原まで追いつめた。
 犬飼びとの伝承が語り継がれている。
「返して。美穂を返して」
 必死で異空間に飛び込んだ。
 失神していたらしい。
 美穂の姿は薄れてきた闇の中にはない。
 墳墓らしい。
 大谷石で構築された地下の石造墳墓群が薄闇に広がっている。
 ここは地下の人狼の世界なのだ。
「わたしどうしてここにいるの? 美穂をどうしょうというの? わたしを演劇に誘ってくれた。演劇の楽しさを教えてくれた。マブダチの美穂をどうしょうっていうの」
「友だちのことより、じぶんのことを考えたらどうだ。もうじき、みんな戻ってくるぞ。逃げなさい」
 青白い靄が凝固して吸血鬼の形になっていく。
「ちがう、おれは人狼だ」
「わたしには人狼も吸血鬼もおなじよ。あなたはだれ。だれなの? はっきりと姿をみせてぇ……」
「これ以上の姿はない」

「そうか。オマエ、キツネダナ。九尾のキツネの娘だな。だから回廊がぬけられたのだ」
 キツネといわれて彩音はドキっとした。
 思い当たることが沢山ある。
 阿倍清明の母は狐だった。
 そんな伝承がある時代。
 彩音の祖先は京都から流れてきた。
 諸国巡礼の旅をこの町で終焉とした。
 鹿沼流舞いの始祖の話だ。
 そんなことを聞いている。
 彩音に話しかけている声がとぎれた。
 明るくなった広間に墓石の影から男がわいてでた。

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ゲーム/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-07-27 05:23:11 | Weblog
35

 彩音は唯一つの暗器、楔を手裏剣としてなげる。
 なげるときに手首でひねりを加える。
 そうすると板壁くらいなら突き通る。
 吸血鬼の太腿にぐさりとつきささる。
 文美もくる。
 彩音とならんで楔の連射をあびせる。
 吸血鬼はそれでも怯まない。
 ニタリニタリと近寄ってくる。
 じりじり迫ってくる。
 ざざっとおそわれるよりこわい。
 麻屋も参戦する。
 警備員もきた。
 警官も駆け付けた。
 ピストルを乱射する。
 吸血鬼のからだをつきぬける。
 あたっても、たおれない。
「コイツラ。火によわいのよ」
 彩音が鋭い声を彼女たちにとばす。
 携帯で呼び出された美穂と静。慶子たちに楔を渡す。
 警官よりも、消防隊員よりもたよりになるダチ。
 だって、ゲーム世代だ。
 吸血鬼との闘いは日常茶飯事だ。
 ゲーセンにいりびたりのこだっている。
 セガの〈死人の館〉攻略のベテランだ。
「たのしいな。ただでヴァーチャルゲームデキルノナンテカンゲキ」
 と美穂。 
 夢のゲーム機がついに完成したのだ。
 等身大全感覚没入可能型のヴァーチャル・リアリティの世界にいるのだ。
「キャ、立体映像だぁ。ステキィ」と静。
「なにいってるの。これは実戦なの」
「実戦てなにょ」
「リアルなの」
「やだぁ、彩音、英語使わないでよ」
「だからぁ、夢じゃないの。バァーチャルじゃないの。現実に起こっていることなの」
「いやぁ、こわい」
「バァカ」
 ほかの人達には、吸血鬼は超現実の世界の夜行性生物なのだ。
 この世にいるべきでない空想上の生物なのだ。
 異界がこの鹿沼の現実と混じりあってしまっているといっても理解できない。
 鹿沼のどこかに……綻びができている。
 鹿沼のどこかに通路が開いてしまった。
 そこから、異界のものたちが侵入してくるのだ。
「老婆ちゃん(ヴァーチャル    )、ばあちゃんてよんだかね」
 文美ばあちゃんがツツコミまでいれてくる。
 彩音はだまった。
 ただ闘うのみ。
 消防署のひとが紙で即席松明を作り吸血鬼に投げつける。           
 わたしが、コイッラ、火にヨワイのよ、といったことを信じてくれた。
 よかった。
 おとなが中学生のわたしのいうことを信じてくれた。
 フレキシブルな、柔軟な頭脳をもったおとながいた。
「あんたら、火を消すのがしごとですよね」
「消防士が火つけしていいのかよ」
 吸血鬼がたのしそうにニタニタ笑う。
「笑ってられるのも、いまのうちよ」
 美穂と静。演劇部員が楔を槍襖のように構え、つつこんでいく。
 美穂の腕がのびる。
 吸血鬼のむねにぐさり。
 楔をうちこむ。
「これって、ヤッパ、ゲームでしょ」
 塵となって消える吸血鬼。
「ヤッパ、ゲームでしょう」
 みんなで呪文をとなえる。
 ゲーム、ゲームといっていると恐怖が薄らぐ。

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