◆ 今こそ個人通報制度の実現を!
去る二月二五日(金)の夜、日弁連主催の標題の集会が明治大学アカデミーホールで行われ、私たちの裁判関係からは原告や支援者が30名近く参加しました。しかし、充実した内容であったにもかかわらず、全体の参加者は250名とやや淋しい集会で、まだまだ一般的な関心は低いことを実感しました。特に日弁連主催であるにもかかわらず、弁護士の参加が少なかったことが非常に残念でした。
日本の裁判官の人権意識の低さを見るとき、国際人権の視点をもっともっと主張の中に盛り込んでいく姿勢が弁護士にこそ求められるのではないかと思います。今後このような集会には弁護士さんの参加を強く促したいと思いました。
以下、今回の集会および昨年参加した同じような集会の資料を基に、個人通報制度についてまとめてみました。
◆ 個人通報制度とは
各人権条約に規定された権利を侵害された個人などが、国内の救済手段をすべて尽くしても権利が回復されない場合(日本では、最高裁まで争って敗訴した場合)に、国連の各条約の委員会に直接救済の申し立てが出来る制度です。
申し立てが出来るのは選択議定書の批准あるいは受諾宣言が発効した日以降の人権侵害に限られます。
ただし、この日以前に発生した事件でも、人権侵害が継続している場合には受理できるとされています。
申し立てを受けた委員会は、その事件について人権侵害の有無を審議し、侵害があったと認めれば、政府に改善を求める勧告(または見解)を出します。そしてその後当該国がどのような措置をとったかについて報告を求めます。
現在個人通報制度を持つ条約とその実現の方法は以下の通りです。
☆自由権規約(第一選択議定書批准)
☆女性差別撤廃条約(選択議定書批准)
☆拷問等禁止条約(第22条の受諾宣言)
☆人種差別撤廃条約(第14条の受諾宣言)
☆移住労働者権利条約(第77条の受諾宣言)
日本はこのどれ一つとして批准、受諾をしていません。
◆ 世界に立ち後れている日本
上記各条約の中でも、すべての人権条約の基本となる自由権規約で見てみると、自由権規約に加盟している165ケ国のほぼ3分の2に当たる113ヶ国(アジア・太平洋地域では韓国、オーストラリア、ニユージーランド、ブイリピン、モンゴルなど)が第一選択議定書を批准、つまり個人通報制度を実現しています。
しかし、上記の通り、日本は一切の個人通報制度を採用していません。OECD加盟の30ヶ国、G8サミット参加国の中でこの制度およびこれに類似した制度を持たないのは*唯一日本のみです。
二〇〇六年まで20年間国連の自由権規約委員を務めた安藤仁介(京都大学名誉教授)氏は「はっきりした理由もなく批准していないのは日本だけ。何かを言うような(外国の)委員はいないが、ずっと恥ずかしい思いをしてきた」と述べています。
自民党の歴代法相らは「司法権の独立に問題が生じる恐れがある」と批准しない理由を挙げますが、委員会の見解に拘束力はなく、あくまでも勧告にとどまり、最高裁の判決が取り消されるわけではないので、これは単なる言い訳に過ぎません。
◆ 個人通報制度が実現すると
とは言え、実際に個人通報がなされれば、委員会によってその人権侵害の状況が審議され、委員会が人権侵害があったと認定すれば、政府に対して改善を促します。このように国際監視が予定されているだけでも、日本の裁判所も現在のように人権条約の適用に消極的なままでいるわけにはいかず、国際レベルの人権保障を考慮に入れた判決を下さざるを得なくなるでしよう。
個人通報制度発足後現在に至るまで、世界中から寄せられた個人通報のうち1819件が受理され、審査の結果512件で人権侵害が認定されました。
例えば、お隣の韓国では、作品が「利敵行為」に当たるとして画家が有罪判決を受けたケースでは、自由権規約委員会は、その画家の表現の自由を侵害するとして韓国政府に対して補償と再発防止を勧告し、また兵役拒否をしたエホバの証人の信者が有罪判決を受けた事件でも、委員会は思想・良心の自由の侵害であるとして韓国政府に画家のケースと同様の勧告を出しています。
また、各ケースにおいて自由権規約委員会は各国政府に勧告を行った後、それに従った改善がなされたかどうかの調査を続けます。
その結果、例えばオランダでは失業保険受給手続きにおける男女の不平等な取扱が改められ、またフランスでは国籍を理由とする軍人年金支給における差別的取扱が改められるなど、人権状況の改善がなされています。
◆ 今こそ実現を!
