『藤田の日記』から
◎ 板橋高校卒業式刑事弾圧事件判決文(1) p1~p6
「定天と星」 《撮影:佐久間市太郎(北海道白糠定、札幌南定、数学科教員)》
平成20年5月29日宣告 裁判所書記官 櫛 田 賢 一
平成18年(う)第1859号
本籍 ・・・
住居 ・・・
上記の者に対する威力業務妨害被告事件について、平成18年5月30日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申し立てがあったので、当裁判所は、検察官奥村淳一、同吉松悟各出席の上審理し、次のとおり判決する。
本件控訴を棄却する。
本件控訴の趣意は、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書(その1)及び控訴趣意書(その2)、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書(2)並びに弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書(3)に、これに対する答弁は、検察官奥村淳一作成名義の答弁書及び答弁書補正書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
第1 事実誤認の主張について
論旨は多岐に渡るが、判断の基礎となるべき事実関係にも争いがあるので、検討の便宜上、まず、事実誤認の主張(なお、控訴趣意書(その1)では、「コピー配布制止、呼びかけ制止行為はなかったとする主張」は「理由不備・理由齟齬」としても、また、「構成要件要素等が存在しないとする主張」は「理由不備・理由齟齬」として主張するが、いずれもその実質は事実誤認の主張と理解する。)について検討する。
1 コピー配布制止、呼びかけ制止行為はなかったとする主張について
(1) 論旨は、要するに、原判決は、本件卒業式の会場である板橋高校体育館内において、被告人の保護者に対する呼びかけに先立つ週刊誌コピー配布を田中一彦教頭が制止し、引き続き、田中は、保護者席前方に移動した被告人のそばについて一緒に移動した上、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止し続けたとの事実を認定したが、現実には、田中によるコピー配布制止及びこれに引き続く呼びかけ制止は存在せず、原判決には、この点で、判決(構成要件該当性判断及び違法性阻却事由に関する判断についての法令適用の誤り)に影響を及ぼす事実の誤認がある、というのである。
しかし、原判決挙示の関係各証拠によれば、田中が、被告人によるコピー配布を制止し、引き続き、保護者席前方に移動した被告人のそばについて一緒に移動した上、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止し続けたとの事実を優に認定することができ、また、原判決が(事実認定の補足説明)の「第3 事実認定上の争点」の「2 田中の制止時期」の項で認定説示するところも正当として是認することができ、この結論は当審における事実取調べの結果によっても変わらないから、原判決に事実誤認があるとは認められない。所論にかんがみ、以下、補足して説明する(以下、特に限定しない限り、「供述」は「原審公判供述」を指す。)。
(2) 前提として、本件卒業式に向けての準備情況等については、原判決が(事実認定の補足説明)の「第2 認定事実」の「1 被告人の本件卒業式出席の経緯等」及び「2 卒業式の準備情況等」の項で認定説示するとおりであって、この点については、特に当事者間で争いもない(なお、当審判決も、原判決にならい、「10,23通達」、「本件実施指針」、「本件実施要綱」等の略称を用いる。)。
(3) 田中は、被告人によるコピー配布を制止し、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止した情況について、原審公判で、次のように供述する(記録7冊391丁~)。
ア 本件卒業式の1週間ほど前に、北爪幸夫校長から、被告人を卒業式に招待するという話を聞いたとき、被告人は在職当時から、都教委の方針にはことごとく反対の立場を採る人だったので、わざわざ招待状を送ってほしいと頼むということは、卒業式で何かやる魂胆があるのかと心配して、北爪にそも旨言った。北爪が都教委と相談した結果、通常は2名が参列する指導主事を5名派遣することになったようである。
イ 本件当日、午前9時40分に校長室を出て、北爪とともに、来賓を案内して卒業式会場である体育館に向かったところ、校長室のある校舎1棟から2棟に至る渡り廊下の入口辺り(記録7冊476丁)で、駆けて来た佐々木指導主事と遭い、佐々木は私に、「被告人がビラをまいている。すぐやめさせてください」と伝えてきた。当然、問題行動だろうと思い、佐々木とともに、すぐに体育館の方へ、小走りで向かった。全速力で向かわなかったのは、卒業式でたくさんの保護者も来ているという人目もあり、混乱している様子を見られたくなく、目立つことはしたくないというという発想があったからである。途中、会場にいたーーーー教員も走ってきて、被告人がビラをまいていると告げてきた。
