<はたらく>【東京新聞・暮らし】
◆ 不安定さ際立つ臨時教員
公立学校の教壇に立つ教師には変わりないのに、不安定な非正規雇用を強いられる「臨時教員」が増えている。雇い止めに遭ったり、時給制のため低賃金で、生活保護に頼らざるを得なくなったりするなど、労働条件の悪さが際立つ二人の臨時教員に話を聞いた。(福沢英里)
◆ 40~50代で「雇い止め」多数
埼玉県内の特別支援学校で社会科を担当していた臨時教員の男性(57)は今月初め、契約期限が来て雇い止めとなった。パートの妻と育ち盛りの子ども五人の七人家族。次の仕事は決まっていない。
男性は臨時教員として、約三十年教壇に立ってきた。三月に別の特別支援学校を雇い止めになり、四月から今の学校で、病気休職の正規教員に代わる「病休代替」の常勤講師として採用された。勤務日数はわずか五十七日だった。
同県内では今春、初めて教壇に立つ若い臨時教員を多く採用する一方で、五十代の臨時教員が雇い止めになるケースが目立った。年金の支給開始年齢が六十五歳に順次引き上げられ、定年退職者の再雇用が増えることも災いした。
「若いころは臨時教員も常勤講師として雇用されるが、四十~五十代になると私のように雇い止めに遭い、賃金のより安い新任に置き換えられる」と男性は説明する。「臨時でも三十年教師を続けてきたということは、教師として何ら問題がなかったはずだ」
◆ 生活保護に頼るケースも
臨時教員を採用する自治体は増えている。限られた予算の中で、少人数学級や不登校対策などさまざまな教育へのニーズに対応する必要があるからだ。臨時教員といっても雇用形態はさまざま=図=で、自治体によって名称や条件が異なる。
大きくは常勤と非常勤に分かれる。常勤は正規教員と同様に月給制で、仕事も担任を持つなど変わりはない。ただ、多くは一年の有期雇用のため、同じ学校で継続的な勤務ができない。ボーナスも低く、退職金がないなど生涯賃金に差がある。
一方、非常勤は時給制のため生活が苦しく、アルバイトなどを掛け持つ人もいる。
関東地方の小学校で、補助教員として非常勤で働く五十代の女性は、今の職場が十九校目。一日七時間勤務で、月給は十二万円ほど。「とても生活できるレベルではない」と不安を募らせる。
女性は、生活保護を受給していた時期があった。当時は別の学校で非常勤講師として働き、一日五時間勤務で年収約八十万円。不足分を月約四万円の生活保護費で賄っていた。
昨年は小学校の常勤講師として採用され、一時的に経済的な不安から解放された。担任を任され児童と関わるうち、正規教員になって安心して仕事に打ち込みたいという思いが強くなった。
七月には教員採用試験が控える。生活の安定にはアルバイトは必要だが、「今回にかけたい」と授業以外の時間は論文や面接対策の勉強に励む。
◆ 年齢差別 事実上は残る
団塊世代の大量退職をにらみ、若手に限らず経験豊かなベテランを採用し、教育力の低下を防ごうと、受験の年齢制限を撤廃する自治体が増えてきた。
愛知県は一九九一年から、講師の経験が一定期間あれば六十歳未満まで受験可能に。二〇一〇年実施の試験からは、経験に関係なく六十歳未満まで受験できるようにした。
年齢制限がなくなれば、表面的には年齢差別がないように見える。ただ、年齢が高くなればなるほど採用されないのが実態で、選考基準も不透明だ。「年齢差別は見えにくくなった」との声もある。
一方、臨時教員の低待遇はベテランに限らない。「愛知・臨時教員制度の改善を求める会」は、定期的に二十代の臨時教員の悩みを聞く場を設けている。
六月一日に名古屋市内で開かれた会では、教員免許を取ってから一年半たっても教壇に立てない男性や、半年のうちに三校を経験した女性らが不安定な境遇を打ち明けた。
同会代表委員の上村和範教諭は「地域差はあるものの、教員の職がない、採用されても疲弊しているなど、これほど若手が苦労する時代はない」と危機感を募らせる。
『東京新聞』(2012年6月15日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2012061502000138.html
◆ 不安定さ際立つ臨時教員
