☆ 教科書検定基準及び教科用図書検定審査要項の改定
並びに教科書採択に対する意見書
並びに教科書採択に対する意見書
2014年12月19日
日本弁護士連合会
☆ 本意見書について日本弁護士連合会
当連合会は、この度、「教科書検定基準及び教科用図書検定審査要項の改定並びに教科書採択に対する意見書」を取りまとめ、2014年12月19日付けで、文部科学大臣及び各都道府県教育委員会委員長宛てに提出いたしました。
(※意見書全文はPDFファイルをご覧ください)
☆ 本意見書の趣旨
2014年1月に改定された教科用図書の検定基準及び同年4月に改定された教科用図書検定審査要項は、国による過度の教育介入として憲法26条に違反し、子どもの学習権等を侵害するおそれがあるため、これらの各改定の撤回を求めるとともに、教科用図書の採択においては、子どもの学習権を保障するために、教師及び学校の意思を十分に尊重することを求める。
『日弁連HP』(2014/12/19)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2014/141219.html
《意見書本文から》
第2 意見の理由
1 概観
文部科学省(以下「文科省」という。)は,本年1月に教科用図書の検定基準を改定し,また,本年4月には文科省に設置された教科用図書検定調査審議会(以下「審議会」という。)が審議の在り方等について定める教科用図書検定審査要項を改定した(以下「本件各改定」という。)。
本意見書はこれらの教科書に関わる各改定について検討するものであり,
まず,以下2において,そもそも憲法がどのような教育の在り方を予定しているかを確認した上で,
3で教科書制度の運用の現状と本件各改定等に至るこの間の経緯を概観し,
4で本件各改定について検討する。
あわせて,教科書制度の運用に大きな影響を与える検定に合格した教科書の採択について,5で検討する。
2 子どもの学習権を充足する教育の在り方
憲法は,個人の尊厳の尊重を定めるとともに,国民各自が,一人の個人及び市民として成長・発達し,自ら考え行動する力を育むことを通じて,自主的・自律的な人格を形成し成長・発達していく権利(成長・発達権)を有することを前提としており,こうした成長・発達のために必要な学習をする権利(学習権)を国民とりわけ発達途上にある子どもに保障している。
憲法26条が保障する教育を受ける権利は,こうした学習権を具体的に充足するための権利として国民とりわけ子どもに保障されており,子どもの教育は,子どもの学習権に対する責務として,子どもが自ら考え行動する力を育むことを通じて,自主的・自律的な人格として成長・発達することを充足させるために行われるべきものということができる。
また,憲法は,思想良心の自由をはじめとする精神的自由権を保障し,自由な議論と相互理解を通じて合意を形成する立憲民主主義を理念とする。
かかる理念を実現するためには,国民が自由かつ独立の人間として,多様な価値観を持つことが確保されなければならない。前述したとおり,子どもの教育が,子どもが自ら考え行動する力を育むことを通じて,自主的・自律的な人格として成長・発達することを充足させるために行われるべきであるとの要請は,このような憲法の立憲民主主義の理念からの要請でもある。
かかる理念の下にある教育において,一人ひとり異なった個性や発達段階の下にあり,それぞれの環境や条件も様々である子どもの尊厳を尊重し,その学習する権利を充足させるためには,子どもとの人間的ふれあいを通じ,子どもの抱える様々な背景と日々直接向き合っている教師に,その教育の専門性に基づく一定の教育の自由が保障されなければならない。
特に,意見の分かれる問題に関して教育をする場合には,子どもが,議論の背景となる様々な事実や多様な見解を学ぶことができるようにし,その中で,子どもが自ら判断する力を発達させることを促す必要がある。
したがって,国や行政が,意見の分かれる問題に関して子どもに一方的な見解を教え込むように強制したり,子どもの自由で自律的な人格形成を阻害するような教育をするよう介入するとすれば,かかる介入は憲法26条1項に反して子どもの学習権を侵害し,教育の専門性に基づく裁量を損ない,教育基本法16条で禁じられている教育への不当な支配にも該当するおそれがある。
このことは,1976年5月21日旭川学力テスト事件最高裁判決においても示されている。
同最高裁判決は,子ども自身の利益の擁護のためや子どもの成長に対する社会公共の利益と関心にこたえるためという,国の正当な理由に基づく合理的な教育内容決定権能を認めつつ,国による教育内容に対する介入行為に一定の歯止めをかけた。
すなわち,そもそも,国政上の政策は,様々な政治的要因によって左右されるものであるが,本来教育は,子どもの内面的価値に関する文化的営みとして,党派的な政治的観念や利害によって支配されるべきでなく,教育内容に対する時の政府の介入はできるだけ抑制的であることが要請され,殊に,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような介入,例えば,誤った知識や一方的な観念を子どもに植え付けるような内容の教育を施すことを強制することは許されないと判示した。
特に教科書は,一般に,教える側と学ぶ側をつなぐ重要な教材として学校で使われるものであるから,教科書の検定と採択の過程を通じて,意見の分かれる問題に関して子どもに一方的な見解を教え込むような教育の強制がなされたり,子どもの自由で自律的な人格形成を阻害するような介入があってはならない。
ところが,以下に述べるとおり,本件各改定及び採択の現状には上記の観点から重大な問題があるといわざるを得ない。
(以下略)
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