英国的読書生活

イギリスつながりの本を紹介していきます

英国が失ったもの

2006-04-06 | イギリス
カズオ・イシグロ「日の名残り」(1989)
映画のほうを先に観てしまったので多少遠慮していたのですが、もっと早く読んどけばと思わせる1冊でした。
舞台はオックスフォード・シャーのマナーハウス。執事スティーブンスは新しい主人から休暇の許可を得、フォード車でドライブ旅行に出かける。途中次々と思い出すのは1930年代の先代主人ダーリントン卿に仕えた日々。この旅行にはもう一つ大きな目的があったのだが。
物語は淡々とアンバー系の色調で進行するのですが、当時カリスマ執事のような存在があったりとか、エリートしか入れない執事協会があったりとか、そもそも執事に求められる「品格」、「誇り」とは何かをスティーブンスが執拗に自問する場面とか、お互いが強く意識しあっている女中頭とのかみ合わない会話とか、そして歴史の舞台裏で模様される非公式な国際会議の場面などが、ある面ユーモアをも散りばめた形で語られます。
かつての主人と執事の関係というのが単なる雇用関係ではなく、もっと複雑で尊いものだったように感じました。スピードと効率が今ほど求められなかった時代、本物が本物として扱われた時代がここにはあります。

本を読んであらためて映画も観てみました。ホプキンス、いい味出してます。一番印象に残っているシーンは、車が丘の上でガス欠で止まってしまうところ。あの夕陽の美しさは何でしょう。