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「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか、「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省
第1章 2030年の世界 から
この章のキーワードは、“メガ・トレンド”と“ニュー・ノーマル”である。
いずれも「VUCA」の未来像の中の教育のありようを考える賢明な整理である。
「メガ・トレンド」とは、「社会変化のトレンドのうち主要なもの」ということだ。
これまでの日本の学習指導要領などでも、社会の現状や今後の変化を展望しながらつくられてきた。
では、このプロジェクトのいう「メガ・トレンド」とは何か。
AIの発達や移民の増加は、2000年代に入っての大きなトレンド(傾向)として考えられるが、他にも、例えば、地球温暖化による環境の変化や女性の社会進出による家族の形態の変化など、様々な変化が生じている。もちろん、未来を完全に予測することには限界があるが、一方では、これまでのトレンド(傾向)を踏まえることで、「より正確と考えられる」予測につなげることができる。そこで、Education2030プロジェクトでは、コンピテンシーやカリキュラムについての議論を前提として、社会変化のトレンドのうち主要なものをメガ・トレンドとして、今後の社会変化についての将来予測を行うこととしたのである。
つまり、「VUCA」な未来ではあるが、できるだけクリアに捉えてみよう、という意志なり決意があるということである。
そして、それをその後のカリキュラムの議論に沿うかたちで、
(1)社会における変化
(2)経済面での変化
(3)個人における変化
という3つの観点で、取り上げ分析していく。
そして、それにしても!、ほとんどすべての課題は日本の課題だし、日本の課題はそのまま世界の課題でもあることに改めて驚く。それほど教育が国内での議論には収めきれないところにきているのだろう。内容を全部取り上げるのは難しいので、項目と若干の引用にとどめる。(青字は私が着目したキーセンテンスです。)
「メガ・トレンド」
(1)社会における変化
①移民の増加
日本など少子高齢化の進行が予測される国については、一定の外国人移民を受け入れることが必要になってくることも考えられる。そうなれば、外国人の生徒の教育に関する課題も、これまで以上に多く生じることになるだろう。
②地球環境の変化
少なくとも過去20年を見る限りでは、世界全体における温室効果ガスの排出は増加の一途をたどっている。現状のままでは、COP21で定めた気温上昇を2%未満に抑えると言う目標を果たす事は厳しい状況にあることも指摘されている。
③自然災害の増加
日本においても、地震や津波、台風、洪水等が頻発しているが、環太平洋地域においては、地震が重大な問題を引き起こしている。
年ごとの変化はあるものの全体として増加傾向が見られる。こうした増加傾向の背景には地球温暖化が進んだことによる平均気温の上昇も指摘されている。
④政府に対する信頼の低下
政府に対する信頼の低下は、政治家や公務員不信と言うことで済む問題ではなく、より深刻な問題をはらんでいる。と言うのも、政府に対する信頼が欠けていると言う事は、政府が策定する各種の法令や様々なルールを守ろうとする意識が失われている可能性があるからである。例えば投資家や消費者の立場からすれば、コンプライアンスの意識に欠けているような国において、積極的に投資したり、消費するという意欲にはつながらないだろう。
⑤テロやサイバー犯罪の増加
インターネットを介したサイバー犯罪として、例えばオンラインでの詐欺や偽物・違法コンテンツの取引なども活発化している。
(2)経済面での変化
①経済的な格差の拡大
現代では「富めるもの」の中でも特に「上位1%」と呼ばれる超富裕層に富が集中している。
「勝者総取り型」の経済問題は、企業のオートメーション化が進んで、生産性が向上しても、その結果が労働者の賃金の上昇にはつながらず、その利益が資本家に集中していくことにある。すなわち、富の格差の拡大につながっているのである。
②雇用オートメーション化
明確な傾向が見られるのが、ルーチン的なタスク(仕事)に対する需要の減少である。
簿記や事務、単調な製造業務等であるが、こうしたタスクについては、コンピューターによって代替されたり、労働力の安い途上国にとって変わられてしまうことが予想される。
③失業率
様々な業務のデジタル化が進んでいる影響があって、多くのOECD加盟国において労働市場は深刻な状況にある。近年では「ギグ・エコノミー」と呼ばれるような経済のあり方が拡大しつつある。「ギグ・エコノミー」とは、インターネットを介して単発の仕事を請け負うことで成り立つような経済のあり方で(中略)、こうした単発の業務を受注する労働者(ギグ・ワーカーと呼ばれる)の場合には、簡単に仕事を受注できると言う意味で高い利便性を享受できる一方、そうした仕事が、今後も安定的に存在し続けると言う保証があるとは言えないだろう。
(3)個人レベルでの変化
①家族の形態の変化
OECD加盟国において概ね共通する傾向として見られるのが社会全体の高齢化である。社会における高齢化の進行は、経済や社会福祉をどのように維持していくか行くのかと言う大きな問題を投げかけることになる。
家族の形態に関するその他の変化要因として、女性の社会進出と結婚率の低下が挙げられる。結婚する夫婦の割合が減少している一方で、離婚率が増大したり、あるいは制度上の結婚と言う形にとらわれず一緒に暮らすと言う選択肢も増大している。こうした変化は、従来とは異なる形の過程のもとで生まれ、育てられる子供が増えていくと言う事でもある。
②肥満や自殺の増加
2020年現在、世界全体での肥満は1975年から3倍になっていると言う。5歳から19歳までの幼児や若者についてみると、1975年には標準以上の体重か、あるいは肥満なのは4%に過ぎなかったが、2016年には18%になっている。世界中では、年間約800,000人の自殺者が出ていると推計されている。自殺の原因は様々であり、うつ病や双極性障害(躁鬱病)、統合失調症などの精神疾患を抱えるものも多い。また所得の低さや失業、アルコールや薬物、社会的孤立なども、自殺の原因になっていると考えられている。
③政治への市民参加の低下
OECD加盟国においては、軒並み、投票率の顕著な低下が見られる。投票は市民が社会を変えるための重要な行動の1つであるにもかかわらず、その機会を活用せずに放棄している層が相当の割合でいると言うことである。
以上の現状と未来の想定を踏まえて、教育におけるコンピテンシーやエージェンシー、ラーニング・コンパスの方針検討していくと言うことになる。
そしてその前に、教育のこれからの新常識として「ニュー・ノーマル」を8点提起していく。
(その8点を「伝統的な教育」→「ニュー・ノーマル(新常識)の教育」という表記にして、キーセンテンスを加えます。)
「ニュー・ノーマル」
(1)教育制度を単体として捉える
→教育制度をエコシステム(生態系)の視点から捉える
家庭のあり方、国民の意識、経済や財政も状況、都市化や過疎化の進行など、様々な要素を踏まえたうえで、教育制度について考えていく必要がある
(2)一部の選ばれた人による意思決定
→より広い関係者による意思決定
雇用者や保護者、生徒や地域の人々など多様な関係者が意思決定にかかわり、責任を共有していくことが重要になってくる
(3)役割分担
→一人一人の教育に(生徒自身もふくめて)皆が責任をもつ
管理職や担当する教師、保護者も含めて皆が共同して取り組み(中略)、生徒自身も自ら教育に責任を負うと言う事である
(4)インプットとアウトカム
→インプット、プロセス、アウトカム(特にプロセスの重視)
アウトカムとしての学習到達度だけでなく、学習のプロセスについても、それ自体が固有の価値をもつものとして認識される
(5)生徒の直線的な発達を前提にした、標準化されたカリキュラム
→生徒の非線形の発達モデルと想定する
生徒一人ひとりにそれぞれの学習経路(path)があり、また、学校に入る段階でも、それぞれの家庭環境などの違いによって、既に知識やスキル、態度などが異なっているのは当然である(中略)。そうした違いを前提にしながら、非線型の発達もでるを考えていく
(6)標準化されたテスト中心の評価
→「学習のための評価」、「学習としての評価」を含めた講義の評価
標準化されたテストのスコア類置かれがちだった。評価すること自体が学習へのステップとなると考える考え方
(7)説明責任とコンプライアンス
→システム改善のためのフィードバック
こうした対応ができているかといった結果を細かく追うことより、システム全体をどのように改善していくべきかと言うフィードバックを重視し、より建設的・双方的なアプローチを重視する
(8)教師は生徒を指示し、生徒は教師の指示をうける
→生徒の能動的な学習へ参画を重視する
生徒もエージェンシーを発揮して教育に積極的に参加し、教師と協働する存在として期待される
以上、ごく簡単な内容紹介だが、近未来からの風に向ての教育のありようが少しずつ見えてきたところである。そしてこれから、具体的な学習の枠組みとして取りまとめへと入っていく。
「VUCA」(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguity)(不安定,不確実,複雑,曖昧)という未来像での学校教育はどうあるべきか、各国の有識者はどう考えるのか、「OECD(経済協力開発機構) Education 2030 プロジェクト」から見て行きたい。
テキストは、
白井 俊『OECD Education2030プロジェクトが描く教育の未来:エージェンシー、資質・能力とカリキュラム』ミネルヴァ書房 (2020/12/22)
参考のHP
OECDにおける Agencyに関する議論について - 文部科学省
第1章 2030年の世界 から
この章のキーワードは、“メガ・トレンド”と“ニュー・ノーマル”である。
いずれも「VUCA」の未来像の中の教育のありようを考える賢明な整理である。
「メガ・トレンド」とは、「社会変化のトレンドのうち主要なもの」ということだ。
これまでの日本の学習指導要領などでも、社会の現状や今後の変化を展望しながらつくられてきた。
では、このプロジェクトのいう「メガ・トレンド」とは何か。
AIの発達や移民の増加は、2000年代に入っての大きなトレンド(傾向)として考えられるが、他にも、例えば、地球温暖化による環境の変化や女性の社会進出による家族の形態の変化など、様々な変化が生じている。もちろん、未来を完全に予測することには限界があるが、一方では、これまでのトレンド(傾向)を踏まえることで、「より正確と考えられる」予測につなげることができる。そこで、Education2030プロジェクトでは、コンピテンシーやカリキュラムについての議論を前提として、社会変化のトレンドのうち主要なものをメガ・トレンドとして、今後の社会変化についての将来予測を行うこととしたのである。
つまり、「VUCA」な未来ではあるが、できるだけクリアに捉えてみよう、という意志なり決意があるということである。
そして、それをその後のカリキュラムの議論に沿うかたちで、
(1)社会における変化
(2)経済面での変化
(3)個人における変化
という3つの観点で、取り上げ分析していく。
そして、それにしても!、ほとんどすべての課題は日本の課題だし、日本の課題はそのまま世界の課題でもあることに改めて驚く。それほど教育が国内での議論には収めきれないところにきているのだろう。内容を全部取り上げるのは難しいので、項目と若干の引用にとどめる。(青字は私が着目したキーセンテンスです。)
「メガ・トレンド」
(1)社会における変化
①移民の増加
日本など少子高齢化の進行が予測される国については、一定の外国人移民を受け入れることが必要になってくることも考えられる。そうなれば、外国人の生徒の教育に関する課題も、これまで以上に多く生じることになるだろう。
②地球環境の変化
少なくとも過去20年を見る限りでは、世界全体における温室効果ガスの排出は増加の一途をたどっている。現状のままでは、COP21で定めた気温上昇を2%未満に抑えると言う目標を果たす事は厳しい状況にあることも指摘されている。
③自然災害の増加
日本においても、地震や津波、台風、洪水等が頻発しているが、環太平洋地域においては、地震が重大な問題を引き起こしている。
年ごとの変化はあるものの全体として増加傾向が見られる。こうした増加傾向の背景には地球温暖化が進んだことによる平均気温の上昇も指摘されている。
④政府に対する信頼の低下
政府に対する信頼の低下は、政治家や公務員不信と言うことで済む問題ではなく、より深刻な問題をはらんでいる。と言うのも、政府に対する信頼が欠けていると言う事は、政府が策定する各種の法令や様々なルールを守ろうとする意識が失われている可能性があるからである。例えば投資家や消費者の立場からすれば、コンプライアンスの意識に欠けているような国において、積極的に投資したり、消費するという意欲にはつながらないだろう。
⑤テロやサイバー犯罪の増加
インターネットを介したサイバー犯罪として、例えばオンラインでの詐欺や偽物・違法コンテンツの取引なども活発化している。
(2)経済面での変化
①経済的な格差の拡大
現代では「富めるもの」の中でも特に「上位1%」と呼ばれる超富裕層に富が集中している。
「勝者総取り型」の経済問題は、企業のオートメーション化が進んで、生産性が向上しても、その結果が労働者の賃金の上昇にはつながらず、その利益が資本家に集中していくことにある。すなわち、富の格差の拡大につながっているのである。
②雇用オートメーション化
明確な傾向が見られるのが、ルーチン的なタスク(仕事)に対する需要の減少である。
簿記や事務、単調な製造業務等であるが、こうしたタスクについては、コンピューターによって代替されたり、労働力の安い途上国にとって変わられてしまうことが予想される。
③失業率
