▼ 福島事故の健康被害 一層大きくなる懸念 (週刊新社会)
『ビッグコミックスピリッツ』連載の「美味しんぼ」(福島の真実)に端を発した低線量被ばくの安全性についての原子力ムラのキャンペーンが激しい。根拠になる測定値等について、かねてより被ばくの健康に対する影響の研究を続けている医師の松崎道幸さんにからくりを明らかにしてもらった。
▼ ガン死リスクを小さく見積る
一つ目のウソは、放射線被ばくの健康影響(がん死リスク)をひとケタ近く小さく見積もっていることです。
政府は原爆被ばく者の追跡調査をもとに、1000ミリシーベルト(mSv)の外部被ばくでがん死が47%増えるが、もっと少ない線量、例えば100mSv以下でゆっくり被ばくするなら、ほとんどがんは増えないと言っています。
ところが、原爆被ばく者の追跡調査は、原爆投下から5年経ってから始められたため、放射線被ばくに「強い」集団を追跡したことになり、被ばくの影響を少なく見積もる「かたより」があるのです。
そのうえ、最近の医療被ばく(CT検査など)後の発がん率を調査した研究によると、わずか10mSvの被ばくでもがんが3%有意に増加することがわかりました。医療被ばくデータは、被ばく線量とがんの診断が正確であるという長所を持っており、原爆のデータよりも信頼性があります。
さて、10mSvで3%増ということは1000mSvで300%増となり、医療被ばくデータで明らかになったがんのリスクは、政府の主張よりも6・4倍も大きいことがわかりました。
原爆データが被ばくの影響を過小評価していることを証明するデータがもう一つあります。それは、日本の原発などの原子力施設従業員20万人を10・9年間追跡したデータです。それによれば、累積被ばく10mSvあたり、がん死のリスクが有意に3%増加していました。
一瞬のCT被ばくでも、10年以上の慢性被ばくでも、10mSvあたりのがんリスク増加率が等しい結果となったのは興味深いことです。
これらの調査の対象集団は主に中年男性でしたから、放射線に弱い子どもや若年者ではさらに発がんリスクが高くなるでしょう。
▼ 被ばく量を小さく見せる
二つ目のウソは、福島事故による被ばく量をずっと小さく見せようとしていることです。政府は三つの手法でそれを行っています。
①モニタリングポストに放射線が届かないように周囲を「除染」「遮蔽」して、空間線量を5割引き:モニタリングポストの土台に放射線を遮る鉄板やコンクリートを使う等。
②個人線量計で被ばく線量を大幅割引:政府は、住民に個人線量計を携行させ「実測」すると、空間線量から予測される被ばく量の10分の1程度しか被ばくしていないと発表しています。しかし個人線量計では内部被ばくを測れません。また、すべての外部被ばくの総和を計測できる機能があるかは証朋されていません。
③そもそも内部被ばくはゼロ査定:チェルノブイリ事故では、外部被ばくがあれば、その3分の2の線量の内部被ばくがあるという前提で、避難区域を設定していました。つまり、10mSvの外部被ばくがあると、さらに6・7mSvの内部被ばくが同時に生じているとして、総被ばく量を16・7mSvと算定していたわけです。
この三つの手法によって被ばく線量は、一ケタ小さく見積られることになるでしょう。
以上述べてきたように、放射線の健康被害と実際の被ばく量をそれぞれ一ケタ小さく見積もるという二重の「ウソ」によって、福島事故の健康被害が一層大きくなることが懸念されます。(これらのデータの詳しい解説が、内部被ばく研究会ホームページに掲載されています。ぜひご覧ください。(※市民と科学者の内部被曝問題研究会)
http://www.acsir.org/
最後に鼻血(鼻出血)について述べます。福島事故では、一般住民に大量の被ばくは起きていません。しかし、原発事故後に大量の鼻出血を繰り返す人が数多く見られたことは事実です。
福島事故で放出された放射性微粒子は直径が1ミクロン前後で、約500億個の放射性セシウム原子を含みます。このような粒子が無数に鼻の粘膜に付着したなら、ベータ線が狭い領域に大量に放射され、粘膜や血管の細胞を破壊して、鼻出血が生ずる可能性があります。先入観にとらわれず、事実を見つめてゆくことが大切です。
まつざき・みちゆき
1950年6月26日生、75年3月北海道大学医学部卒業、84年10月より深川市立総合病院。現在内科部長。市民と科学者の内部被曝問題研究会、北海道反核医師の会代表委員。
『週刊新社会』(2014/6/10)
市民と科学者の内部被曝問題研究会 松崎道幸