民主党がマニフェストに掲げた人権課題は、取り調べの可視化、国内人権機関の設置、個人通報制度の実現の3つでした。
政権交代で私たちの期待感は一気にふくらんだのですが、菅政権の迷走ぶりから、今やその期待は裏切られようとしているように見えます。
しかし、外務省内には人権条約履行室が設けられ、法務省内でも個人通報制度に関する勉強会がなされており、また、江田法務大臣も個人通報制度の実現には前向きであると伝えられることから、光が見えないわけではありません。
昨年十二月の集会で、上記人権条約履行室の室長(当時)の松浦純也氏は、省内ではほぼ議論は尽くされており、後は政治判断を待つだけでその政治決断を促すのは国民的議論の深まりであると述べていました。
個人通報制度が採用されればもちろん、採用される前でも、社会の議論が深まり、関心が強くなるだけでも、裁判所への圧力となり、私たちの裁判には極めて良い影響が出ると思います。今後ともこのような集会に積極的に参加すると共に、個人制度について広く社会に知らせる運動に加わっていきましよう。
『「君が代・強制」解雇裁判通信』(112号 2011/4/5)
A(採用拒否裁判原告)
去る二月二五日(金)の夜、日弁連主催の標題の集会が明治大学アカデミーホールで行われ、私たちの裁判関係からは原告や支援者が30名近く参加しました。しかし、充実した内容であったにもかかわらず、全体の参加者は250名とやや淋しい集会で、まだまだ一般的な関心は低いことを実感しました。特に日弁連主催であるにもかかわらず、弁護士の参加が少なかったことが非常に残念でした。
日本の裁判官の人権意識の低さを見るとき、国際人権の視点をもっともっと主張の中に盛り込んでいく姿勢が弁護士にこそ求められるのではないかと思います。今後このような集会には弁護士さんの参加を強く促したいと思いました。
以下、今回の集会および昨年参加した同じような集会の資料を基に、個人通報制度についてまとめてみました。
◆ 個人通報制度とは
各人権条約に規定された権利を侵害された個人などが、国内の救済手段をすべて尽くしても権利が回復されない場合(日本では、最高裁まで争って敗訴した場合)に、国連の各条約の委員会に直接救済の申し立てが出来る制度です。
申し立てが出来るのは選択議定書の批准あるいは受諾宣言が発効した日以降の人権侵害に限られます。
ただし、この日以前に発生した事件でも、人権侵害が継続している場合には受理できるとされています。
申し立てを受けた委員会は、その事件について人権侵害の有無を審議し、侵害があったと認めれば、政府に改善を求める勧告(または見解)を出します。そしてその後当該国がどのような措置をとったかについて報告を求めます。
現在個人通報制度を持つ条約とその実現の方法は以下の通りです。
☆自由権規約(第一選択議定書批准)
☆女性差別撤廃条約(選択議定書批准)
☆拷問等禁止条約(第22条の受諾宣言)
☆人種差別撤廃条約(第14条の受諾宣言)
☆移住労働者権利条約(第77条の受諾宣言)
日本はこのどれ一つとして批准、受諾をしていません。
◆ 世界に立ち後れている日本
上記各条約の中でも、すべての人権条約の基本となる自由権規約で見てみると、自由権規約に加盟している165ケ国のほぼ3分の2に当たる113ヶ国(アジア・太平洋地域では韓国、オーストラリア、ニユージーランド、ブイリピン、モンゴルなど)が第一選択議定書を批准、つまり個人通報制度を実現しています。
しかし、上記の通り、日本は一切の個人通報制度を採用していません。OECD加盟の30ヶ国、G8サミット参加国の中でこの制度およびこれに類似した制度を持たないのは*唯一日本のみです。
二〇〇六年まで20年間国連の自由権規約委員を務めた安藤仁介(京都大学名誉教授)氏は「はっきりした理由もなく批准していないのは日本だけ。何かを言うような(外国の)委員はいないが、ずっと恥ずかしい思いをしてきた」と述べています。
自民党の歴代法相らは「司法権の独立に問題が生じる恐れがある」と批准しない理由を挙げますが、委員会の見解に拘束力はなく、あくまでも勧告にとどまり、最高裁の判決が取り消されるわけではないので、これは単なる言い訳に過ぎません。
◆ 個人通報制度が実現すると
とは言え、実際に個人通報がなされれば、委員会によってその人権侵害の状況が審議され、委員会が人権侵害があったと認定すれば、政府に対して改善を促します。このように国際監視が予定されているだけでも、日本の裁判所も現在のように人権条約の適用に消極的なままでいるわけにはいかず、国際レベルの人権保障を考慮に入れた判決を下さざるを得なくなるでしよう。
個人通報制度発足後現在に至るまで、世界中から寄せられた個人通報のうち1819件が受理され、審査の結果512件で人権侵害が認定されました。
例えば、お隣の韓国では、作品が「利敵行為」に当たるとして画家が有罪判決を受けたケースでは、自由権規約委員会は、その画家の表現の自由を侵害するとして韓国政府に対して補償と再発防止を勧告し、また兵役拒否をしたエホバの証人の信者が有罪判決を受けた事件でも、委員会は思想・良心の自由の侵害であるとして韓国政府に画家のケースと同様の勧告を出しています。
また、各ケースにおいて自由権規約委員会は各国政府に勧告を行った後、それに従った改善がなされたかどうかの調査を続けます。
その結果、例えばオランダでは失業保険受給手続きにおける男女の不平等な取扱が改められ、またフランスでは国籍を理由とする軍人年金支給における差別的取扱が改められるなど、人権状況の改善がなされています。
◆ 今こそ実現を!
民主党がマニフェストに掲げた人権課題は、取り調べの可視化、国内人権機関の設置、個人通報制度の実現の3つでした。
政権交代で私たちの期待感は一気にふくらんだのですが、菅政権の迷走ぶりから、今やその期待は裏切られようとしているように見えます。
しかし、外務省内には人権条約履行室が設けられ、法務省内でも個人通報制度に関する勉強会がなされており、また、江田法務大臣も個人通報制度の実現には前向きであると伝えられることから、光が見えないわけではありません。
昨年十二月の集会で、上記人権条約履行室の室長(当時)の松浦純也氏は、省内ではほぼ議論は尽くされており、後は政治判断を待つだけでその政治決断を促すのは国民的議論の深まりであると述べていました。
個人通報制度が採用されればもちろん、採用される前でも、社会の議論が深まり、関心が強くなるだけでも、裁判所への圧力となり、私たちの裁判には極めて良い影響が出ると思います。今後ともこのような集会に積極的に参加すると共に、個人制度について広く社会に知らせる運動に加わっていきましよう。
『「君が代・強制」解雇裁判通信』(112号 2011/4/5)
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