東京「君が代」第３次訴訟第１回最高裁要請原告要請書（２／３）

最高裁第三小法廷　裁判官　殿

◎　要　請　書

２０１６年４月４日
上告人　Ｙ

　私はキリスト教の信仰を持つ者です。「君が代」起立斉唱を絶対的に強制する１０．２３通達と職務命令には、信仰的理由から従うことができないと考え起立斉唱をしなかったため処分を受けました。
　２００７年卒業式のさいの減給１月の処分は、２０１５年１月地裁判決により取り消されましたが、即座に戒告再処分を受けました。
　命令は絶対なのです。これまでに出された最高裁の判決には「話し合いで教育現場の状況改善を」と求める補足意見もつきましたが、都教委は処分によって命令の絶対性を示し続けています。
　そのような絶対性の下で都立高校の現場がどう変質したか、お話ししたいと思います。
　２００６年に１０．２３通達と職務命令を強化する目的で職員会議での採決が禁止され、学校から議論をする時間と機会が減っていき、意見を言う人もいなくなりつつあります。意見どころかわからないことがあったら「会議の後で」質問に行くのだと教えられた若い先生もいます。
　会議とは名ばかりで、決定済みの仕事を遂行するための打ち合わせはあっても、積極的、自主的な提案や、率直な質疑、検討、議論、説得と納得、そして合意に至る当然の営みは失われました。そんな職員会議が月に１回しかありません。
　では都教委によって学校運営の中核と位置づけられている週１回の分掌主任による企画調整会議は活発かというと、管理職が成果不足を叱責することもたびたびで、主幹は萎縮し議論どころではないと聞きます。各分掌で練った案を提出しても管理職の意に沿わなければ差し戻され、或いはその場で変更されます。校長は学校経営上の種々の決定に際し、職員の合意は不要だと繰り返し発言しています。
　このような状況では職員会議で発言すること自体が大きなプレッシャーを伴います。
　昨年度職員会議で発言したことを主な理由として業績評価の学校経営の項目がＣとされた教員が、わかる範囲で私を含め４名います。
　校長からは「管理運営規程を読んでください。職員会議では校長が必要とした場合のみ、職員の意見を聴取するとある。意見があれば分掌の会議などで発言し、主任を通して企画調整会議に上げるという規程の内容を理解せず職員会議で発言を繰り返したことを厳重に注意する」と言われました。
　また昨年度末にはクラス担任をしていた教員が学年途中で２名も異動になりました。二人とも「ものを言う」教師でした。
　「ものを言う」自由を禁じられた者はしだいに考えることをやめていきます。
　「どうして」「なぜ」と考えないでただひたすら命じられた通りに働くロボットのような教師に、「考える人」を育てることができるでしょうか。無意識に「文句を言わずに黙って言うことを聞く国民」作りに協力してしまうのではないでしょうか。
　卒業式の前の職員会議で「昨年夏、文科省は市民団体の要請に応えて『生徒には歌う、歌わないを自分で決める内心の自由があることを式の前に告知することは各学校の創意工夫の一つ』と回答した。外国籍の生徒も多い本校でも告知した方がよいのではないか」と質問すると、校長の答えは「答えません」でした。
　年度末の職員会議では入学式の要項が配られました。従来はここで包括的職務命令として口頭で「起立斉唱命令」が出されるのですが、今回それがなく、管理職を含めてそのことに気づいた人もいないようでした。そして会議が終わってから、何の説明もなくアイウエオ順に名前が呼ばれ、みな前に出て職務命令書を受け取って退出しました。起立も斉唱もその意義も疑問もどこにもなく、「命令は絶対」だけが徹底された風景がそこにはありました。
　私は「（その職務命令書は）いりません」と言いましたが、自分はいつのまにか戦前の学校の教師になっていて、平和と民主主義はもうじきあっけなく空洞化してしまうのではないかと恐れました。
　手遅れにならないうちに、思想、信条、そして信教の自由を定めた憲法の精神に照らして司法の判断をお願いいたします。
　なお、１０．２３通達とそれに基づく職務命令が信教の自由に抵触するというクリスチャン原告の主張に関しては、昨年高裁に、国際基督教大学の並木浩一名誉教授（旧約聖書学会元会長）から陳述書を出していただいています。上告人４９名中４名を数える私たちクリスチャン原告の陳述書、地裁での私の証言なども合わせましてどうぞ今一度お読みいただければと存じます。よろしくお願い申し上げます。