ウ 会場に入って、被告人を捜したところ、すぐに被告人を見付けた。中央通路の(ステージに向かって)左側後ろの保護者席に、二、三歩入ったところで、前屈みになって、何やらやっている状況で、ビラを配っているんだろうと思った。すぐに止めさせようと、「何やっているんですか」と、被告人の耳元で、被告人に聞こえる程度の声で言った。卒業式の前だったので、混乱させないように、なるべく穏便にと考えた。被告人がなかなか出てこなかったので、手か肩かを触って、通路の方に引き出そうとしたが、被告人は、「いてて、何するんだよ、乱暴するなよ」などと言って抵抗していたが、しばらくして通路の方に出てきた。しかし、今度は反対側(中央通路の右側後ろ)の保護者席の方に分け入って、同じように前屈みになって、ビラを配るような仕草をしていた。同様に、被告人を通路の方に出そうとし、被告人はしばらくして、「もう終わったよ」と言いながら出てきた。
エ そこで、「何やっているんですか。止めてください」と言うと、被告人は、そのままステージの方に歩き出した。そのまま終わるかどうか見届けたいという気持ちもあり、被告人にくっついて行ったところ、被告人は、保護者席の一番先頭の中央部分で振り返り、いきなり、保護者の方に向かって演説を始めた。保護者全員に聞こえるような、かなり大きな声だったと記憶している。被告人が演説を始めたとき、自分は被告人のすぐ脇にいた。びっくりして、「止めてください」と言って止めようとした。保護者の前であり、混乱を避けたいという気持ちから、大声ではなく、被告人に聞こえる程度の声で言った。私の知っている被告人は、強く言えば、必ず大声で怒鳴り返してくる人なので、混乱を避けるため、穏やかに、小さな声で言った。しかし、被告人は演説を止めなかった。そこでどう対応したらよいか、困惑していたところ、「国歌斉唱時にご着席ください」と訴えかけたので、ここまで学校の方針に反することを言われたら駄目だと思い、被告人の体に触れた。この場から移動させようという気持ちだった。
オ それに対し、被告人は、「触るんじゃないよ」と大声で威嚇するように怒鳴った。どの時点で来たのかは分からないが、その後、北爪の「退出してください」という声で、北爪がすぐそばに来ているのに気付いた。被告人が大声を出した以上、強い姿勢で制止しなければならないと思い、私も、大声で、「この卒業式は卒業生のためのもので、止めてくれ」という内容のことを言い、被告人も、大声で言い返してきた。
(続)
◎ 板橋高校卒業式刑事弾圧事件判決文(1) p1~p6
「定天と星」 《撮影:佐久間市太郎(北海道白糠定、札幌南定、数学科教員)》
平成20年5月29日宣告 裁判所書記官 櫛 田 賢 一
平成18年(う)第1859号
判 決
本籍 ・・・
住居 ・・・
無職
藤 田 勝 久
昭和16年4月2日生
藤 田 勝 久
昭和16年4月2日生
上記の者に対する威力業務妨害被告事件について、平成18年5月30日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申し立てがあったので、当裁判所は、検察官奥村淳一、同吉松悟各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
本件控訴の趣意は、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書(その1)及び控訴趣意書(その2)、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書、弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書(2)並びに弁護人…連名作成名義の控訴趣意書補充書(3)に、これに対する答弁は、検察官奥村淳一作成名義の答弁書及び答弁書補正書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。
第1 事実誤認の主張について
論旨は多岐に渡るが、判断の基礎となるべき事実関係にも争いがあるので、検討の便宜上、まず、事実誤認の主張(なお、控訴趣意書(その1)では、「コピー配布制止、呼びかけ制止行為はなかったとする主張」は「理由不備・理由齟齬」としても、また、「構成要件要素等が存在しないとする主張」は「理由不備・理由齟齬」として主張するが、いずれもその実質は事実誤認の主張と理解する。)について検討する。
1 コピー配布制止、呼びかけ制止行為はなかったとする主張について
(1) 論旨は、要するに、原判決は、本件卒業式の会場である板橋高校体育館内において、被告人の保護者に対する呼びかけに先立つ週刊誌コピー配布を田中一彦教頭が制止し、引き続き、田中は、保護者席前方に移動した被告人のそばについて一緒に移動した上、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止し続けたとの事実を認定したが、現実には、田中によるコピー配布制止及びこれに引き続く呼びかけ制止は存在せず、原判決には、この点で、判決(構成要件該当性判断及び違法性阻却事由に関する判断についての法令適用の誤り)に影響を及ぼす事実の誤認がある、というのである。
しかし、原判決挙示の関係各証拠によれば、田中が、被告人によるコピー配布を制止し、引き続き、保護者席前方に移動した被告人のそばについて一緒に移動した上、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止し続けたとの事実を優に認定することができ、また、原判決が(事実認定の補足説明)の「第3 事実認定上の争点」の「2 田中の制止時期」の項で認定説示するところも正当として是認することができ、この結論は当審における事実取調べの結果によっても変わらないから、原判決に事実誤認があるとは認められない。所論にかんがみ、以下、補足して説明する(以下、特に限定しない限り、「供述」は「原審公判供述」を指す。)。
(2) 前提として、本件卒業式に向けての準備情況等については、原判決が(事実認定の補足説明)の「第2 認定事実」の「1 被告人の本件卒業式出席の経緯等」及び「2 卒業式の準備情況等」の項で認定説示するとおりであって、この点については、特に当事者間で争いもない(なお、当審判決も、原判決にならい、「10,23通達」、「本件実施指針」、「本件実施要綱」等の略称を用いる。)。
(3) 田中は、被告人によるコピー配布を制止し、被告人の保護者への呼びかけをその冒頭から制止した情況について、原審公判で、次のように供述する(記録7冊391丁~)。
ア 本件卒業式の1週間ほど前に、北爪幸夫校長から、被告人を卒業式に招待するという話を聞いたとき、被告人は在職当時から、都教委の方針にはことごとく反対の立場を採る人だったので、わざわざ招待状を送ってほしいと頼むということは、卒業式で何かやる魂胆があるのかと心配して、北爪にそも旨言った。北爪が都教委と相談した結果、通常は2名が参列する指導主事を5名派遣することになったようである。
イ 本件当日、午前9時40分に校長室を出て、北爪とともに、来賓を案内して卒業式会場である体育館に向かったところ、校長室のある校舎1棟から2棟に至る渡り廊下の入口辺り(記録7冊476丁)で、駆けて来た佐々木指導主事と遭い、佐々木は私に、「被告人がビラをまいている。すぐやめさせてください」と伝えてきた。当然、問題行動だろうと思い、佐々木とともに、すぐに体育館の方へ、小走りで向かった。全速力で向かわなかったのは、卒業式でたくさんの保護者も来ているという人目もあり、混乱している様子を見られたくなく、目立つことはしたくないというという発想があったからである。途中、会場にいたーーーー教員も走ってきて、被告人がビラをまいていると告げてきた。
ウ 会場に入って、被告人を捜したところ、すぐに被告人を見付けた。中央通路の(ステージに向かって)左側後ろの保護者席に、二、三歩入ったところで、前屈みになって、何やらやっている状況で、ビラを配っているんだろうと思った。すぐに止めさせようと、「何やっているんですか」と、被告人の耳元で、被告人に聞こえる程度の声で言った。卒業式の前だったので、混乱させないように、なるべく穏便にと考えた。被告人がなかなか出てこなかったので、手か肩かを触って、通路の方に引き出そうとしたが、被告人は、「いてて、何するんだよ、乱暴するなよ」などと言って抵抗していたが、しばらくして通路の方に出てきた。しかし、今度は反対側(中央通路の右側後ろ)の保護者席の方に分け入って、同じように前屈みになって、ビラを配るような仕草をしていた。同様に、被告人を通路の方に出そうとし、被告人はしばらくして、「もう終わったよ」と言いながら出てきた。
エ そこで、「何やっているんですか。止めてください」と言うと、被告人は、そのままステージの方に歩き出した。そのまま終わるかどうか見届けたいという気持ちもあり、被告人にくっついて行ったところ、被告人は、保護者席の一番先頭の中央部分で振り返り、いきなり、保護者の方に向かって演説を始めた。保護者全員に聞こえるような、かなり大きな声だったと記憶している。被告人が演説を始めたとき、自分は被告人のすぐ脇にいた。びっくりして、「止めてください」と言って止めようとした。保護者の前であり、混乱を避けたいという気持ちから、大声ではなく、被告人に聞こえる程度の声で言った。私の知っている被告人は、強く言えば、必ず大声で怒鳴り返してくる人なので、混乱を避けるため、穏やかに、小さな声で言った。しかし、被告人は演説を止めなかった。そこでどう対応したらよいか、困惑していたところ、「国歌斉唱時にご着席ください」と訴えかけたので、ここまで学校の方針に反することを言われたら駄目だと思い、被告人の体に触れた。この場から移動させようという気持ちだった。
オ それに対し、被告人は、「触るんじゃないよ」と大声で威嚇するように怒鳴った。どの時点で来たのかは分からないが、その後、北爪の「退出してください」という声で、北爪がすぐそばに来ているのに気付いた。被告人が大声を出した以上、強い姿勢で制止しなければならないと思い、私も、大声で、「この卒業式は卒業生のためのもので、止めてくれ」という内容のことを言い、被告人も、大声で言い返してきた。
(続)
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