「日の丸・君が代」処分無効裁判
◆ 最高裁が処分に歯止め
2012年1月16日の東京・三宅坂の最高裁判所。普段ならば人気のないこの建物にこの日は久々に終日人で賑わった。この日、「日の丸・君が代」に関する3件の最高裁判決(第一小法廷=金築誠之裁判長)が同時に出されたのである。
3件の事件とは、①「根津公子さん・河原井純子さん処分事件」、②「アイム関係2名の処分事件」、そして③「東京『君が代』処分事件」(一審原告167人)である。
それぞれ処分の状況が異なるために、判決結果に差違が見られたが、判旨は全く同じであった。処分量定と処分の状況によって判断が分かれたものとなったのである。
◆ 減給以上は違法 大阪にも影響は必至
争われた処分の状況は、①は根津さんが停職3カ月、河原井さんが停職1カ月、②の2人は戒告処分、そして③の167人の内、渡辺厚子さんのみが減給処分、他の166人は戒告処分であった。
控訴審は、①は処分妥当とし、控訴棄却。②と③は「処分取消」を判示し、一審原告の一部勝訴判決であった。
この日の上告審判決は、まず①の根津さんに対しては「上告棄却」とし、河原井さんの停職処分は「取り消す」と判示した。同一訴訟にもかかわらず根津さんと河原井さんの判決内容を「分断」した判決であり、きわめて不当なものといえる。
また、③の渡辺さんの減給処分についてもこれを「取り消す」の一部勝訴判決が出され、それ以外の「戒告」処分については、原告勝訴の控訴審判決を「破棄する」と判示した。
この日の判決内容はある程度事前に予想されたものであった。というのは、昨年11~12月に最高裁小法廷で3件の弁論が開かれ、控訴審判決の変更が確実視されていたからだ。この日の最高裁判決は、決して満足のいくものではないが、大阪の橋下・維新の会が跳梁し、ファシズムが台頭してきている状況にあって、一定の歯止めとなるに違いない。その意味では、現段階での一つの成果であるといえるであろう。
しかし、「日の丸・君が代」処分は、その全てが不当であり、司法は違憲・違法を判示すべきなのである。
◆ 基準が示された裁量権処分
昨年、2011年5月下旬より、最高裁に係属していた「日の丸・君が代」裁判の判決が一斉に出された。5月30日の「S再雇用拒否事件」に始まり、わずかーカ月余の間に合計9件の判決が出されたのである。ここでは、都教委の発出した「10・23通達」とそれに基づく職務命令を合憲とし、憲法19条による「思想良心の自由」を侵害しないとした。
そして今回の3件の訴訟と予防訴訟が積み残された。このうち、3件の処分事件が今回判示されたことになる。ここで憲法判断が示されたことになっており、処分の裁量についてのみ今回判断されたことになる。
裁量権についての最高裁判例は、1977年の神戸税関事件判決がある。同判例では、公務員の処分は処分権者に大幅な裁量が認められる、とするもので事実上その基準が無いのに等しい状態であった。今判決は、これに一定の基準を設けた最高裁判例として今後に影響を与えることになる。
今判決では、戒告は懲戒処分の中でもっとも軽微であるが、これを超えた処分をする場合には*「慎重な考慮が必要となる」として、まず「戒告処分」とそれ以上の処分を区別した。この線引きは、九州ココロ裁判の一審判決(2005年)と同等である。
そして戒告を超える処分については、「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から」判断されるべき、と判示した。この場合、河原井さん、渡辺さんは累積によるものでこれを取り消したが、根津さんについては、「日の丸」を引き下ろしたことがあったりし、積極的な妨害があったことからその処分を「相当」とした。つまり、全体の運営を積極的に妨害したか否かが具体的な判断基準とされたようだ。
昨年の一連の判決で、卒・入学式の儀式的行事における規律と秩序維持の保持が判示され、この規律と秩序を乱さない限り、減給以上の処分は、裁量権の濫用にあたり認められないと判示したのである。
今判決は不十分ながら、大阪の状況に大きな影響を与えることとなる。橋下市長と維新の会は、昨年6月に「国旗国歌強制条例」を強行採決し、今また「教育基本条例」を2月府議会で成立を準備している。この「基本条例」では、3回不起立で分限免職が明記されており、今回の判決はこれを違法とするために、基本条例はその修正が迫られることになる。
『週刊新社会』(2012/1/24)
◆ 最高裁が処分に歯止め
予防訴訟原告団共同代表 永井栄俊
