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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

教科書のいわば「都教委検定」制度

2012年10月27日 | 暴走する都教委
 ◆ 都教委や横浜市教委による教科書採択への介入
子どもと教科書全国ネット21常任運営委員
鈴木敏夫(都立高校教員)

 1.都教委の校長への圧力
 来年度からの新教育課程「日本史A」の教科書について、都教委が特定の教科書を選ぱないように繰り返し、校長に圧力をかけていたことが、当該校の証言等で明らかになった。
 3月末から、産経新聞が「不当な(教科書)検定」とキャンペーンを張った。実教出版『高校日本史A』が、「国旗・国歌」について、政府は「国歌斉唱などを強制するものではないことを国会審議で明らかにした。」のこれまでの記述に加え「しかし、一部の自治体で公務員への強制の動きがある」と「側注」に書いたことなどがやり玉に挙がった。
 都教委は、校長協会の幹事会で、件の実教教科書を批割した産経新聞のコラムを紹介しただけでなく、その後日本史Aを1年で履修する学校17校すべての校長に電話し、中には何度もかけた学校があることをマスコミの取材などに認めた。
 ただし、それは「情報提供」であり、選定を「誘導」したものではないと開き直った。
 9月11日の緊急集会での、ある学校での報告によれば、4回都教委から電話があり、初めは「都教委の教育方針と合わない面があるので、注意してもらいたい。ただ最後は校長の判断ですが」などと述べていたのが、最後には「不採択になる可能性や、マスコミなどが騒いで学校に混乱が起きること」などまであげた。
 都教委からの電語に対して、関係する4冊の教科書を校長、副校長、教科担当が再度検討し、「やはりうちの学校の生徒にあっている。適当である」としたが押し切られた
 これは、明らかな都教委の露骨な脅かし、介入に他ならない。こうして、1年生で昨年6校あった実教の『高校日本史A」は、採択ゼロになった。
 2.何が問題か、その背景にあるもの
 ①自らめ決めた制度をも踏みにじる

 2002年から、現場から採択権が奪われ、教科書の「調査研究結果及び生徒の実態を踏まえて」各学校が「選定」し、都教委が最終的に採択することになったが、現場の闘いもあり、これまで現場の選定が覆されたことはなかった。
 今回の都教委の行為は、自ら決めた制度自体に反する暴挙であり、行政による学校の教育課程に対する乱暴な介入である。
②「日の丸・君が代」強制に対する最高裁判決などを一顧だにしていない。
 文科省の検定すら、先に見たような経過でパスした教科書をいわば「都教委検定」にかけて撥ねていくことが許されないのは勿論であり、天下承知の事実である「一部の自治体で公務員への強制の動きがある」ことを問題にしたことである。
 最高裁判決などで、懲戒処分を振りかざした強制について、さまざまな危惧がだされたことなどどこ吹く風である。懲りない都教委の姿勢である。
 ③これは単に都教委が「自主的」に動いただけではないのではないか。
 指導主事は校長への電話で教育委員会が採択しない可能性に言及している。これはマスコミのキャンペーンはもとより、どこかからの「働きかけ」を示唆しているのではないか。
 都教委作成「準教科書・教材」『江戸から東京へ』が都議などの働きかけでさらに「改悪」されたことをみると考えられることである。
 ④本来科書採択権は現場にある。
 地教行法第23条6条の「教科書の取り扱い」に関する事務の管理、執行を根拠に都教委は教科書の採択権があるとしてきた。しかし、本来教科書採択は、各学校の教育課程編成および教員の教育内容編成に深くかかわる教育専門的事項であり、日常的に生徒の学力などの実態を把握している教育現場の意向が最大限尊重されるべきものである。
 日本政府も賛成して採択されたILO・ユネスコの「教員の地位に関する勧告」(1966年)でも「教員は生徒に最も適した教材および方法を判断するため格別の資格を与えられたものであるから、…教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用などについて主要な役割を与えられるべきである」(第61項)と述べられ、国際的にも認知されている。
 これが生かされれば、今回のようなことは起きえない。採択を現場に任せるべきである。
 3.さらに異常な横浜市教委
 横浜は、東京と違い、学校と市教委の間に横浜市教科書取扱審議会があり、そこの答申を受けて教育委員会が採択するシステムである。
 それを悪用し、市立高校9校のうち、4校が実教出版の日本史教科書AかBの採択希望を市教委事務当局がすべて山川の日本史に書き換え審議会にだした。委員の疑問も押し切り、「答申」とし、教育委員会で決定した。
 審議会で説明している、書き換えの理由は、実教出版の日本史には「日本の侵略加害の事実を記述する教科書を『自虐的』と非難する立場の人々が執筆した教科書があらわれたことなどに対して、アジア諸国からも強い批判が起こった」との記載があり、横浜市で採択してきた「つくる会」系の中学教科書で学習した中学生が今度高校に入ってくる。その場合先の記述にたいして「嫌な思いを持つ生徒もいるのではないか」である。
 なお1年生の日本史Aには「つくる会」教科書で学習した生徒が何人かいるが日本史Bを使う3年生は、「つくる会」教科書で学習してきた生徒はいない。
 都教委と比べて甲乙つけがたい悪質なものである。
 市教委のこれまでの「つくる会」系教科書採択に対する批判を逆手にとって、気に入らない教科書を排除したものである。
 こちらは文書公開などで得た審議会での議事録など確たる「証拠」があるので、関係団体は、「採択のやり直し」を求めている。
 今回のようなことを許せば、来年度以降の日本史教科書の採択にとどまらず、他の教科書に波及する恐れがある。また学校現場が萎縮したり、校長などによる「自主規制」が広がることも懸念される。さらに全国に広がり、ますます教育内容に対する行政による介入の呼び水になりかねないことが危惧される。東京の場合は「日の丸・君が代」問題でもある。
 関係団体が声をあげ都教委などに抗議していくことが求められる。

『リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース)第29号』(2012年10月20日)
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