『ビッグコミックスピリッツ』連載の「美味しんぼ」(福島の真実)に端を発した低線量被ばくの安全性についての原子力ムラのキャンペーンが激しい。根拠になる測定値等について、かねてより被ばくの健康に対する影響の研究を続けている医師の松崎道幸さんにからくりを明らかにしてもらった。
▼ ガン死リスクを小さく見積る
一つ目のウソは、放射線被ばくの健康影響(がん死リスク)をひとケタ近く小さく見積もっていることです。
政府は原爆被ばく者の追跡調査をもとに、1000ミリシーベルト(mSv)の外部被ばくでがん死が47%増えるが、もっと少ない線量、例えば100mSv以下でゆっくり被ばくするなら、ほとんどがんは増えないと言っています。
ところが、原爆被ばく者の追跡調査は、原爆投下から5年経ってから始められたため、放射線被ばくに「強い」集団を追跡したことになり、被ばくの影響を少なく見積もる「かたより」があるのです。
そのうえ、最近の医療被ばく(CT検査など)後の発がん率を調査した研究によると、わずか10mSvの被ばくでもがんが3%有意に増加することがわかりました。医療被ばくデータは、被ばく線量とがんの診断が正確であるという長所を持っており、原爆のデータよりも信頼性があります。
さて、10mSvで3%増ということは1000mSvで300%増となり、医療被ばくデータで明らかになったがんのリスクは、政府の主張よりも6・4倍も大きいことがわかりました。
原爆データが被ばくの影響を過小評価していることを証明するデータがもう一つあります。それは、日本の原発などの原子力施設従業員20万人を10・9年間追跡したデータです。それによれば、累積被ばく10mSvあたり、がん死のリスクが有意に3%増加していました。
一瞬のCT被ばくでも、10年以上の慢性被ばくでも、10mSvあたりのがんリスク増加率が等しい結果となったのは興味深いことです。
これらの調査の対象集団は主に中年男性でしたから、放射線に弱い子どもや若年者ではさらに発がんリスクが高くなるでしょう。
▼ 被ばく量を小さく見せる
二つ目のウソは、福島事故による被ばく量をずっと小さく見せようとしていることです。政府は三つの手法でそれを行っています。
①モニタリングポストに放射線が届かないように周囲を「除染」「遮蔽」して、空間線量を5割引き:モニタリングポストの土台に放射線を遮る鉄板やコンクリートを使う等。
②個人線量計で被ばく線量を大幅割引:政府は、住民に個人線量計を携行させ「実測」すると、空間線量から予測される被ばく量の10分の1程度しか被ばくしていないと発表しています。しかし個人線量計では内部被ばくを測れません。また、すべての外部被ばくの総和を計測できる機能があるかは証朋されていません。
③そもそも内部被ばくはゼロ査定:チェルノブイリ事故では、外部被ばくがあれば、その3分の2の線量の内部被ばくがあるという前提で、避難区域を設定していました。つまり、10mSvの外部被ばくがあると、さらに6・7mSvの内部被ばくが同時に生じているとして、総被ばく量を16・7mSvと算定していたわけです。
この三つの手法によって被ばく線量は、一ケタ小さく見積られることになるでしょう。
以上述べてきたように、放射線の健康被害と実際の被ばく量をそれぞれ一ケタ小さく見積もるという二重の「ウソ」によって、福島事故の健康被害が一層大きくなることが懸念されます。(これらのデータの詳しい解説が、内部被ばく研究会ホームページに掲載されています。ぜひご覧ください。(※市民と科学者の内部被曝問題研究会)
http://www.acsir.org/
最後に鼻血(鼻出血)について述べます。福島事故では、一般住民に大量の被ばくは起きていません。しかし、原発事故後に大量の鼻出血を繰り返す人が数多く見られたことは事実です。
福島事故で放出された放射性微粒子は直径が1ミクロン前後で、約500億個の放射性セシウム原子を含みます。このような粒子が無数に鼻の粘膜に付着したなら、ベータ線が狭い領域に大量に放射され、粘膜や血管の細胞を破壊して、鼻出血が生ずる可能性があります。先入観にとらわれず、事実を見つめてゆくことが大切です。
まつざき・みちゆき
1950年6月26日生、75年3月北海道大学医学部卒業、84年10月より深川市立総合病院。現在内科部長。市民と科学者の内部被曝問題研究会、北海道反核医師の会代表委員。
『週刊新社会』(2014/6/10)
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