公立学校の教壇に立つ教師には変わりないのに、不安定な非正規雇用を強いられる「臨時教員」が増えている。雇い止めに遭ったり、時給制のため低賃金で、生活保護に頼らざるを得なくなったりするなど、労働条件の悪さが際立つ二人の臨時教員に話を聞いた。(福沢英里)
◆ 40~50代で「雇い止め」多数
埼玉県内の特別支援学校で社会科を担当していた臨時教員の男性(57)は今月初め、契約期限が来て雇い止めとなった。パートの妻と育ち盛りの子ども五人の七人家族。次の仕事は決まっていない。
男性は臨時教員として、約三十年教壇に立ってきた。三月に別の特別支援学校を雇い止めになり、四月から今の学校で、病気休職の正規教員に代わる「病休代替」の常勤講師として採用された。勤務日数はわずか五十七日だった。
同県内では今春、初めて教壇に立つ若い臨時教員を多く採用する一方で、五十代の臨時教員が雇い止めになるケースが目立った。年金の支給開始年齢が六十五歳に順次引き上げられ、定年退職者の再雇用が増えることも災いした。
「若いころは臨時教員も常勤講師として雇用されるが、四十~五十代になると私のように雇い止めに遭い、賃金のより安い新任に置き換えられる」と男性は説明する。「臨時でも三十年教師を続けてきたということは、教師として何ら問題がなかったはずだ」
◆ 生活保護に頼るケースも
臨時教員を採用する自治体は増えている。限られた予算の中で、少人数学級や不登校対策などさまざまな教育へのニーズに対応する必要があるからだ。臨時教員といっても雇用形態はさまざま=図=で、自治体によって名称や条件が異なる。
大きくは常勤と非常勤に分かれる。常勤は正規教員と同様に月給制で、仕事も担任を持つなど変わりはない。ただ、多くは一年の有期雇用のため、同じ学校で継続的な勤務ができない。ボーナスも低く、退職金がないなど生涯賃金に差がある。
一方、非常勤は時給制のため生活が苦しく、アルバイトなどを掛け持つ人もいる。
関東地方の小学校で、補助教員として非常勤で働く五十代の女性は、今の職場が十九校目。一日七時間勤務で、月給は十二万円ほど。「とても生活できるレベルではない」と不安を募らせる。
女性は、生活保護を受給していた時期があった。当時は別の学校で非常勤講師として働き、一日五時間勤務で年収約八十万円。不足分を月約四万円の生活保護費で賄っていた。
昨年は小学校の常勤講師として採用され、一時的に経済的な不安から解放された。担任を任され児童と関わるうち、正規教員になって安心して仕事に打ち込みたいという思いが強くなった。
七月には教員採用試験が控える。生活の安定にはアルバイトは必要だが、「今回にかけたい」と授業以外の時間は論文や面接対策の勉強に励む。
◆ 年齢差別 事実上は残る
団塊世代の大量退職をにらみ、若手に限らず経験豊かなベテランを採用し、教育力の低下を防ごうと、受験の年齢制限を撤廃する自治体が増えてきた。
愛知県は一九九一年から、講師の経験が一定期間あれば六十歳未満まで受験可能に。二〇一〇年実施の試験からは、経験に関係なく六十歳未満まで受験できるようにした。
年齢制限がなくなれば、表面的には年齢差別がないように見える。ただ、年齢が高くなればなるほど採用されないのが実態で、選考基準も不透明だ。「年齢差別は見えにくくなった」との声もある。
一方、臨時教員の低待遇はベテランに限らない。「愛知・臨時教員制度の改善を求める会」は、定期的に二十代の臨時教員の悩みを聞く場を設けている。
六月一日に名古屋市内で開かれた会では、教員免許を取ってから一年半たっても教壇に立てない男性や、半年のうちに三校を経験した女性らが不安定な境遇を打ち明けた。
同会代表委員の上村和範教諭は「地域差はあるものの、教員の職がない、採用されても疲弊しているなど、これほど若手が苦労する時代はない」と危機感を募らせる。
『東京新聞』(2012年6月15日【暮らし】)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2012061502000138.html
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