【週刊金曜日 論争】
◆ 立川ビラ配布判決と私の場合
私は以前から商用・政治・宗教に類するすべてのビラ・チラシを受取拒否している。新聞の折込広告も断り、DMも返送する。一方で、古新聞や雑誌の用済みのものは古紙リサイクルに出す。
穏健でおおらかな読者からすればいささか神経質で非寛容な私の所業に違和感をもたれるかもしれない。だがこれには以下に述べる通り私なりの理由がある。
まず、大事な情報はみずからの意志と行動で探し手に入れること。私の事例では商用広告が多数を占めるが、これらは勧誘電話やテレビCM同様私の消費行動になんら益するものではない。
次に、紙資源のムダな需要と廃棄を極力減らしたい、つまり微力ながら自分ひとりの環境運動と位置づけている。
そこで、わが家の郵便受けにはその旨を書いた注意書を貼りつけているのだが、いかんせん入れ替わり立ち替わり現れる業者の中には貼紙を無視して投入する者があとを断たない。目に余るものは電話で回収を要請し現場を実見してもらった上で私の主旨を説明する。たいていの業者はこれに素直に応じてくれた。
ところが過日、現役の大学生グループと称する「家庭教師派遣」のチラシが投入されたので、例によって抗議と回収を要請したところ、かれらは一片のわびの言葉を口にしないばかりか回収の要請も拒否したのである。
かれらの無責任とあまりにもひどい応答ぶりに、私は思いきって被害届を出してみようと決心した。実はこのとき、私は自身の問題とこの四月の「立川反戦ビラ」問題が重なって意識されたのである。
立川事件ではビラの表現内容は問わず、それを提示する手段「人の看守する邸宅」に侵入してビラを投入したことが違法であるとする最高裁の判決が成立する以上、わが家の場合にも当然同様の解釈が成り立つのではないかと考えた(わが家のポストは道路から入って完全に私有地内にあることも立川と同様)。
私は立川判決を決して是とするものではなく、あいまいさの残る強引な判決には大いに疑問を感じたものだ。そこで私の小さな事例をリトマス試験紙にして、立川判決の有効性を確認してみようという目論見もあって警察へ出向く仕儀とあいなった。
生活安全課の担当者は、たびたび中座して上司と相談しながら、結局ピンクチラシ以外は警察として違法性は問えないと結論した。
私は立川判例を持ち出して住居侵入罪を問うてみたが、かれは立川事件そのものさえ知らないと言い、それ以上の進展はこの段階では見られなかった。
私は、ビラ投入者には私の意志を無視されそれへの抗議も拒絶されたという、二重の不満は残るが、警察がその被害届を受理しなかったことは現今の社会通念として妥当であろうと思う。
さすれば、いよいよ立川事件の最高裁有罪判決とはいったいなんだったのであろうか。
『週刊金曜日』(第725号 2008年10月31日【論争】)
◆ 立川ビラ配布判決と私の場合
藤原英信(ふじわら ひでのぶ・65歳)
私は以前から商用・政治・宗教に類するすべてのビラ・チラシを受取拒否している。新聞の折込広告も断り、DMも返送する。一方で、古新聞や雑誌の用済みのものは古紙リサイクルに出す。
穏健でおおらかな読者からすればいささか神経質で非寛容な私の所業に違和感をもたれるかもしれない。だがこれには以下に述べる通り私なりの理由がある。
まず、大事な情報はみずからの意志と行動で探し手に入れること。私の事例では商用広告が多数を占めるが、これらは勧誘電話やテレビCM同様私の消費行動になんら益するものではない。
次に、紙資源のムダな需要と廃棄を極力減らしたい、つまり微力ながら自分ひとりの環境運動と位置づけている。
そこで、わが家の郵便受けにはその旨を書いた注意書を貼りつけているのだが、いかんせん入れ替わり立ち替わり現れる業者の中には貼紙を無視して投入する者があとを断たない。目に余るものは電話で回収を要請し現場を実見してもらった上で私の主旨を説明する。たいていの業者はこれに素直に応じてくれた。
ところが過日、現役の大学生グループと称する「家庭教師派遣」のチラシが投入されたので、例によって抗議と回収を要請したところ、かれらは一片のわびの言葉を口にしないばかりか回収の要請も拒否したのである。
かれらの無責任とあまりにもひどい応答ぶりに、私は思いきって被害届を出してみようと決心した。実はこのとき、私は自身の問題とこの四月の「立川反戦ビラ」問題が重なって意識されたのである。
立川事件ではビラの表現内容は問わず、それを提示する手段「人の看守する邸宅」に侵入してビラを投入したことが違法であるとする最高裁の判決が成立する以上、わが家の場合にも当然同様の解釈が成り立つのではないかと考えた(わが家のポストは道路から入って完全に私有地内にあることも立川と同様)。
私は立川判決を決して是とするものではなく、あいまいさの残る強引な判決には大いに疑問を感じたものだ。そこで私の小さな事例をリトマス試験紙にして、立川判決の有効性を確認してみようという目論見もあって警察へ出向く仕儀とあいなった。
生活安全課の担当者は、たびたび中座して上司と相談しながら、結局ピンクチラシ以外は警察として違法性は問えないと結論した。
私は立川判例を持ち出して住居侵入罪を問うてみたが、かれは立川事件そのものさえ知らないと言い、それ以上の進展はこの段階では見られなかった。
私は、ビラ投入者には私の意志を無視されそれへの抗議も拒絶されたという、二重の不満は残るが、警察がその被害届を受理しなかったことは現今の社会通念として妥当であろうと思う。
さすれば、いよいよ立川事件の最高裁有罪判決とはいったいなんだったのであろうか。
『週刊金曜日』(第725号 2008年10月31日【論争】)
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