■ 憲法より職務命令が優先 入学式「再発防止研修」
2012年4月の入学式の"君が代"斉唱時の不起立で、懲戒処分(昨年度の入学・卒業式に続き連続3回だが最高裁判決を受け、「機械的に減給以上」にせず戒告)にした都立特別支援学校のT教諭に、東京都教育委員会は5月7日、都教職員研修センター(以下、センター)で服務事故再発防止研修(再防研)と称する懲罰研修を、多くの支援者の抗議の中、強行した。
■ 今年から時間倍増 思想信条に踏み込む
減給以上の処分ができなくなった"腹いせ"に都教委は再防研を質量ともに強化。これまで2時間程度だった"研修"時間を、2012年度からは3時間半へと延長している。開始前、被処分者の会が入口で、抗議文を北澤多美(ますみ)センター総務課長に手渡したが、北澤氏は無言・無表情で館内に消えた。
研修室の配置は、Tさんと勤務校の校長が真ん中。前方には講師とセンターの西山公美子(きみこ)教育経営課長、進行役の板澤健一・同課統括指導主事。後方の"記録係"と称する指導主事3名は背面監視。講師を入れると計7名の監視下、受講させられるのだ。
最初の講師・落合真人(まさと)都教委人事部担当課長は、①地方公務員法第29条で「懲戒処分の対象」としている「職務上の義務違反」や「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」、②同法第33条の「信用失墜行為の禁止」に、"君が代"斉唱時の不起立が入ると決め付け、「不起立を含む服務事故がたった一度でもあれば、児童・生徒や保護者、地域住民の信用を失う」という話を2度、繰り返した。
そして「自分の意見や思想の如何にかかわらず、職務遂行時、『法令等及び上司(校長)の職務命令に忠実に従う』(同法第32条)、『職務に専念する』(同法第35条)という2つの義務に従うことが、住民(国民)の負託に応える」と、これまた2度、繰り返した。
また落合氏は、1月16日の最高裁判決から、都教委に都合の良い「起立斉唱の職務命令は合憲」という箇所のみを語った。
次の講師・朝日滋也(しげや)都教委指導部担当課長は、08年3月"告示"の(1)小学校新学習指導要領の音楽(自民党や日本会議等の政治精力と癒着した文科省官僚が、旧指導要領の「国歌『君が代』は、いずれの学年においても指導すること」の「指導する」の直前に「歌えるよう」を加筆)、(2)同6年の社会(「我が国の国旗と国歌の意義を理解させ、これを尊重する態度を育てる」と政治的主張)、(3)中学校新学習指導要領の社会・公民的分野(「国旗及び国歌の意義並びにそれらを相互に尊重することが国際的な儀礼であることを理解させ、それらを尊重する態度を育てるよう配慮すること」と政治的記載)やこれらの『文科省解説』等の、膨大なコピーを配布。「国を愛する態度育成が教育目標」とする改定教育基本法の条文も示しながら、「教育における国旗掲揚・国歌斉唱の意義」を説いた。
再防研受講者は"講義"終了ごとに、テストのような「振り返りシート」なる紙の設問への回答を要求され、別室に移動後、西山氏が計2枚の「シート」を見ながらコメントする。
落合氏のシートの最高裁判決の内容を問う設問に、Tさんが宮川光治裁判官の反対意見を念頭に「(職務命令は)憲法第19条違反との少数意見も出された」と書いたところ、西山氏は、「あくまでも判決本文を聞いている」と述べた。
だが、減給や停職(2人のうちの1人)の処分を「重きに失し社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え違法」と判じ取消しを命じたのも、最高裁判決の本文(いわゆる多数意見)である。ゆえに西山氏や落合氏がこれを捨象し、「職務命令の合憲性」のみに固執するのは、判決文を読解する能力が欠如しているか、又は特定の固定観念にとらわれ"つまみ食い"している、と言えよう。
続く「最高裁判決や地方公務員法を踏まえ、今後どのようにすべきですか」との設問についても、西山氏は「判決等を踏まえると、『発出した職務命令に従い、職務を行う』と書いて頂きたかった」と述べた。
更に「今後どのように職務を遂行していくか」との問いに、Tさんが「一部の奉仕者でなく、全体の奉仕者として職務を遂行したい」と、日本国憲法第15条2項に則る全うな記述をしたところ、西山氏は「『法令や上司(校長)の職務命令に従って職務を行っていく』と確認して頂きたかった」と主張。憲法より遥かに下位の一校長の出す命令が最優先という特異な思想に、都教委の役人が固執している実態が露わになった。
朝日氏のシートには「教育公務員は指導要領に基づき、教育課程の適正な実施に向け、校長が発出した命令に従い教育活動を行う責務がある。このことを踏まえ教育公務員としてどのように職務を遂行していこうと思いますか」との設問。
Tさんは「憲法ならびに諸法令を理解し、職務を遂行していく」と適切に記述。だが西山氏は、「校長が教育課程の適正実施(注、起立強制の意)のために職務命令を発出しているのだから、それを守るべきであることを確認したかった」と述べ、ここでも憲法より一校長の出す命令の方を強調した。
『週刊新社会』2012年5月22日
永野厚男(教育ライター)
2012年4月の入学式の"君が代"斉唱時の不起立で、懲戒処分(昨年度の入学・卒業式に続き連続3回だが最高裁判決を受け、「機械的に減給以上」にせず戒告)にした都立特別支援学校のT教諭に、東京都教育委員会は5月7日、都教職員研修センター(以下、センター)で服務事故再発防止研修(再防研)と称する懲罰研修を、多くの支援者の抗議の中、強行した。
■ 今年から時間倍増 思想信条に踏み込む
減給以上の処分ができなくなった"腹いせ"に都教委は再防研を質量ともに強化。これまで2時間程度だった"研修"時間を、2012年度からは3時間半へと延長している。開始前、被処分者の会が入口で、抗議文を北澤多美(ますみ)センター総務課長に手渡したが、北澤氏は無言・無表情で館内に消えた。
研修室の配置は、Tさんと勤務校の校長が真ん中。前方には講師とセンターの西山公美子(きみこ)教育経営課長、進行役の板澤健一・同課統括指導主事。後方の"記録係"と称する指導主事3名は背面監視。講師を入れると計7名の監視下、受講させられるのだ。
最初の講師・落合真人(まさと)都教委人事部担当課長は、①地方公務員法第29条で「懲戒処分の対象」としている「職務上の義務違反」や「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」、②同法第33条の「信用失墜行為の禁止」に、"君が代"斉唱時の不起立が入ると決め付け、「不起立を含む服務事故がたった一度でもあれば、児童・生徒や保護者、地域住民の信用を失う」という話を2度、繰り返した。
そして「自分の意見や思想の如何にかかわらず、職務遂行時、『法令等及び上司(校長)の職務命令に忠実に従う』(同法第32条)、『職務に専念する』(同法第35条)という2つの義務に従うことが、住民(国民)の負託に応える」と、これまた2度、繰り返した。
また落合氏は、1月16日の最高裁判決から、都教委に都合の良い「起立斉唱の職務命令は合憲」という箇所のみを語った。
次の講師・朝日滋也(しげや)都教委指導部担当課長は、08年3月"告示"の(1)小学校新学習指導要領の音楽(自民党や日本会議等の政治精力と癒着した文科省官僚が、旧指導要領の「国歌『君が代』は、いずれの学年においても指導すること」の「指導する」の直前に「歌えるよう」を加筆)、(2)同6年の社会(「我が国の国旗と国歌の意義を理解させ、これを尊重する態度を育てる」と政治的主張)、(3)中学校新学習指導要領の社会・公民的分野(「国旗及び国歌の意義並びにそれらを相互に尊重することが国際的な儀礼であることを理解させ、それらを尊重する態度を育てるよう配慮すること」と政治的記載)やこれらの『文科省解説』等の、膨大なコピーを配布。「国を愛する態度育成が教育目標」とする改定教育基本法の条文も示しながら、「教育における国旗掲揚・国歌斉唱の意義」を説いた。
再防研受講者は"講義"終了ごとに、テストのような「振り返りシート」なる紙の設問への回答を要求され、別室に移動後、西山氏が計2枚の「シート」を見ながらコメントする。
落合氏のシートの最高裁判決の内容を問う設問に、Tさんが宮川光治裁判官の反対意見を念頭に「(職務命令は)憲法第19条違反との少数意見も出された」と書いたところ、西山氏は、「あくまでも判決本文を聞いている」と述べた。
だが、減給や停職(2人のうちの1人)の処分を「重きに失し社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え違法」と判じ取消しを命じたのも、最高裁判決の本文(いわゆる多数意見)である。ゆえに西山氏や落合氏がこれを捨象し、「職務命令の合憲性」のみに固執するのは、判決文を読解する能力が欠如しているか、又は特定の固定観念にとらわれ"つまみ食い"している、と言えよう。
続く「最高裁判決や地方公務員法を踏まえ、今後どのようにすべきですか」との設問についても、西山氏は「判決等を踏まえると、『発出した職務命令に従い、職務を行う』と書いて頂きたかった」と述べた。
更に「今後どのように職務を遂行していくか」との問いに、Tさんが「一部の奉仕者でなく、全体の奉仕者として職務を遂行したい」と、日本国憲法第15条2項に則る全うな記述をしたところ、西山氏は「『法令や上司(校長)の職務命令に従って職務を行っていく』と確認して頂きたかった」と主張。憲法より遥かに下位の一校長の出す命令が最優先という特異な思想に、都教委の役人が固執している実態が露わになった。
朝日氏のシートには「教育公務員は指導要領に基づき、教育課程の適正な実施に向け、校長が発出した命令に従い教育活動を行う責務がある。このことを踏まえ教育公務員としてどのように職務を遂行していこうと思いますか」との設問。
Tさんは「憲法ならびに諸法令を理解し、職務を遂行していく」と適切に記述。だが西山氏は、「校長が教育課程の適正実施(注、起立強制の意)のために職務命令を発出しているのだから、それを守るべきであることを確認したかった」と述べ、ここでも憲法より一校長の出す命令の方を強調した。
『週刊新社会』2012年5月22日
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます