東京・教育の自由裁判をすすめる会による最高裁要請（３／４）

最高裁第三小法廷　裁判官　御中

◎　要　請　書

２０１６年６月１４日
全国民主主義教育研究会事務局長　Ｄ

　私は、全国民主主義教育研究会（略称　全民研）事務局長として上記事件について要請いたします。全民研は、１９７０年７月に創設された民間の教育・研究団体で、活動の目的は「平和で民主的な社会の主権者たる国民の育成をめざす政治教育の研究をおこなう」としており、活動事業は「高等学校の『政治・経済』『倫理』『現代社会』などを中心とする公民科・地歴科、小学校、中学校の社会科・道徳についての研究、学校の自主活動、大学での教員養成と社会科・公民科教育法の実践」をしています。
　学校教育で社会科を中心とした教育活動をすすめる際の基本は日本国憲法と教育基本法であり、学問の自由、思想・良心の自由、そして教育基本法１４条に記載された「良識ある公民としての政治的教養の教育」です。
　教育活動は、何よりも教育実践を担う現場の教職員が生徒の状況を踏まえ、自主的で創造的な実践が求められます。
　学習指導要領が目安になりますが、授業の細目まで学習指導要領が規定しているわけではありません。こうしたなかで都教委が２００３年に発出した「１０・２３通達」は、「日の丸・君が代」の扱いについて、学校の独自判断を許さず「通達」だけで卒・入学式をおこなうことを指示し、現在も継続しています。
　通達は学校（学校長宛）ですが、教職員には疑義を認めず、生徒にも指導し従うことを命じています。
　現在、学校の卒・入学式で「生徒が不起立の場合は起立を促す」旨が式の進行表に表示されていますが、これは、憲法１９条の「思想及び良心の自由はこれを侵してはならない」に違反しています。
　卒・入学式での「日の丸・君が代」を教職員・生徒に強制することは自ら考え、判断することを奪っています。また、教職員は授業のなかで「日の丸・君が代」を多面的に扱うことができません。そのため教育本来の活動は消滅し、生徒が真実を学ぶことができなくなっています。
　「１０・２３通達」の職務命令は、学校現場を萎縮させ、教育の自由を奪っています。職務として教育活動を担う教職員、学習権として学ぶ権利を有する生徒の精神的自由権は、外部からの権力によって制限をうけず、基本的人権として保障される必要があります。そのために司法による救済が求められます。
　こうしたなかで、公職選挙法の改正によって、２０１６年７月１０日に予定されている参議院選挙から高校に在籍する１８歳以上の生徒に選挙権が認められます。
　日本では７０年ぶりに選挙権年齢が引き下げられ、マスコミでも大きな話題になっています。この実施により学校教育では公民科目などで「政治的中立を前提とした主権者教育」が求められています。「政治的中立」とは、特定の立場を教育活動にもちこまないことであり、それは、教育行政であろうと現場の教職員であろうと同じでなければなりません。都教委の「１０・２３通達」は「日の丸・君が代」を教育活動で命ずるという意味で「政治的中立」に違反しています。
　公選法の改正にともない、これまで禁止されていた高校生の政治活動・選挙運動が認められるようになりました。
　総務省・文科省は生徒指導用の副読本を配布し、有権者として身につける能力として「政治とは自分で判断することが基本ですので、課題を多面的・多角的に考え、自分なりの考えをつくっていく力が必要」「根拠をもって自分の考えを主張し説得する力を身につけていく」「高等学校において、政治的教養を育み、その成果を生かして有権者として政治に参加してください」と述べています（『私たちが拓く日本の未来』発行　総務省・文科省）。
　教育行政はこれまでのように上位下達で学習内容を一方的に提示するのではなく、特に政治教育では自らの判断力によって多面的・多角的に考える力が求められています。
　高校生も校外での政治活動ができるようになったなかで、「日の丸・君が代」問題を考える集会などへの参加も可能になりました。高校生は自らの意見をもち、表明することができ、判断力が求められています。こうしたなかで、都教委の「１０・２３通達」とは齟齬が生じていることをご理解ください。
　「１０・２３通達」は、行政の一方的な通知であり、生徒が自ら考えることを否定していますから、主権者教育が具体化したなかでは時代にあわなくなっています。
　最高裁判所におきましては、こうした社会情勢の変化、教育活動における主権者教育（シチズンシップ教育）の動向にぜひ目をむけていただき、１０・２３通達の違憲・違法を表明していただきたく要請いたします。