様々な業務のデジタル化が進んでいる影響があって、多くのOECD加盟国において労働市場は深刻な状況にある。近年では「ギグ・エコノミー」と呼ばれるような経済のあり方が拡大しつつある。「ギグ・エコノミー」とは、インターネットを介して単発の仕事を請け負うことで成り立つような経済のあり方で(中略)、こうした単発の業務を受注する労働者(ギグ・ワーカーと呼ばれる)の場合には、簡単に仕事を受注できると言う意味で高い利便性を享受できる一方、そうした仕事が、今後も安定的に存在し続けると言う保証があるとは言えないだろう。
(3)個人レベルでの変化
①家族の形態の変化
OECD加盟国において概ね共通する傾向として見られるのが社会全体の高齢化である。社会における高齢化の進行は、経済や社会福祉をどのように維持していくか行くのかと言う大きな問題を投げかけることになる。
家族の形態に関するその他の変化要因として、女性の社会進出と結婚率の低下が挙げられる。結婚する夫婦の割合が減少している一方で、離婚率が増大したり、あるいは制度上の結婚と言う形にとらわれず一緒に暮らすと言う選択肢も増大している。こうした変化は、従来とは異なる形の過程のもとで生まれ、育てられる子供が増えていくと言う事でもある。
②肥満や自殺の増加
2020年現在、世界全体での肥満は1975年から3倍になっていると言う。5歳から19歳までの幼児や若者についてみると、1975年には標準以上の体重か、あるいは肥満なのは4%に過ぎなかったが、2016年には18%になっている。世界中では、年間約800,000人の自殺者が出ていると推計されている。自殺の原因は様々であり、うつ病や双極性障害(躁鬱病)、統合失調症などの精神疾患を抱えるものも多い。また所得の低さや失業、アルコールや薬物、社会的孤立なども、自殺の原因になっていると考えられている。
③政治への市民参加の低下
OECD加盟国においては、軒並み、投票率の顕著な低下が見られる。投票は市民が社会を変えるための重要な行動の1つであるにもかかわらず、その機会を活用せずに放棄している層が相当の割合でいると言うことである。
以上の現状と未来の想定を踏まえて、教育におけるコンピテンシーやエージェンシー、ラーニング・コンパスの方針検討していくと言うことになる。
そしてその前に、教育のこれからの新常識として「ニュー・ノーマル」を8点提起していく。
(その8点を「伝統的な教育」→「ニュー・ノーマル(新常識)の教育」という表記にして、キーセンテンスを加えます。)
「ニュー・ノーマル」
(1)教育制度を単体として捉える
→教育制度をエコシステム(生態系)の視点から捉える
家庭のあり方、国民の意識、経済や財政も状況、都市化や過疎化の進行など、様々な要素を踏まえたうえで、教育制度について考えていく必要がある
(2)一部の選ばれた人による意思決定
→より広い関係者による意思決定
雇用者や保護者、生徒や地域の人々など多様な関係者が意思決定にかかわり、責任を共有していくことが重要になってくる
(3)役割分担
→一人一人の教育に(生徒自身もふくめて)皆が責任をもつ
管理職や担当する教師、保護者も含めて皆が共同して取り組み(中略)、生徒自身も自ら教育に責任を負うと言う事である
(4)インプットとアウトカム
→インプット、プロセス、アウトカム(特にプロセスの重視)
アウトカムとしての学習到達度だけでなく、学習のプロセスについても、それ自体が固有の価値をもつものとして認識される
(5)生徒の直線的な発達を前提にした、標準化されたカリキュラム
→生徒の非線形の発達モデルと想定する
生徒一人ひとりにそれぞれの学習経路(path)があり、また、学校に入る段階でも、それぞれの家庭環境などの違いによって、既に知識やスキル、態度などが異なっているのは当然である(中略)。そうした違いを前提にしながら、非線型の発達もでるを考えていく
(6)標準化されたテスト中心の評価
→「学習のための評価」、「学習としての評価」を含めた講義の評価
標準化されたテストのスコア類置かれがちだった。評価すること自体が学習へのステップとなると考える考え方
(7)説明責任とコンプライアンス
→システム改善のためのフィードバック
こうした対応ができているかといった結果を細かく追うことより、システム全体をどのように改善していくべきかと言うフィードバックを重視し、より建設的・双方的なアプローチを重視する
(8)教師は生徒を指示し、生徒は教師の指示をうける
→生徒の能動的な学習へ参画を重視する
生徒もエージェンシーを発揮して教育に積極的に参加し、教師と協働する存在として期待される
以上、ごく簡単な内容紹介だが、近未来からの風に向ての教育のありようが少しずつ見えてきたところである。そしてこれから、具体的な学習の枠組みとして取りまとめへと入っていく。