● 教育への介入が進む杉並区
「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を採択し、区独自に教員を養成する私塾「師範館」も行っている東京都杉並区。常に先進的(後進的?)といわれる取組みを展開し注目を集めているが、今年もさっそく様々な問題が起こっている。それらを杉並区議会議員のすぐろ奈緒さんにレポートしてもらった。
● 教基条例制定で教基法が具体化
東京都杉並区がめざす教育のあり方について、山田宏区長の諮問機関である審議会で06年10月から8回にわたって審議を行い、その結果を昨年提言としてまとめた。そして現在条文化が進められている。提言の前文にはこう書かれている。
「(我が国について~)鋭い感性と高い精神性によって独自の伝統精神文化を確立し、世界をリードする経済発展を成し遂げました。こうした国柄と国民意識は、激動する国際社会の中でも決して失ってはならない、我が国の存在の基盤をなす礎とも言えるものです」。
近年はその基盤が揺らいでいるが、それらを取り戻すことが大切として、「自己の最善を他者に尽くしきる」「人づくり」がめざされている。
特徴的なのは、「調和をもたらすための普遍的な力」や「高い精神性」「徳性」「国柄」という言葉が繰り返されていること。また条文の内容は「家庭の責務」や「地域の役割」にまで介入し、郷土愛を育むことまで明記されている。
その一方で、子どもの権利条約や障害者や外国人の子どもの人権などには何も触れていない。
この提言が昨年10月の文教委員会で報告された際には、与野党問わず全会派から「これはいくらなんでもやりすぎだ」という意見が出された。
にもかかわらず、区長は新年のあいさつのなかで、今年の大きな目標の一つとして教育基本条例の制定をあげている。
● 私塾を導入して学校で夜間塾が
さらに、教育基本条例のなかで強調されている「地域運営型学校」が、今大変な問題になっている。
杉並区立和田中学校で、教室を使って民間の業者が塾を行うことが明らかになったのだ。教育委員会にも議会にも事前に報告がないままに全国に報道された。
教育基本条例の提言のなかに、「地域の人々のボランティア活動や、自発的な寄付などの支えのもとに、学校が運営されることが望ましい姿といえます」とあるが、様々な問題をはらみながら、「地域本部」が各学校で進められている矢先だった。
和田中学校は民間(リクルート)出身で有名な藤原和博氏が校長を務めている。これまでも、授業時間を45分にしたり、「よのなか科」を設けるなど、独自の取り組みを行ってきた。
今回は、大手進学塾「サピックス」の講師を招き、2年生を対象に週4日、国、数、英の3教科で夜間塾を行うという。授業料は通常の料金の半額ほどで、希望すれば誰でも授業を受けられるような報道がされていたが、実際には学カテストで一定のレベルに達していなければ入塾できないという。
区教委は、「これまでに和田中で行われてきたドテラ(土曜寺子屋)と同じ仕組み。地域の保護者から、放課後を利用して塾を行いたいと要望があった。地域が主体的に取り組もうとしていることについて、区がよいとか悪いとか言える立場ではない。営利目的や宗教でない限りは、地域主体の取り組みを区は今後も全面的に応援していく」としている。
報道では、夜間塾は藤原校長が思いつき、単独で進めた取り組みのようにアピールされていたが、区はあくまで地域独自の取組みと主張している。
区の論理でいけば、地域運営の取組みならなんでもありということになる。地域本部へは区の税金が投入されている。一部の生徒のみに使用されるのは公平性・公共性の視点からも大変問題である。加えて、区が特定の企業の売名行為を行っていることは明らかだが、「営利ではない」としていることも次回の委員会で指摘したい。
● 公教育があおる競争と選別
今年に入って1月6日に都教委から待ったがかかった。「公立学校の機会均等、公立学校施設利用の公共性及び教職員の兼業・兼職」などの観点から再考するように区に求めた。
区はいったん延期を決定したものの、都教委から指導が入ったことを「きわめて残念」とし、指摘された点について反論していくとしている。
しかし、石原都知事が「子供のために足りないものを補うのはいいことだ」と評価する発言をした後、1月10日には都教委は、「独自の取り組みは積極的に支援したい。指導は開催のためにクリアすべき課題を示した」と説明し、指摘した問題が解消されれば開催可能との立場を示した。
区の文教委員会は1月25日に開会され、そこで報告される予定となっている。
教育基本条例も、今回の和田中の私塾についても、杉並区が実践すれば、他の自治体にも広がる可能性が高い。学校がますます競争をあおり、公教育のなかで生徒を選別することが礼賛され進められることは、公教育のあり方を根本から揺るがすことになる。今後の議会で追及していきたい。
■『週刊新社会』(2008年1月22日)
■すぐろ奈緒の「もっと政(まつりごと)!」
http://suguronao.seesaa.net/
杉並議会議員 すぐろ奈緒
「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書を採択し、区独自に教員を養成する私塾「師範館」も行っている東京都杉並区。常に先進的(後進的?)といわれる取組みを展開し注目を集めているが、今年もさっそく様々な問題が起こっている。それらを杉並区議会議員のすぐろ奈緒さんにレポートしてもらった。
● 教基条例制定で教基法が具体化
東京都杉並区がめざす教育のあり方について、山田宏区長の諮問機関である審議会で06年10月から8回にわたって審議を行い、その結果を昨年提言としてまとめた。そして現在条文化が進められている。提言の前文にはこう書かれている。
「(我が国について~)鋭い感性と高い精神性によって独自の伝統精神文化を確立し、世界をリードする経済発展を成し遂げました。こうした国柄と国民意識は、激動する国際社会の中でも決して失ってはならない、我が国の存在の基盤をなす礎とも言えるものです」。
近年はその基盤が揺らいでいるが、それらを取り戻すことが大切として、「自己の最善を他者に尽くしきる」「人づくり」がめざされている。
特徴的なのは、「調和をもたらすための普遍的な力」や「高い精神性」「徳性」「国柄」という言葉が繰り返されていること。また条文の内容は「家庭の責務」や「地域の役割」にまで介入し、郷土愛を育むことまで明記されている。
その一方で、子どもの権利条約や障害者や外国人の子どもの人権などには何も触れていない。
この提言が昨年10月の文教委員会で報告された際には、与野党問わず全会派から「これはいくらなんでもやりすぎだ」という意見が出された。
にもかかわらず、区長は新年のあいさつのなかで、今年の大きな目標の一つとして教育基本条例の制定をあげている。
● 私塾を導入して学校で夜間塾が
さらに、教育基本条例のなかで強調されている「地域運営型学校」が、今大変な問題になっている。
杉並区立和田中学校で、教室を使って民間の業者が塾を行うことが明らかになったのだ。教育委員会にも議会にも事前に報告がないままに全国に報道された。
教育基本条例の提言のなかに、「地域の人々のボランティア活動や、自発的な寄付などの支えのもとに、学校が運営されることが望ましい姿といえます」とあるが、様々な問題をはらみながら、「地域本部」が各学校で進められている矢先だった。
和田中学校は民間(リクルート)出身で有名な藤原和博氏が校長を務めている。これまでも、授業時間を45分にしたり、「よのなか科」を設けるなど、独自の取り組みを行ってきた。
今回は、大手進学塾「サピックス」の講師を招き、2年生を対象に週4日、国、数、英の3教科で夜間塾を行うという。授業料は通常の料金の半額ほどで、希望すれば誰でも授業を受けられるような報道がされていたが、実際には学カテストで一定のレベルに達していなければ入塾できないという。
区教委は、「これまでに和田中で行われてきたドテラ(土曜寺子屋)と同じ仕組み。地域の保護者から、放課後を利用して塾を行いたいと要望があった。地域が主体的に取り組もうとしていることについて、区がよいとか悪いとか言える立場ではない。営利目的や宗教でない限りは、地域主体の取り組みを区は今後も全面的に応援していく」としている。
報道では、夜間塾は藤原校長が思いつき、単独で進めた取り組みのようにアピールされていたが、区はあくまで地域独自の取組みと主張している。
区の論理でいけば、地域運営の取組みならなんでもありということになる。地域本部へは区の税金が投入されている。一部の生徒のみに使用されるのは公平性・公共性の視点からも大変問題である。加えて、区が特定の企業の売名行為を行っていることは明らかだが、「営利ではない」としていることも次回の委員会で指摘したい。
● 公教育があおる競争と選別
今年に入って1月6日に都教委から待ったがかかった。「公立学校の機会均等、公立学校施設利用の公共性及び教職員の兼業・兼職」などの観点から再考するように区に求めた。
区はいったん延期を決定したものの、都教委から指導が入ったことを「きわめて残念」とし、指摘された点について反論していくとしている。
しかし、石原都知事が「子供のために足りないものを補うのはいいことだ」と評価する発言をした後、1月10日には都教委は、「独自の取り組みは積極的に支援したい。指導は開催のためにクリアすべき課題を示した」と説明し、指摘した問題が解消されれば開催可能との立場を示した。
区の文教委員会は1月25日に開会され、そこで報告される予定となっている。
教育基本条例も、今回の和田中の私塾についても、杉並区が実践すれば、他の自治体にも広がる可能性が高い。学校がますます競争をあおり、公教育のなかで生徒を選別することが礼賛され進められることは、公教育のあり方を根本から揺るがすことになる。今後の議会で追及していきたい。
■『週刊新社会』(2008年1月22日)
■すぐろ奈緒の「もっと政(まつりごと)!」
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