◆ 破綻したアベノミクスへ
こちら側から矢を放つ時 (労働情報)
美辞麗句が飛び交い、中身は空っぽ。経済政策についての安倍政権の言説は、まるで、ハゲタカファンドが乗っ取った斜陽企業の投資家向け説明会のようだ。
インドネシアでリゾートホテルを展開する。ベンツを輸入販売する。シェールガスを掘る事業に出資する……。実現できなくても構わない。市場にインパクトを与えて株価をつり上げ、うまく売り逃げれば「勝ち」なのだから。
実際、アベノミクス「3本の矢」のうち「第1の矢」を握る黒田東彦・日銀総裁は、「空を飛べないと思った時から、人はほんとうに空を飛べなくなる」という寓話がお好きで、「期待に働きかけることが重要」と公言してきた。「信じるものは救われる」の経済版である。
物価上昇率2%という目標を掲げた異次元緩和で「物価が上がる」という期待が広がれば、今のうちに買っておこうという心理が高まってモノが売れ、内需が喚起される。
株価が上がりGDP(国内総生産)も上がったことで日本はデフレを脱した。何より民主党時代の停滞を一新し、「やればできる」という自信が企業と国民に漲(みなぎ)った。安倍官邸は、そう豪語した。
だが、株価は「期待」で動いても、設備投資や実質賃金は「期待」では上がらない。異次元緩和は、一部にバブルを生むだけで企業への貸付増につながらず、国債暴落リスクをじりじりと高めている。
「期待」で上がったものが、今度は「失望」で下がり始めた。
2年で2%を達成するはずだった物価上昇率は15年8月からマイナスが続き、GDPの実質成長率も13年度こそ20%を達成したが14年度はマイナス1.0%、15年度に入ってからも振るわない。
大企業が儲かればやがて下々に滴り落ちるというトリクルダウン神話にすがった「3本の矢」は完全に的を外した格好だが、今度は「新3本の矢」「GDP600兆円」という新たな儲け話で人を欺こうとしている。
安倍首相は経団連との官民対話で、経済の好循環の実現は「設備投資と賃上げにかかっている」と強調した。だがそれは、「異次元緩和で『期待』が高まり、好循環が起こる」という政策が失敗したという告白にも等しい。
それに、「期待」でできなかったことが、「要請」でできるはずもなかろう。安保法制強行の前後から、「武器を売って稼こう」というキナ臭い動きさえ露骨になってきた。
◆ 「地」に足をつけて
政権やマスコミの議論にかみ合うように物価やGDPの推移を駆け足でたどってはきたが、そうしたモノサシで成長を競うことから、いい加減卒業する時期ではないか。
今必要なのは、個々の経済政策の有効性の議論では、おそらくない。暴走する政権に抗う批判精神と「別の道」を練り上げる構想力、そしてそのリアリティを指し示す労働・社会運動だろう。
「あの頃は良かった」。説教親父は、過去の成功体験にしがみつく。安倍政権の「あの頃」は高度成長期のようでもあり戦前のようでもあるが、どちらも目標にはなりえないし、めざすべきでもない。
「あの頃」ではなくて「今」。「空を飛べる」という夢想ではなく、職場や地域という「地」に足をつけたところから、2016年、働く者、暮らす者が一人ひとり大切にされる経済をめざし、安倍政権に向けて“矢〃を放つ時である。
こちら側から矢を放つ時 (労働情報)
北 健一(労働情報編集長/経済ジャーナリスト)
美辞麗句が飛び交い、中身は空っぽ。経済政策についての安倍政権の言説は、まるで、ハゲタカファンドが乗っ取った斜陽企業の投資家向け説明会のようだ。
インドネシアでリゾートホテルを展開する。ベンツを輸入販売する。シェールガスを掘る事業に出資する……。実現できなくても構わない。市場にインパクトを与えて株価をつり上げ、うまく売り逃げれば「勝ち」なのだから。
実際、アベノミクス「3本の矢」のうち「第1の矢」を握る黒田東彦・日銀総裁は、「空を飛べないと思った時から、人はほんとうに空を飛べなくなる」という寓話がお好きで、「期待に働きかけることが重要」と公言してきた。「信じるものは救われる」の経済版である。
物価上昇率2%という目標を掲げた異次元緩和で「物価が上がる」という期待が広がれば、今のうちに買っておこうという心理が高まってモノが売れ、内需が喚起される。
株価が上がりGDP(国内総生産)も上がったことで日本はデフレを脱した。何より民主党時代の停滞を一新し、「やればできる」という自信が企業と国民に漲(みなぎ)った。安倍官邸は、そう豪語した。
だが、株価は「期待」で動いても、設備投資や実質賃金は「期待」では上がらない。異次元緩和は、一部にバブルを生むだけで企業への貸付増につながらず、国債暴落リスクをじりじりと高めている。
「期待」で上がったものが、今度は「失望」で下がり始めた。
2年で2%を達成するはずだった物価上昇率は15年8月からマイナスが続き、GDPの実質成長率も13年度こそ20%を達成したが14年度はマイナス1.0%、15年度に入ってからも振るわない。
大企業が儲かればやがて下々に滴り落ちるというトリクルダウン神話にすがった「3本の矢」は完全に的を外した格好だが、今度は「新3本の矢」「GDP600兆円」という新たな儲け話で人を欺こうとしている。
安倍首相は経団連との官民対話で、経済の好循環の実現は「設備投資と賃上げにかかっている」と強調した。だがそれは、「異次元緩和で『期待』が高まり、好循環が起こる」という政策が失敗したという告白にも等しい。
それに、「期待」でできなかったことが、「要請」でできるはずもなかろう。安保法制強行の前後から、「武器を売って稼こう」というキナ臭い動きさえ露骨になってきた。
◆ 「地」に足をつけて
政権やマスコミの議論にかみ合うように物価やGDPの推移を駆け足でたどってはきたが、そうしたモノサシで成長を競うことから、いい加減卒業する時期ではないか。
今必要なのは、個々の経済政策の有効性の議論では、おそらくない。暴走する政権に抗う批判精神と「別の道」を練り上げる構想力、そしてそのリアリティを指し示す労働・社会運動だろう。
「あの頃は良かった」。説教親父は、過去の成功体験にしがみつく。安倍政権の「あの頃」は高度成長期のようでもあり戦前のようでもあるが、どちらも目標にはなりえないし、めざすべきでもない。
「あの頃」ではなくて「今」。「空を飛べる」という夢想ではなく、職場や地域という「地」に足をつけたところから、2016年、働く者、暮らす者が一人ひとり大切にされる経済をめざし、安倍政権に向けて“矢〃を放つ時である。
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