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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

伊達判決(抜粋)

2008年07月08日 | 人権
「わが国内に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものといわざるを得ない」

砂川事件第一審判決(伊達判決)
日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法違反事件
東京車裁昭和32(特わ)第367号、368号
1959(昭和34)・3・30判決
被告人7名(氏名省略)

主文

本件各公訴事実につき、被告人らはいずれも無罪

理由
 (中略)
 右事実は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定に伴う刑事特別法(以下刑事特別法と略称する。)第2条に該当するが、同法条は、日米安全保障条約に基いてわが国内に駐留する合衆国軍隊が使用する一定の施設又は区域内における合衆国軍隊及びその構成員等の行動、生活等の平穏を保護するため右施設又は区域にして入ることを禁止した場所に対する、正当な理由なき立入又は不退去を処罰するものであるところ、これに対応する一般刑罰法規としては、軽犯罪法第1条第32号の正当な理由なく立入禁止の場所等に入った者に対する処罰規定を見出すことができ、従って刑事特別法第2条は右の軽犯罪法の規定と特別法、一般法の関係にあるものと解することができる。

しかして、両者間の刑の軽重をみるに、軽犯罪法は拘留又は科料(情状により刑を免除又は併科し得る。)を科し得るに止まるのに対し、刑事特別法第2条は1年以下の懲役又は2千円以下の罰金若しくは科料を科し得るのであって、後者においては前者に比してより重刑をもって臨んでいるのであるが、この差異は法が合衆国軍隊の施設又は区域内の平穏に関する法益を特に重要に考え、一般国民の同種法益よりも一層厚く保護しようとする趣旨に出たものとみるべきである。そこでもしこの合衆国軍隊の駐留がわが国の憲法に何等抵触するものでないならば、右の差別的取扱は敢えて問題とするに足りないけれども、もし合衆国軍隊の駐留がわが憲法の規定上許すべからざるものであるならば、刑事特別法第2条は国民に対して何等正当な理由なく軽犯罪法に規定された一般の場合よりも特に重い刑罰を以て臨む不当な規定となり、何人も適正な手続によらなければ珊罰を科せられないとする憲法第31条及び右憲法の規定に違反する結果となるものといわざるを得ないのである。そこで以下この点について検討を進めることとする。

 日本国憲法はその第9条において、国家の政策の手段としての戦争、武力による威嚇又は武力の行使を永久に放棄したのみならず、国家が戦争を行う権利を一切認めず、且つその実質的裏付けとして陸海空軍その他の戦力を一切保持しないと規定している。即ち同条は、自衛権を否定するものではないが、侵略的戦争は勿論のこと、自衛のための戦力を用いる戦争及び自衛のための戦力の保持をも許さないとするものであって、この規定は政府の行為によって再び載争の惨禍が起ることのないやうに」(憲法前文第1段)しようとするわが国民が、「恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想(国際連合憲章もその目標としている世界平和のための国際協力の理想)を深く自覚」(憲法前文第2段)した結果、「平和を愛する諸国民の公正と信嚢に信頼して、われらの安全と生存を維持しよう」(憲法前文第2段)とする、即ち戦争を国際平和団体に対する犯罪とし、その団体の国際警察軍による軍事的措置等、現実的にはいかに譲歩しても右のような国際平和団体を目ざしている国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等を最低線としてこれによってわが国の安全と生存を維持しようとする決意に基くものであり、単に消極的に諸外国に対して、従来のわが国の軍国主嚢的、侵略主義的政策についての反省の実を示さんとするに止まらず、正義と秩序を基調とする世界永遠の平和を実現するための先駆たらんとする高遠な理想と悲壮な決意を示すものといわなければならない。従って憲法第9条の解釈は、かような憲法の理念を十分考慮した上で為さるべきであって、単に文言の形式的、概念的把握に止まってはならないばかりでなく、合衆国軍隊のわが国への駐留は、平和条約が発効し連合国の占領軍が撤収した後の軍備なき真空状態からわが国の安全と生存を維持するため必要であり、自衛上やむを得ないとする政策論によって左右されてはならないことは当然である。

 そこで合衆国軍隊の駐留と憲法第9条の関係を考察するに、前記のようにわが国が現実的にはその安全と生存の維持を信託している国際連合の機関による勧告又は命令に基いて、わが国に対する武力攻撃を防禦するためにその軍隊を駐留せしめるということであればあるいは憲法第9条第2項前段によって禁止されている戦力の保持に該当しないかもしれない。しかしながら合衆国軍隊の場合には、わが国に対する武力攻撃を防禦するためわが国がアメリカ合衆国に対して軍隊の配備を要請し、合衆国がこれを承諾した結果、極東における国際の平和と安全の維持及び外部からの武力攻撃に対するわが国の安全に寄与し、且つ一又は二以上の外部の国による教唆又は干渉によって引き起されたわが国内における大規模な内乱、騒じょうの鎮圧を援助する目的でわが国内に駐留するものであり(日米安全保障条約第1条)、わが国はアメリカ合衆国に対してこの目的に必要な国内の施設及び区域を提供しているのである(行政協定第2条第1項)。従ってわが国に駐留する合衆国軍隊はただ単にわが国に加えられる武力攻撃に対する防禦若しくは内乱等の鎮圧の援助にのみ使用されるものではなく、合衆国が極東における国際の平和と安全の維持のために事態が武力攻撃に発展する場合であるとして、戦略上必要と判断した際にも当然日本区域外にその軍隊を出動し得るのであって、その際にはわが国が提供した国内の施設、区域は勿乱この合衆国軍隊の軍事行動のために使用されるわけであり、わが国が自国と直接関係のない武力紛争の渦中に巻き込まれ、戦争の惨禍がわが国に及ぶ虞は必ずしも絶無ではなく、従って日米安全保障条約によってかかる危険をもたらす可能性を包蔵する合衆国軍隊の駐留を許容したわが国政府の行為は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きないようにすることを決意」した日本国憲法の精神に悖るのではないかとする疑念も生ずるのである。

 しかしながらこの点はさて措き、わが国が安全保障条約において希望したところの、合衆国軍隊が外部からの武力攻撃に対してわが国の安全に寄与するため使用される場合を考えて見るに、わが国は合衆国軍隊に対して指揮権、管理権を有しないことは勿論、日米安全保障条約上合衆国軍隊は外部からのわが国に対する武力攻撃を防禦すべき法的義務を負担するものでないから、たとえ外部からの武力攻撃が為された場合にわが国がその出動を要請しても、必ずしもそれが容れられることの法的保障は存在しないのであるが、日米安全保障条約締結の動機、交渉の過程、更にはわが国とアメリカ合衆国との政治上、経済上、軍事上の密接なる協力関係、共通の利害関係等を考慮すれば、そのような場合に合衆国がわが国の要請に応じ、既にわが国防衛のため国内に駐留する軍隊を直ちに使用する現実的可能性は頗る大きいものと思料されるのである。而してこのことは行政協定第24条に「日本区域において敵対行為又は敵対行為の急迫した脅威が生じた場合には、日本国政府及び合衆国政府は、日本区域防衛のため必要な共同措置を執り、且つ安全保障条約第1条の目的を遂行するため、直ちに協議しなければならない。」と規定されていることに徴しても十分窺われるところである。ところでこのような実質を有する合衆国軍隊がわが国に駐留するのは、勿論アメリカ合衆国の一方的な意思決定に基くものではなく、前述のようにわが国政府の要請と、合衆国政府の承諾という意思の合致があったからであって、従って合衆国軍隊の駐留は一面わが国政府の行為によるものということを妨げない。蓋し合衆国軍隊の駐留は、わが国の要請とそれに対する施設、区域の提供、費用の分担その他の協力があって始めて可能となるものであるからである。かようなことを実質的に考察するとき、わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容していることは、指揮権の有無、合衆国軍隊の出動義務の有無に拘らず、日本国憲法第9条第2項前段によって禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものといわざるを得ず結局わが国内に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものといわざるを得ないのである。

 もとより、安全保障条約及び行政協定の存続する限り、わが国が合衆国に対しその軍隊を駐留させ、これに必要なる基地を提供しまたその施設等の平穏を保護しなければならない国際法上の義務を負担することは当然であるとしても、前記のように合衆国軍隊の駐留が憲法第9条第2項前段に違反し許すべからざるものである以上、合衆国軍隊の施設又は区域内の平穏に関する法益が一般国民の同種法益と同様の刑事上、民事上の保護を受けることは格別、特に後者以上の厚い保護を受ける合理的な理由は何等存在しないところであるから、国民に対して軽犯罪法の規定よりも特に重い刑罰をもって臨む刑事特別法第2条の規定は、前に指摘したように何人も適正な手続によらなければ刑罰を科せられないとする憲法第31条に違反し無効なものといわなければならない。

 よって、被告人等に対する各公訴事実は起訴状に明示せられた訴因としては罪とならないものであるから、刑事訴訟法第336条により被告人等に対しいずれも無罪の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。

 (裁判官 伊達秋雄 清水春三 松本一郎)

「草の根ニュース」(沖縄日本から米軍基地をなくす草の根運動機関紙)45号・2008年6月20日付録

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