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「彩音、なんだか怖い」
「わたしだって、慶子……怖いよ」
「彩音には怖いものないと思っていたのに」
街が暗い。風も凪いでいる。
街をいく人はマスクをしている。
やぶれかぶれで、ノウマスクのひともいる。
だれも赤い目をしている。
いやらしい目でふたりの美少女をねめつけている。
おいしそうだ。
タベタイ。タベタイ……と目がぎらつく。
赤くただれた目が迫ってくる。
ふたりは走る。
ジョークをとばす余裕などなくなっている。
アサヤ塾まで距離が遠すぎる。
バダっと羽音をたててコウモリがおそってくる。
昼間なのに、薄闇がこの街の東地区をおおっているからなのだろう。
パタパタと飛び交い彩音と慶子を狙っておそってくる。
羽を激しく打ち合わせる。
ギョギヨと動物のような鳴き声でおそってきた。
鳴き騒ぎ、羽をばたつかせて、さらにコウフンする。
皐の楔で追い払う。
どこからわいてでたのかコウモリはいくら払っても追ってくる。
「彩音ちゃん、なに遊んでるの」
パパラッチだ。フトッチョ洋平だ。
「洋平クン、おねがい、ジャンジャンとってぇ」
いつもは被写体になるのをいやがる彩音の頼みだ。
カシャカシャ洋平は薄闇の中でフラッシュをつけて写しまくる。
コウモリは光りに弱い。
さっと舞い上がる。鳥瞰している。
「いまよ。慶子。いっきに突破するわね」
コウモリの排泄物の粉末化した大気のなかをふたりは、いや洋平が健気にもシャッターを切りながら追いかけてくる。
すごくたのもしい。
コウモリが頭上で鳴いている。
羽をパタパタやっいるが、フラッシュの光りに目がくらんで三人には近付けないでいる。
アサヤ塾はすぐそこだ。
この府中橋をわたりきれば5分とかからない。
ところが橋のむこうから吸血鬼が来る。
みんなステロタイプではっきりとは分からない。
でも上都賀病院での闘いの場から逃げたヤツだ。
「こんどは逃げださないの」
けなげにも、彩音が声をかける。
「いただきますよ。いだだきますよ」
「どうしてしつっこくわたしをおそうの」
「彩音、おまえが悪いんだ」
「吸血鬼が、気安く、わたしの名前いわないでくれる」
「おまえが、いちばん邪魔になる。マッサツせよ、とマスターの命令なのでね」
「鹿沼を完全制覇するには、おまえがジャマなの」
吸血鬼が三方から迫ってくる。
「鍵爪の攻撃から身を守ってよ」
慶子が洋平に注意する。
「どうしたんですか。ぼくにはなにも見えません」
「洋平、なにかごようかな」
のんびりとした声がする。
「ありがたい、司センパイ」
「おまえなあ、緊急連絡もいいけど授業中はマズイヨ。二荒高校の授業はむずかしいんだ。先生も厳しい」
「ありがとう。こんなにはやくかけつけてくれて」
「鹿中のパパラッチから携帯にエジエンシーの連絡がはいれば、なにかおもしろいものを見たければ、おいでよってことだよな。洋平にさそわれれば、ぼくでなくてもかけつけるさ」
「女子生徒のシャワーシーンでもノゾけると期待したんだろう。このスケベ」
「ほらよ。これかけてみたら」
といってなげてよこした特殊なサングラス。
洋平は腰をぬかした。
見えたのだ。
彼にも吸血鬼の存在が見えたのだ。
「ななななんなんだ。コイツラどこからわいてでたんだ」
「バァカ。そんなんじゃないよ。だいいち彩音殿のまえだ」
こたえが、ワンポイントずれている。スケベといわれたことへの返事だ。
「ちゃんでいいわよ」
「これは、彩音殿に。二荒高剣道部主将、机司です」
「彩音、なんだか怖い」
「わたしだって、慶子……怖いよ」
「彩音には怖いものないと思っていたのに」
街が暗い。風も凪いでいる。
街をいく人はマスクをしている。
やぶれかぶれで、ノウマスクのひともいる。
だれも赤い目をしている。
いやらしい目でふたりの美少女をねめつけている。
おいしそうだ。
タベタイ。タベタイ……と目がぎらつく。
赤くただれた目が迫ってくる。
ふたりは走る。
ジョークをとばす余裕などなくなっている。
アサヤ塾まで距離が遠すぎる。
バダっと羽音をたててコウモリがおそってくる。
昼間なのに、薄闇がこの街の東地区をおおっているからなのだろう。
パタパタと飛び交い彩音と慶子を狙っておそってくる。
羽を激しく打ち合わせる。
ギョギヨと動物のような鳴き声でおそってきた。
鳴き騒ぎ、羽をばたつかせて、さらにコウフンする。
皐の楔で追い払う。
どこからわいてでたのかコウモリはいくら払っても追ってくる。
「彩音ちゃん、なに遊んでるの」
パパラッチだ。フトッチョ洋平だ。
「洋平クン、おねがい、ジャンジャンとってぇ」
いつもは被写体になるのをいやがる彩音の頼みだ。
カシャカシャ洋平は薄闇の中でフラッシュをつけて写しまくる。
コウモリは光りに弱い。
さっと舞い上がる。鳥瞰している。
「いまよ。慶子。いっきに突破するわね」
コウモリの排泄物の粉末化した大気のなかをふたりは、いや洋平が健気にもシャッターを切りながら追いかけてくる。
すごくたのもしい。
コウモリが頭上で鳴いている。
羽をパタパタやっいるが、フラッシュの光りに目がくらんで三人には近付けないでいる。
アサヤ塾はすぐそこだ。
この府中橋をわたりきれば5分とかからない。
ところが橋のむこうから吸血鬼が来る。
みんなステロタイプではっきりとは分からない。
でも上都賀病院での闘いの場から逃げたヤツだ。
「こんどは逃げださないの」
けなげにも、彩音が声をかける。
「いただきますよ。いだだきますよ」
「どうしてしつっこくわたしをおそうの」
「彩音、おまえが悪いんだ」
「吸血鬼が、気安く、わたしの名前いわないでくれる」
「おまえが、いちばん邪魔になる。マッサツせよ、とマスターの命令なのでね」
「鹿沼を完全制覇するには、おまえがジャマなの」
吸血鬼が三方から迫ってくる。
「鍵爪の攻撃から身を守ってよ」
慶子が洋平に注意する。
「どうしたんですか。ぼくにはなにも見えません」
「洋平、なにかごようかな」
のんびりとした声がする。
「ありがたい、司センパイ」
「おまえなあ、緊急連絡もいいけど授業中はマズイヨ。二荒高校の授業はむずかしいんだ。先生も厳しい」
「ありがとう。こんなにはやくかけつけてくれて」
「鹿中のパパラッチから携帯にエジエンシーの連絡がはいれば、なにかおもしろいものを見たければ、おいでよってことだよな。洋平にさそわれれば、ぼくでなくてもかけつけるさ」
「女子生徒のシャワーシーンでもノゾけると期待したんだろう。このスケベ」
「ほらよ。これかけてみたら」
といってなげてよこした特殊なサングラス。
洋平は腰をぬかした。
見えたのだ。
彼にも吸血鬼の存在が見えたのだ。
「ななななんなんだ。コイツラどこからわいてでたんだ」
「バァカ。そんなんじゃないよ。だいいち彩音殿のまえだ」
こたえが、ワンポイントずれている。スケベといわれたことへの返事だ。
「ちゃんでいいわよ」
「これは、彩音殿に。二荒高剣道部主将、机司です」