2012年1月16日の東京・三宅坂の最高裁判所。普段ならば人気のないこの建物にこの日は久々に終日人で賑わった。この日、「日の丸・君が代」に関する3件の最高裁判決(第一小法廷=金築誠之裁判長)が同時に出されたのである。
3件の事件とは、①「根津公子さん・河原井純子さん処分事件」、②「アイム関係2名の処分事件」、そして③「東京『君が代』処分事件」(一審原告167人)である。
それぞれ処分の状況が異なるために、判決結果に差違が見られたが、判旨は全く同じであった。処分量定と処分の状況によって判断が分かれたものとなったのである。
◆ 減給以上は違法 大阪にも影響は必至
争われた処分の状況は、①は根津さんが停職3カ月、河原井さんが停職1カ月、②の2人は戒告処分、そして③の167人の内、渡辺厚子さんのみが減給処分、他の166人は戒告処分であった。
控訴審は、①は処分妥当とし、控訴棄却。②と③は「処分取消」を判示し、一審原告の一部勝訴判決であった。
この日の上告審判決は、まず①の根津さんに対しては「上告棄却」とし、河原井さんの停職処分は「取り消す」と判示した。同一訴訟にもかかわらず根津さんと河原井さんの判決内容を「分断」した判決であり、きわめて不当なものといえる。
また、③の渡辺さんの減給処分についてもこれを「取り消す」の一部勝訴判決が出され、それ以外の「戒告」処分については、原告勝訴の控訴審判決を「破棄する」と判示した。
この日の判決内容はある程度事前に予想されたものであった。というのは、昨年11~12月に最高裁小法廷で3件の弁論が開かれ、控訴審判決の変更が確実視されていたからだ。この日の最高裁判決は、決して満足のいくものではないが、大阪の橋下・維新の会が跳梁し、ファシズムが台頭してきている状況にあって、一定の歯止めとなるに違いない。その意味では、現段階での一つの成果であるといえるであろう。
しかし、「日の丸・君が代」処分は、その全てが不当であり、司法は違憲・違法を判示すべきなのである。
◆ 基準が示された裁量権処分
昨年、2011年5月下旬より、最高裁に係属していた「日の丸・君が代」裁判の判決が一斉に出された。5月30日の「S再雇用拒否事件」に始まり、わずかーカ月余の間に合計9件の判決が出されたのである。ここでは、都教委の発出した「10・23通達」とそれに基づく職務命令を合憲とし、憲法19条による「思想良心の自由」を侵害しないとした。
そして今回の3件の訴訟と予防訴訟が積み残された。このうち、3件の処分事件が今回判示されたことになる。ここで憲法判断が示されたことになっており、処分の裁量についてのみ今回判断されたことになる。
裁量権についての最高裁判例は、1977年の神戸税関事件判決がある。同判例では、公務員の処分は処分権者に大幅な裁量が認められる、とするもので事実上その基準が無いのに等しい状態であった。今判決は、これに一定の基準を設けた最高裁判例として今後に影響を与えることになる。
今判決では、戒告は懲戒処分の中でもっとも軽微であるが、これを超えた処分をする場合には*「慎重な考慮が必要となる」として、まず「戒告処分」とそれ以上の処分を区別した。この線引きは、九州ココロ裁判の一審判決(2005年)と同等である。
そして戒告を超える処分については、「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から」判断されるべき、と判示した。この場合、河原井さん、渡辺さんは累積によるものでこれを取り消したが、根津さんについては、「日の丸」を引き下ろしたことがあったりし、積極的な妨害があったことからその処分を「相当」とした。つまり、全体の運営を積極的に妨害したか否かが具体的な判断基準とされたようだ。
昨年の一連の判決で、卒・入学式の儀式的行事における規律と秩序維持の保持が判示され、この規律と秩序を乱さない限り、減給以上の処分は、裁量権の濫用にあたり認められないと判示したのである。
今判決は不十分ながら、大阪の状況に大きな影響を与えることとなる。橋下市長と維新の会は、昨年6月に「国旗国歌強制条例」を強行採決し、今また「教育基本条例」を2月府議会で成立を準備している。この「基本条例」では、3回不起立で分限免職が明記されており、今回の判決はこれを違法とするために、基本条例はその修正が迫られることになる。
『週刊新社会』(2012/1/24)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます