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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

過熱する中学受験<中><下>

2007年07月22日 | 平和憲法
  過熱する中学受験<中> かかる費用
 = 経済格差が教育格差に =


 「無理をしたかも」。東京都内の会社員の夫(46)とパートタイマーの妻(41)は、長女の受験を振り返ってかかった費用にそう感想を漏らした。長女は今春、私立の中高一貫校に進んだ。下に長男がいる四人家族、賃貸マンション暮らしで、世帯収入は約八百万円だ。

 長女は小学校の成績がよく、母親は中高一貫校に進ませたいという期待があり、五年生から塾に週二日通わせ始めた。
 ところが、塾の模擬試験では予想よりずっと偏差値が低く、塾講師に「塾に来るのが遅すぎた、受験勉強に慣れていない」などと言われた。母親は学校説明会にも十校ほど参加し、「現実の厳しさ、自分の甘さを思い知った」と語る。
 塾をもう一つ増やした。平日も土日も塾通い。学校から帰ると、軽食を持たせ塾に送り出し、夜九時に迎えに。家族そろっての夕食の時間は消えていった。

 塾代は月五万円余。夏休み、冬休み講習にそれぞれ約十五万円。家計は赤字が続いた。マイホーム取得のためコツコツためてきた貯蓄を充てざるを得なくなってきた。
 教育費かマイホームか。長女に「私立に行きたい」と強く訴えられ、夫婦で話し合い、しばらくはマイホームをあきらめることにしたという。
 長女は四校併願で第二志望に合格した。父親は合格の報に「あの厳しい日々が終わると思い、合格のうれしさよりも、とにかくホッとした」。

   ◇

 川崎市に住む会社員男性(43)は、人気のある私立の中高一貫校を経て、有名私大に。就職も希望通りで昨年の収入は約千三百万円だった。妻と子ども二人。長男も父親の母校めざし、五年生から大手の受験塾に行き始めた。塾は基本の授業に加え、「合格した子はこんな授業も受けていた」と、いろいろな特別授業を勧めてきた。勧められるまま受講数を増やし続け、六年生の後半には、塾代が月十万円を超えていたという。

 塾からみれば上位校に合格させ、実績をつくりたい。だが、塾のいいなりに受講させると費用はかさむことになる。この塾はさらに受講増を勧めてきた。費用は支払えない額ではなかったが、会社員は自身の受験体験から本当に必要なのかどうか、疑問を感じた。結局「この授業は受けないほうがよい」などアドバイスし合格を勝ち取った。

   ◇

 文部科学省の「子どもの学習費調査(二〇〇四年度)」では、学習塾通いは小三で約四割、小六で六割近い。全児童の2・2%の世帯が年五十万円以上支出し、関係者によると、この群が中学受験の主力だという。私立は進学後にも費用がかかる。中学一年時にかかる一年間の学校教育費は公立が十八万九百七十二円、私立がほぼ七倍の百二十六万八千七百四十七円。私立には教材費、制服代、通学費などに加え、入学金、授業料が含まれる。

 中学受験に詳しい森上教育研究所の森上展安代表は「ある大手塾では小四から小六の三年間で、最低二百三十万円といわれている。入学後の費用も考えると、最低でも世帯に年収八百万円がないと、大手学習塾→私立の中高一貫校→有名大学という道を、苦労なく歩ませるのは難しい」と経済格差が教育格差につながるとの見方を示す。

 さらに「最近は祖父母による支援も目立つ。団塊の世代には退職金の一部を孫の教育費にと考える人がいるだろう。もちろん学習塾、私立だけが人生の道ではないが」と話す。 (草間俊介)

『東京新聞』(2007年7月14日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2007071402032314.html


