『都政新報』(2012/5/25【時論政論】)
▼ 原発都民投票条例 立地先だけの問題ではない
「原発都民投票条例」の制定を求める署名数が32万人に上り、都議会第2回定例会で審議されることになった。石原知事は「作れるわけないし、作るつもりもない」と否定的な見解を示し、原発再稼働を「軽々に黒白つける形で判断すべきではない」と述べているが、都民の関心は高まりつつある。この意義について、「みんなで決めよう『原発』国民投票」事務局長の今井一氏に聞いた。
■ 主権者に聞くのが筋
――都民投票条例が議会に提案されることになりました。
1996年8月、新潟県の巻町で原発を巡る住民投票が行われてから16年、国内で401件の住民投票が行われた。少し前まで日本は「後進国」だったが、ここ6~7年で凄まじい勢いでやるようになった。今や47都道府県の中で住民投票をやったことがないのは、都内だけだ。
「何でもかんでも住民投票で決めていいのか」と言う議員さんがいるが、一回もやっていないのに、「何でも…」と言えるのか。
もう一つ、都が注目されているのは、日本の人口の1割を占めていること。一千万人という規模は国民投票のようなものだ。石原慎太郎さんや都議の皆さんが「原発容認」と言っても全く問題ない。ご自身の考え方とは別に、主権者に聞くのが筋だということだ。
――再稼働の賛否を問う二択については、質問内容が漠とし過ぎているとの指摘もあります。
事故前で、福島も柏崎刈羽も動いているなら「段階的にやめる」という選択肢があってもいいが、一基も動いていない中、「段階的にやめる」「容認」の二択だったら、「どっちも再開することになる。インチキだ」というのが反原発の人たちの主張だ。なるほどと思う。
二択が駄目というなら、「即刻やめる」「5年かけて全て停止させる」「容認する」の三択でもいい。質問の趣旨がねじ曲げられたら困るが、あくまで議会の良心でやるしかない。(投票資格者の)永住外国人の問題も含め、我々の原案通りでなくても、やらないよりはやった方がいい。
ちなみに永住外国人の投票権を認めるのは稀有な例ではない。国内の住民投票の3分の2が永住外国人に投票権を認めている。
――議会の反応は。
議会の2週間前になり、そろそろ態度表明する時期に差し掛かっている。
大阪では当初、自民党は住民投票の実施について反対と言っている人が相当数いた。それをある若い女性議員が説得してくれて、最後は全員が賛成に回ってくれた。
民主党系の「OSAKAみらい」も、ある男性議員が公開討論会の客席に来てくれた後、「疑問と懸念を払拭したい」と会派として我々を招いて勉強会をしてくれ、最終的には全員が賛成した。
最初から一枚岩じゃないし、会派内でまだら模様がある。大阪の場合は共産党を除いて反対の方が多かった。
来年は都議選だから、相当揺さぶりがかかるのでは。
大阪では「この議員は何を言い、議決の時に賛否はどうしたか」という評価シートを議員の地元で配布している。大阪ではそれがすごい勢いで読まれており、影響は大きいと思う。
■ 消費地でも問題に
――石原知事は記者会見で、「軽々に黒、白というような形で原発を判断すべきではない」と言います。
その点は慎太郎さんと同じ意見だ。知識も議論もないままやってはいけないが、巻町や刈羽村などの現場を見ると、住民投票によって住民が様々な情報をつかんでいる。新聞の折り込み広告に賛否両派のチラシか入り、テレビもラジオも伝えた。
刈羽村では経済産業省資源エネルギー庁長官や原子力安全・保安院の委員長が畑のど真ん中の公民館に来て、正々堂々と討論会が行われた。住民投票をやっていない所は、情報に疎くて貧しい状況が続くだけで、議論も行われていない。
――一方、猪瀬副知事は原発の再稼働について、「政府が決めることだし、地元の意見もある。我々は消費地だから直接、言及していない」と述べています。
数カ月前、猪瀬さんと『朝まで生テレビ!』で一緒になった時に、僕が「東電管内の原発再稼働の是非は誰が決めるべきだと思うか」と聞いたら、猪瀬さんがフリップを持ち出して、「代替エネルギーが…」と言い出したから、一斉に皆で「そんなことは聞いていない」と(笑)。
「野田首相か慎太郎さんか東電か、それとも都民か。はっきり答えて」と言ったら、「う~ん…これは難しいけど、やっぱり都民かな…」と言っていた。
原発は立地自治体だけの問題という時代は終わった。
原発を巡る住民投票は過去、新潟県の巻町と刈羽村、三重県の海山町(現・紀北町)で行われたが、世界を見ても立地先以外の消費地でやるのは画期的なことだ。アメリカでも州ごとに様々な住民投票が行われたが、核廃棄物処理施設など立地先ばかりだった。
新潟県でも今年7月、原発再稼働を巡る住民投票に向けた署名集めが始まる。これまで新潟市や長岡市の人は「我々が口を挟むことではない」と地元に遠慮する部分があったが、福島の事故で「事故が起きたら新潟市、長岡市も壊滅する」と分かったからだ。
大飯原発(福井県)で言うと、京都府や大阪府、奈良県、滋賀県も含めて2500万~3千万人に影響が及ぶ問題を、おおい町(人口8千人)の町長や町議だけで決めていいはずがない。
責任は立地自治体だけでは絶対に負えない。おまけに都も大阪市も東電、関電の筆頭株主だ。原発は消費地の問題でもあることを認識し、住民投票をやってほしい。
※いまい・はじめ=1954年、大阪市生まれ。ジャーナリスト。市民グループ「みんなで決めよう『原発』国民投票」事務局長。国内各地で行われた住民投票運動を取材。04、05年にはスイス、フランス、オランダで国民投票の実施実態も調査。主な著書に『住民投票一観客民主主義を超えて』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投:票』(集英社)、『「原発」国民投票』(集英社)などがある。
『都政新報』(2012/5/25【時論政論】)
▼ 原発都民投票条例 立地先だけの問題ではない
「原発都民投票条例」の制定を求める署名数が32万人に上り、都議会第2回定例会で審議されることになった。石原知事は「作れるわけないし、作るつもりもない」と否定的な見解を示し、原発再稼働を「軽々に黒白つける形で判断すべきではない」と述べているが、都民の関心は高まりつつある。この意義について、「みんなで決めよう『原発』国民投票」事務局長の今井一氏に聞いた。
■ 主権者に聞くのが筋
――都民投票条例が議会に提案されることになりました。
1996年8月、新潟県の巻町で原発を巡る住民投票が行われてから16年、国内で401件の住民投票が行われた。少し前まで日本は「後進国」だったが、ここ6~7年で凄まじい勢いでやるようになった。今や47都道府県の中で住民投票をやったことがないのは、都内だけだ。
「何でもかんでも住民投票で決めていいのか」と言う議員さんがいるが、一回もやっていないのに、「何でも…」と言えるのか。
もう一つ、都が注目されているのは、日本の人口の1割を占めていること。一千万人という規模は国民投票のようなものだ。石原慎太郎さんや都議の皆さんが「原発容認」と言っても全く問題ない。ご自身の考え方とは別に、主権者に聞くのが筋だということだ。
――再稼働の賛否を問う二択については、質問内容が漠とし過ぎているとの指摘もあります。
事故前で、福島も柏崎刈羽も動いているなら「段階的にやめる」という選択肢があってもいいが、一基も動いていない中、「段階的にやめる」「容認」の二択だったら、「どっちも再開することになる。インチキだ」というのが反原発の人たちの主張だ。なるほどと思う。
二択が駄目というなら、「即刻やめる」「5年かけて全て停止させる」「容認する」の三択でもいい。質問の趣旨がねじ曲げられたら困るが、あくまで議会の良心でやるしかない。(投票資格者の)永住外国人の問題も含め、我々の原案通りでなくても、やらないよりはやった方がいい。
ちなみに永住外国人の投票権を認めるのは稀有な例ではない。国内の住民投票の3分の2が永住外国人に投票権を認めている。
――議会の反応は。
議会の2週間前になり、そろそろ態度表明する時期に差し掛かっている。
大阪では当初、自民党は住民投票の実施について反対と言っている人が相当数いた。それをある若い女性議員が説得してくれて、最後は全員が賛成に回ってくれた。
民主党系の「OSAKAみらい」も、ある男性議員が公開討論会の客席に来てくれた後、「疑問と懸念を払拭したい」と会派として我々を招いて勉強会をしてくれ、最終的には全員が賛成した。
最初から一枚岩じゃないし、会派内でまだら模様がある。大阪の場合は共産党を除いて反対の方が多かった。
来年は都議選だから、相当揺さぶりがかかるのでは。
大阪では「この議員は何を言い、議決の時に賛否はどうしたか」という評価シートを議員の地元で配布している。大阪ではそれがすごい勢いで読まれており、影響は大きいと思う。
■ 消費地でも問題に
――石原知事は記者会見で、「軽々に黒、白というような形で原発を判断すべきではない」と言います。
その点は慎太郎さんと同じ意見だ。知識も議論もないままやってはいけないが、巻町や刈羽村などの現場を見ると、住民投票によって住民が様々な情報をつかんでいる。新聞の折り込み広告に賛否両派のチラシか入り、テレビもラジオも伝えた。
刈羽村では経済産業省資源エネルギー庁長官や原子力安全・保安院の委員長が畑のど真ん中の公民館に来て、正々堂々と討論会が行われた。住民投票をやっていない所は、情報に疎くて貧しい状況が続くだけで、議論も行われていない。
――一方、猪瀬副知事は原発の再稼働について、「政府が決めることだし、地元の意見もある。我々は消費地だから直接、言及していない」と述べています。
数カ月前、猪瀬さんと『朝まで生テレビ!』で一緒になった時に、僕が「東電管内の原発再稼働の是非は誰が決めるべきだと思うか」と聞いたら、猪瀬さんがフリップを持ち出して、「代替エネルギーが…」と言い出したから、一斉に皆で「そんなことは聞いていない」と(笑)。
「野田首相か慎太郎さんか東電か、それとも都民か。はっきり答えて」と言ったら、「う~ん…これは難しいけど、やっぱり都民かな…」と言っていた。
原発は立地自治体だけの問題という時代は終わった。
原発を巡る住民投票は過去、新潟県の巻町と刈羽村、三重県の海山町(現・紀北町)で行われたが、世界を見ても立地先以外の消費地でやるのは画期的なことだ。アメリカでも州ごとに様々な住民投票が行われたが、核廃棄物処理施設など立地先ばかりだった。
新潟県でも今年7月、原発再稼働を巡る住民投票に向けた署名集めが始まる。これまで新潟市や長岡市の人は「我々が口を挟むことではない」と地元に遠慮する部分があったが、福島の事故で「事故が起きたら新潟市、長岡市も壊滅する」と分かったからだ。
大飯原発(福井県)で言うと、京都府や大阪府、奈良県、滋賀県も含めて2500万~3千万人に影響が及ぶ問題を、おおい町(人口8千人)の町長や町議だけで決めていいはずがない。
責任は立地自治体だけでは絶対に負えない。おまけに都も大阪市も東電、関電の筆頭株主だ。原発は消費地の問題でもあることを認識し、住民投票をやってほしい。
※いまい・はじめ=1954年、大阪市生まれ。ジャーナリスト。市民グループ「みんなで決めよう『原発』国民投票」事務局長。国内各地で行われた住民投票運動を取材。04、05年にはスイス、フランス、オランダで国民投票の実施実態も調査。主な著書に『住民投票一観客民主主義を超えて』(岩波書店)、『「憲法9条」国民投:票』(集英社)、『「原発」国民投票』(集英社)などがある。
『都政新報』(2012/5/25【時論政論】)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます