◎ 東京都の教育現場における国旗国歌強制による教育権、労働権の侵害<前>
1、はじめに
東京都教育委員会は、全都立高の教職員に対して、卒・入学式の国歌斉唱時に起立・斉唱・伴奏せよとの「職務命令」を校長を通して発令させ(2003年「10・23通達」)、従わなかった教職員を命令違反で懲戒処分してきた。2003年以降、その数は437人に達した(2011年5月現在)。
日本の国歌『君が代』は、旧憲法下の軍国主義・全体主義時代から連続して使われ、歌詞も「天皇の御代は末永く繁栄するように」とのまま変わっていないので、学校で強制的に歌わせることに国民の中に保護者・生徒も含めて広範で根強い抵抗感がある。処分された教員は、平和と人権を尊重する教育上の信念から、国歌斉唱時に静かに座っていただけでである。
このことは、教員個人の思想・良心・信仰の自由を侵害している点で自由権規約第18条違反であるにとどまらず、懲戒処分に引き続く様々な労働権の侵害を引き起こしているばかりか、生徒の平等に教育を受ける権利の侵害にも及んでおり、社会権規約2条・6条・7条・13条違反であることを報告する。
2、子どもの「人格の尊厳を尊重する教育」への権利(13条1項・3項違反)
東京の学校には、様々な民族、宗教、政治的意見に違いのある生徒が通っており、各々の思想・良心の自由や意見表明権は尊重されなければならない。子どもたちと直接人格的接触を持つ教員に対する画一的「起立斉唱」の強制は、必然的に生徒たちの精神の自由に圧迫を及ぼし、人間の尊厳を傷つける事態を引き起こしている。
(1)「内心の自由」の説明の禁止
生徒・保護者の民族、宗教、政治的意見の違いなど多様性を尊重するため、大半の高校では卒業式の前に「内心の自由は尊重されます」との説明を行ってきたが、都教委は式直前にこのような説明を行うことは「不適切」であるとして禁止し、説明を行った教員らを「厳重注意」処分にした。
(2)生徒を「起立斉唱」させる間接的圧力
卒業式で不起立の生徒が多い学校があると、都教委は担任を指導不足または学習指導要領違反であるとして「厳重注意」処分にした。同時に、全都の教員向けに「生徒を起立斉唱させる指導を徹底せよ」との趣旨の通達・通知を出した。
(3)生徒への「起立斉唱」の直接的強制
2005年度以降の教員への「職務命令」の中には、国歌斉唱時に不起立の生徒が居た場合、立たせるように指導することが含まれており、「指導」の名の下に生徒の人権を踏みにじることが行われている。
A高校では、卒業式で国歌斉唱時に着席した生徒たちに対して、教頭が直接手をかけて立たせようとした。教頭は、後日その生徒たちを呼び出して、着席した理由や背景を問い糾すなど生徒の内心の自由に圧力を加え続けた。
B高校では、卒業生のほとんど全員が着席したことに対して、都議や管理職が、生徒たちの「意見表明権」を無視して「起立」を促す怒鳴り声を上げた。生徒たちが従わなかったため、担任教員らが「煽動」したのではないかと都教委と警察から取り調べを受ける事態に発展し、また開会式前に保護者に不起立を呼び掛けた退職教員一人が刑事告発された。
C小学校では、予行で起立しなかった生徒が担任から給食の時間に呼ばれ理由を問い糾された。それを見ていたもう一人の生徒は不安で食事がのどを通らなくなり夜も眠れなくなった。二人ともキリスト教の信仰を持つ生徒である。卒業式で一人は起立し一人は不起立を貫いた。心配した二人の保護者が学校に抗議をしたが謝罪は得られなかった。
(4)「国旗国歌」について生徒が自由に議論し意見を発表することを都教委が禁止した
D高校では生徒会主催で「国旗国歌」について討論会を行い、校長や教員も参加した。これを都教委が問題視し、教員全員から事情聴取した上で、不適切な話し合いだったとして生徒会顧問の教員と教頭を「厳重注意」処分にした。その後に予定されていた生徒会の討論会は中止になった。
E高校の卒業式の「答辞」の中に「強制・圧力」に触れた文言があったことに対し、都教委は校長に、生徒の選出過程、家庭環境、煽動した教員の有無を調査させた。
(5)信仰の違い、民族・国籍の違いから、自主的に卒業式への出席を回避する生徒・保護者も現れた
マイノリティへの配慮を欠いた画一的なやり方は、彼らの式典への参加権を侵害している。
F高校では、卒業式の前日に保護者と生徒が校長室を訪れ、信仰上の理由で卒業式を欠席する意志を伝えた上で、当日欠席した。
G高校では、卒業式に国歌斉唱が終わってから一人遅れて入場してきた生徒がいた。外国籍の生徒で、「君が代」の起立斉唱をしたくなかったからである。
(6)養護学校では、生徒の生命・安全よりも国旗国歌の方を尊重する卒業式のあり方が顕著に見られる
H養護学校で、国歌斉唱中に、筋ジストロフィーの生徒の人工呼吸器のアラームが鳴って看護師が駆けつけたところ、教頭は看護師に生徒にかまわないで起立することを厳しく命じた。
I養護学校の予行の時、トイレに行きたいとサインを出した子どもがいた。副校長は、本番にはおむつを着けるように命じた。
J養護学校の予行の時に、最重度障害の生徒を、安全で楽な姿勢で臨めるように教員が座って抱きかかえていたところ、校長は本番では「生徒を放置して起立する」か「生徒を参加させない」かいずれかをとるように命じた。
以上の事例は、生徒が卒業式という「逃れられない場」において、国旗国歌への敬意表明を事実上強制されていることを示している。このことは、国旗国歌の取り扱いも含めて卒業式を生徒が主体で行う生徒固有の自由を侵害しており、規約13条1項、3項に違反する。
教育の目的とは、『A規約一般的意見第13』のパラグラフ4には、「あらゆる教育は第13条1項にあげられた目的及び目標を指向することに同意している」、そして「最も基本的なのは『教育は人格の完成を指向』するということ」とある。
教育の自由について、同パラグラフ28には、「特定の宗教又は信念を教えることを含む公教育は、父母及び保護者の希望に適合する非差別的な免除又は替的手段が講じられない限り、第13条3項に合致しないことに留意する」とある。
学問の自由について、同パラグラフ38には「教育部門のすべての職員及び生徒が学問の自由についての権利を有している」とある。
これら規約の精神に基づくなら、学校・教育の場における問題の解決は、権力的・権威的な方法、上意下達・命令服従による解決ではなく、子ども・親(保護者)・教職員など当事者の参加により「教育と人権の論理」でなされるべきであることは明らかである。そしてそのような仕事こそ教員の本来的「職務」であるにも関わらず、子どもの教育権を守るために行動した教員は、以下に述べるように様々な迫害を受けている。
(続) リンク → クリック
1、はじめに
東京都教育委員会は、全都立高の教職員に対して、卒・入学式の国歌斉唱時に起立・斉唱・伴奏せよとの「職務命令」を校長を通して発令させ(2003年「10・23通達」)、従わなかった教職員を命令違反で懲戒処分してきた。2003年以降、その数は437人に達した(2011年5月現在)。
日本の国歌『君が代』は、旧憲法下の軍国主義・全体主義時代から連続して使われ、歌詞も「天皇の御代は末永く繁栄するように」とのまま変わっていないので、学校で強制的に歌わせることに国民の中に保護者・生徒も含めて広範で根強い抵抗感がある。処分された教員は、平和と人権を尊重する教育上の信念から、国歌斉唱時に静かに座っていただけでである。
このことは、教員個人の思想・良心・信仰の自由を侵害している点で自由権規約第18条違反であるにとどまらず、懲戒処分に引き続く様々な労働権の侵害を引き起こしているばかりか、生徒の平等に教育を受ける権利の侵害にも及んでおり、社会権規約2条・6条・7条・13条違反であることを報告する。
2、子どもの「人格の尊厳を尊重する教育」への権利(13条1項・3項違反)
東京の学校には、様々な民族、宗教、政治的意見に違いのある生徒が通っており、各々の思想・良心の自由や意見表明権は尊重されなければならない。子どもたちと直接人格的接触を持つ教員に対する画一的「起立斉唱」の強制は、必然的に生徒たちの精神の自由に圧迫を及ぼし、人間の尊厳を傷つける事態を引き起こしている。
(1)「内心の自由」の説明の禁止
生徒・保護者の民族、宗教、政治的意見の違いなど多様性を尊重するため、大半の高校では卒業式の前に「内心の自由は尊重されます」との説明を行ってきたが、都教委は式直前にこのような説明を行うことは「不適切」であるとして禁止し、説明を行った教員らを「厳重注意」処分にした。
(2)生徒を「起立斉唱」させる間接的圧力
卒業式で不起立の生徒が多い学校があると、都教委は担任を指導不足または学習指導要領違反であるとして「厳重注意」処分にした。同時に、全都の教員向けに「生徒を起立斉唱させる指導を徹底せよ」との趣旨の通達・通知を出した。
(3)生徒への「起立斉唱」の直接的強制
2005年度以降の教員への「職務命令」の中には、国歌斉唱時に不起立の生徒が居た場合、立たせるように指導することが含まれており、「指導」の名の下に生徒の人権を踏みにじることが行われている。
A高校では、卒業式で国歌斉唱時に着席した生徒たちに対して、教頭が直接手をかけて立たせようとした。教頭は、後日その生徒たちを呼び出して、着席した理由や背景を問い糾すなど生徒の内心の自由に圧力を加え続けた。
B高校では、卒業生のほとんど全員が着席したことに対して、都議や管理職が、生徒たちの「意見表明権」を無視して「起立」を促す怒鳴り声を上げた。生徒たちが従わなかったため、担任教員らが「煽動」したのではないかと都教委と警察から取り調べを受ける事態に発展し、また開会式前に保護者に不起立を呼び掛けた退職教員一人が刑事告発された。
C小学校では、予行で起立しなかった生徒が担任から給食の時間に呼ばれ理由を問い糾された。それを見ていたもう一人の生徒は不安で食事がのどを通らなくなり夜も眠れなくなった。二人ともキリスト教の信仰を持つ生徒である。卒業式で一人は起立し一人は不起立を貫いた。心配した二人の保護者が学校に抗議をしたが謝罪は得られなかった。
(4)「国旗国歌」について生徒が自由に議論し意見を発表することを都教委が禁止した
D高校では生徒会主催で「国旗国歌」について討論会を行い、校長や教員も参加した。これを都教委が問題視し、教員全員から事情聴取した上で、不適切な話し合いだったとして生徒会顧問の教員と教頭を「厳重注意」処分にした。その後に予定されていた生徒会の討論会は中止になった。
E高校の卒業式の「答辞」の中に「強制・圧力」に触れた文言があったことに対し、都教委は校長に、生徒の選出過程、家庭環境、煽動した教員の有無を調査させた。
(5)信仰の違い、民族・国籍の違いから、自主的に卒業式への出席を回避する生徒・保護者も現れた
マイノリティへの配慮を欠いた画一的なやり方は、彼らの式典への参加権を侵害している。
F高校では、卒業式の前日に保護者と生徒が校長室を訪れ、信仰上の理由で卒業式を欠席する意志を伝えた上で、当日欠席した。
G高校では、卒業式に国歌斉唱が終わってから一人遅れて入場してきた生徒がいた。外国籍の生徒で、「君が代」の起立斉唱をしたくなかったからである。
(6)養護学校では、生徒の生命・安全よりも国旗国歌の方を尊重する卒業式のあり方が顕著に見られる
H養護学校で、国歌斉唱中に、筋ジストロフィーの生徒の人工呼吸器のアラームが鳴って看護師が駆けつけたところ、教頭は看護師に生徒にかまわないで起立することを厳しく命じた。
I養護学校の予行の時、トイレに行きたいとサインを出した子どもがいた。副校長は、本番にはおむつを着けるように命じた。
J養護学校の予行の時に、最重度障害の生徒を、安全で楽な姿勢で臨めるように教員が座って抱きかかえていたところ、校長は本番では「生徒を放置して起立する」か「生徒を参加させない」かいずれかをとるように命じた。
以上の事例は、生徒が卒業式という「逃れられない場」において、国旗国歌への敬意表明を事実上強制されていることを示している。このことは、国旗国歌の取り扱いも含めて卒業式を生徒が主体で行う生徒固有の自由を侵害しており、規約13条1項、3項に違反する。
教育の目的とは、『A規約一般的意見第13』のパラグラフ4には、「あらゆる教育は第13条1項にあげられた目的及び目標を指向することに同意している」、そして「最も基本的なのは『教育は人格の完成を指向』するということ」とある。
教育の自由について、同パラグラフ28には、「特定の宗教又は信念を教えることを含む公教育は、父母及び保護者の希望に適合する非差別的な免除又は替的手段が講じられない限り、第13条3項に合致しないことに留意する」とある。
学問の自由について、同パラグラフ38には「教育部門のすべての職員及び生徒が学問の自由についての権利を有している」とある。
これら規約の精神に基づくなら、学校・教育の場における問題の解決は、権力的・権威的な方法、上意下達・命令服従による解決ではなく、子ども・親(保護者)・教職員など当事者の参加により「教育と人権の論理」でなされるべきであることは明らかである。そしてそのような仕事こそ教員の本来的「職務」であるにも関わらず、子どもの教育権を守るために行動した教員は、以下に述べるように様々な迫害を受けている。
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