  過熱する中学受験<下> 私立志向増加の背景
 = 公立不信 親子に =


 「難関大学への進学率は…」。五月末、東京都千代田区の三輪田学園で開かれた学校説明会。西惇校長が保護者に語りかける。「女子は男子より成長が早いから中学では先取り、高校ではセンター試験に備えてじっくりやる。中高一貫女子校ならではのカリキュラム」
 徳育と知育を二本柱に掲げる同校だが「受験生の保護者の最大関心事は“出口”」(西校長)。進学率を言うと親たちは熱心にメモをとる。ほぼ月一回開催だが毎回予約で満席だ。
 背景には公教育への不信があるようだ。望月道子教頭は「薄すぎる教科書に不安を抱いて来る方が多い」と、教科書内容が三割削減された二〇〇二年の新学習指導要領導入による学力低下不安が受験に駆り立てていることを指摘する。
 だが西校長の心中は複雑だ。「受験生にはびこる公立不信は、私学経営にはありがたい話だが、地域の公立が教育の中心を担い、私学は『建学の精神』で選ばれるのが本来の姿なのだが…」

 大手進学塾の四谷大塚の推計によると、首都圏では〇三年以降、受験者総数が募集定員を上回り続けている。教育関連会社ベネッセの調査でも、中学受験希望の小学五年生は〇一年は17・9%、〇六年には23・5%と公立の教科書内容が削減された〇二年以降急増した。
 親の中には「自分が私立出身で良かったから」という経験者もいるが、森上教育研究所の森上展安代表は「親世代の中学受験率は東京でもせいぜい8%。今のように30%に近づいたのは、親が経験していない家庭も受験に挑んだから」と分析する。

 学校説明会や進学相談会に来る親たちも、しきりに公立不信を口にする。成績を重視する親は「公立の先生の目はできない子や暴れる子に向きがちで、できる子が伸びない」「公立は受験対策をしてくれない」と学習面の不安を、人格形成を重視する親は「いじめ問題などへの対応が甘い」などと心配する。
 東京西部を中心に進学塾を展開する学究社の河端真一社長は迷走する国の教育改革を「業界にとっては補助金以上にありがたい振興策」とやゆする。

     ◇

 過熱の背景には、さらに多くの要因が加わる。首都圏の中学受験事情に詳しいジャーナリストの杉山由美子さんは「公立中高一貫校の出現で私立進学は念頭になかった子も受験に参戦し始め、経営安定化のため高校募集をやめたり募集人数を減らして、門戸を中学入試に絞る私立が増えた」と学校の選択肢増を挙げる。
 また「〇四年以降、都心回帰現象で首都圏では小学六年生人口が増え、鉄道の新路線開通や相互乗り入れ拡大などで通学エリアが広がった。共働きで学童クラブ代わりに塾に通わせる親が増えたことなどが絡み合い、勢いは止まりそうにない」と解説する。

 受験するかどうか「十二歳の選択」ではどんな心構えが必要か。杉山さんは「『なぜ受験するのか』をしっかり話し合い、異なる価値観の親とのネットワークも保ちながら取り組んでほしい」とアドバイスする。
 受験に主体的に臨む姿勢は、塾に対しても同じだ。私立中学になじめず中退した子の親は「塾は不安をあおったりして講習を次々に勧めてくるが、必要なものを厳選する判断力と意志がないと振り回される」と言う。
 受験生を受け持った経験のある東京都練馬区立小学校の教員はこう話す。「受験に成功してその後も伸びていく子は、集中と気分転換の切り替えができ、小学校生活を最後まで楽しんだ。親の導き方次第だと思う」 (井上圭子)

『東京新聞』(2007年7月17日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2007071702033129.html

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1 コメント

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Unknown (M)
2007-08-17 15:03:27
今や公立の中高一貫もあるし、西、日比谷でもいいと思うけどねえ。まあ、確かに私立の一部は良い先生を抱えてはいるけど、勉強は一人でもできる事だよ。参考書は先輩のお古か古本、問題集は学校に教材屋が置いて行く献本をもらう、などすれば大して金は掛からない。分からないところは、それこそ学校の先生かネットで尋ねれば教えてくれるしね。どうせ高校3年までの内容は減ってないんだから、自分でどんどん先取り学習すればいいのです。
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