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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

国連「拷問禁止条約」の拷問問題特別報告者の活動ぶり

2021年05月10日 | 人権
  《月刊 救援》より
 ◆ 国連人権理事会 拷問問題報告書
前田朗(東京造形大学)

 ◆ 国家の非協力

 国連人権理事会第四六会期(二月二二日~三月一九日)にニルス・メルツァー拷問問題特別報告者の報告書(A/HRC/46/26)が提出された。
 メルツァー報告者はグラスゴー大学教授で、元国際赤十字国際委員会法律顧問である。二〇一六年十一月に特別報告者に任命された。
 拷問問題特別報告者は一九八五年以来三五年の歴史を有するので、メルツァー報告者は前任者たちの活動を振り返り報告者制度の任務を再確認し、効果的な調査研究を再開するために二〇二〇年八月、各国に協力を要請した。
 第一に特別報告者による通報や国家訪問に関する各国の手続きの現状、
 第二に特別報告者との協力の実効性評価、
 第三に各国への勧告と要請である。

 一九五ヵ国に文書を送付したが、同年一〇月末段階で三一ヵ国(一六%)から回答が寄せられた。
 二〇ヵ国は特別報告者からそれ以前に勧告を受けたことがある国であり、一一ヵ国は受け取ったことがない。
 拷問被害申立てがあった場合の手続きについて回答したのは一七ヵ国、特別報告者の訪問要請に回答を出したのは一〇ヵ国である。
 実効性評価について二二ヵ国が特別報告者に全面協力すると回答した。

 メルツァー報告者は一六年一一月から二〇年一〇月までに五一四件の拷問申立ての通知を出した。
 一件は受取回答がなく一件は翻訳中のため、分析対象は五一二件である。
 申立てに関する回答について見ると一八六件(三六%)は回答がなく、二七八件(五四%)は不十分な部分的回答があったにとどまる。
 十分な回答があったのは四八件(一〇%)である。
 三五年前にも特別報告者による通知が三三件で、回答は一一件にすぎず、それ以後も回答率は低いまま推移してきた。
 メルツァー報告者は拷問禁止条約、同選択議定書、人権理事会の審査メカニズムにもかかわらず、政府による回答率が低いと繰り返しアピールしている。
 特別報告者の任務継続のために完全協力、部分的協力、非協力、保留を分類確認するという。
 完全協力とは、通知に対して応答し十分な情報を提供し、勧告をフォローアップしている場合であり、拷問申立事案の捜査、予防措置、訴追、被害者救済を含む。九〇%以上の国が完全協力に至っていない。
 部分的回答をした五四%を見ても適切に被害者救済している例はほとんどない。各国政府は拷問禁止の要請に応えているとは言い難い。
 人権侵害申立てを拒否するだけでなく、攻撃的対応を示す国もある
 特別報告者に対して「偏見を持っている」「扇情的である」「政治的動機を持っている」「国家主権に干渉している」と非難し、特別報告者を認めない国もある。
 メルツァー報告者は各国による非協力的な現状を批判しているが、具体的な国名は示していない。国連の場のため主権国家を名指しで非難することを避けている。
 日本他の特別報告者たちに対して「偏見を持っている」等の非難を投げつけてきたが、今回日本が含まれるか否かは確認できない。
 ◆ 国家の協力

 人権理事会の特別報告者は調査研究と対話のために国家訪問を行うことが認められている。拷問に関連する法制度の調査、被害者との面会、国内人権機関やNGOとの協力のためである。
 メルツァー報告者はごれまで五八ヵ国に訪問の要請を出したが三三ヵ国(五七%)は回答を出していない。
 メルツァー報告者の調査訪問を受入れる部分的協力の招待状を出したのは一三ヵ国(二三%)である。
 グアテマラ、イラン、レバノン、マレーシア、タイの五ヵ国は招待状を出したがスケジュール調整ができず、確定的な招待に至っていない。
 訪問前に事前協議したいと言う国がある。
 何度も国家訪問を要請し、拷問申立ての多い国がメルツァー報告者を受入れると言いながら事前調整に時間を要し、訪問が実現していない。
 完全協力の招待状を出したのは一ニヵ国(二〇%)である。
 アルゼンチン、モルディブ、セルビアとコソボ、トルコ、ウクライナ、イギリス、リビア、モンゴル、パラグアイ、スペイン、スリランカである。
 地域バランスをとる必要があるためまだ訪問できていない国もある。
 ウィキリークスのジュリアン・アサンジの件でメルツァー報告者はイギリスを訪問したが、これは通常の国家訪問とは異なる扱いである。
 報告書に日本の名前は登場しないが、以前メルツァー報告者は日本に調査訪問要請を出したと耳にした。伝聞情報なのでその確度ははっきりしない。日本政府の対応も不明である。
 メルツァー報告者は現状では拷問実態の把埋ができず、拷問禁止条約の履行、拷問の廃止につながらないため状況を変える必要性を強調する。
 予防、捜査訴追、被害者救済は政策問題ではなく、すべての国家の義務である。拷問を正当化する例外事情は認められない。
 拷問犯罪については普遍的管轄権が認めりれている通り、世界のどこで行われても犯罪である
 国家訪問の促進、各国政府との対話、人権機関やNGOの協力、国連人権高等弁務官との協力の強化を確認する。
 拷問禁止条約に基づく拷問禁止委員会への情報提供とともに、NGOからメルツァー報告者への情報提供も重要だ。
『月刊 救援 第624号』(2021年4月10日)

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