2023年2月11日
◆ 合理的配慮無視の戒告処分撤回裁判の報告
奥野泰孝(原告)
2021年5月10日、大阪地裁に提訴。
第1期日は6月28日、その後、9月、11月、2022年1月、4月、7月、9月、10月、12月と続き、第10期日の2023年1月30日で証人尋問がありました。
新型コロナ感染の広がる中、傍聴など支援してくださった方々に感謝します。
2023年の今後の予定です。
2月25日尋問調書が仕上がり裁判所から送られてくる。
(尋問調書が出来上がってくる前に1度弁護団会議を持ち、最終書面の内容を検討します。)
4月14日最終書面提出〆切(被告側は出さないとのこと)。
☆ 5月17日13:30判決(大阪地裁807法廷)
☆ 6月3日(土)13:30から「叫ぶ石の会&支援学校の不起立応援団」合同総会、
14:00から記念講演と裁判報告の集会。
テーマ(仮):「合理的配慮」と「君が代」強制
◆ 経過と考察
①2015年3月6日(金)午前中の大阪府立●●支援学校高等部の卒業式のこと。重度の肢体不自由生徒A君の担任である奥野が「国歌斉唱」時起立しなかったとして、大阪府は戒告処分を5月1日に出した。それの撤回裁判である。
②3月6日卒業式当日午後に准校長は7頁及ぶ不起立報告書を府教委に提出。
3月6日付で府教委は事情聴取通知文を発出。
7日(土)、奥野の携帯電話に准校長から事情聴取に応じるように依頼があったが拒否。
10日(火)、奥野は「起立しなった理由」を書いた「上申書」を准校長と府教委に渡す。
11日(水)、奥野は、「もし事情聴取をするなら弁護士同席を認めるように、そして事前に准校長の報告書内容を知らせるように」と府教委に求めるが、拒否される。13日に准校長から口頭で「円滑な事情聴取の進行に支障があるので弁護士同席は認められない」と告げられる。
4月7日事情聴取。直前にも弁護士同席を庁舎内で交渉(弁護士も参加)するが拒否される。
③卒業式翌週に出した上申書では、A君の発作の可能性を小さくするために周りが一斉に起立しても担任が座り続ける必要があると述べた。それは式前から准校長に交渉していたこと。10日からは府教委にも直接訴える。しかし府教委は奥野の訴えをまともに会議などに挙げず、無視して、事実をゆがめ、処分を5月1日に出した。人事委員会に処分取り消しを求め不服申立をしたが覆らなかった。
④上申書には「合理的配慮」という言葉は使わなかったが、訴えていることは、肢体不自由で立てなく、かつ発作を持っている生徒への「合理的配慮」ということだと後で気付く。発作を起こしにくくするために担任が着席することが「起立斉唱の職務命令」に優先するということを明らかにしたかった。社会に自立して参加していくための支援のために卒業式の最後まで体調を崩さず主体的に参加できるように支援するのが担任の役目である。そしてこの訴えが理解されるなら、その合理的配慮を無視してまで「国歌起立斉唱」強制を強行する側の間違いも理解されると考えた。そして、そのように教育委員会の判断を狂わせる「国旗・国歌」とは何なのかとの問いも浮かび上がるはずである。
⑤合理的配慮とは、障害のある人の人権が障害のない人と同じように保障されるとともに、教育や就業、その他社会生活において平等に参加できるよう、それぞれの障害特性や困りごとに合わせておこなわれる配慮。2016年4月に施行された「障害者差別解消法(正式名称:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)」により、この合理的配慮を可能な限り提供することが、行政・学校・企業などの事業者に求められるようになる。2021年に改正障害者差別解消法が成立し、民間事業者においても合理的配慮が法的義務化。
⑥てんかん発作の症状は、脳の神経細胞の一部または全体に異常な電気信号の興奮が発生することで引き起こされる。もっともよく知られているのが強直間代発作。突然意識をなくし、手足をつっぱらせ全身が硬直した後、手足がガクガクする全身けいれん発作となる。一般的に発作の誘因は、驚いたときや不安なとき、光のちらつきを目にしたとき、ストレスが加わったとき、疲れているとき、お薬を飲み忘れたとき、ゲームをしているときなど。それぞれの患者によって異なる。
⑦A君は軽い発作ならほぼ毎日起こしていたが、奥野は3年間担任をしてきて、発作を起こす条件をある程度わかってきた。緊張や興奮で疲れてきた時、周りの人との関りが遮断されたような時に発作を起こしていた。視線が止まってボーっとしだした時も起こしやすい。卒業式で拍手の中入場して興奮状態で着席し、静かになり、急に一斉に起立、そして斉唱がいつまで続くか分からない中で、横の担任まで立って彼と関わりを遮断することは数秒でも危険。小さな発作でもその後回復に時間がかかり、介助歩行ができなくて車いすで卒業証書受取と退場をしなければならなくなる可能性が大きい。担任としては、このハレの場で彼が頑張ってきた歩く練習の成果をみんなに見てもらい、ともに喜んでもらい、自己肯定して巣立ってほしいと願っていた。
⑧裁判での証人尋問で、車いすの生徒付きでなかったら、奥野はどうしていたかの問いにどう答えよれば、こちらの真意が伝わるのか、悩んだ。どういう生徒に付くかで変わる。生徒の安全を考えるので、その生徒が立てば安全のために立つだろうし、歩き出せば付いて歩いて危険を避ける介助をするだろう。そもそもは児童生徒への教育として座っているべきと考えるし、信仰的存在の自己の存続のため「命令」だからということで立てないが、これまで「立つと言わないなら式場外の任務を命ずる」と管理職の判断に従ってきた。減給処分の時も自分のクラスから離されたが、受付が終わったら式場に入った。それは当然生徒の居る式場内に仕事があるからである。
⑨事情聴取での問題点。ILOの勧告では、「すべての教員は、懲戒手続の各段階において公正な保護を受けるものとし」とあり、次の権利を享受するものとするとされている。「事案の証拠を十分に知る権利」「弁護の準備のために十分な時間を与えられて、自己を弁護し及び自己の選んだ代理人によって弁護を受ける権利」。ところが、准校長がどんな報告をしたのか知らされず「弁明せよ」と言われ、また、弁護士の同席も認められなかった。2022年7月には当時窓口となって弁護士同席を拒否した職員が陳述書で「申し出があれば弁護士同席を認めた」という驚愕の陳述をしてきた。
⑩あと1回で免職という警告書違法性。同一の職務命令に違反したということを理由に「免職する」と警告することは、同一の職務命令に違反したことを理由に停職処分をすることすら社会通念上著しく妥当を欠き、懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるとした最高裁判決に反するものである。
⑪過去の「君が代」不起立による2回の懲戒処分は判決に関係ないはずである。府教委は、悪質な教師に仕立て上げるため、A君の横で座っている必要なんかなかったということを言い続けている。しかし、被告は准校長の証人尋問でも証明できていない。争点ではないこの点を証人尋問の最後に裁判官が問うてきた。
⑫府教委支援教育課S指導主事(2015年3月当時)が2015年3月5日の夕刻に、大阪府民桝田さんに語った「車イスの生徒の横で国歌斉唱時に座っていることもあり得る」という判断は、具体的に奥野の事例に関する助言であったはず。その後「一般論」と言われているにしても、奥野の着席に当てはめて府教委で論議されなかったのはなぜか。この点を人事委員会で強調して訴えて来たが府教委が答えないまま、人事委は裁決を出していた。今回は、裁判官にこの訴えがどう受け止められるのか。
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