唐茄子はカボチャ

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聖者の眠る街

2010年11月10日 | 好きな映画・良かった映画
聖者の眠る街 [DVD]
クリエーター情報なし
ハピネット・ピクチャーズ


全体的に地味で、暗い、寒い映画です。
普通な感動作にするなら、青年の才能が花開いてハッピーエンドおじいさんと仲良く暮らしましたとさ。という風にして、すっきりさせるんでしょうが、これはそうではありません。写真の才能、人に対する優しさも持っていて、さらに、現代のキリストにもなるかもしれないような特殊な能力も持っている希望ある青年が、あっさりと死に、戦争から帰ってきて、事業にも失敗して、もう先が短いようなホームレスの老人が生き残ってしまうわけです。その結果に、この映画の訴えたいものがあるような気がしました。それは、アメリカ社会の現実です。才能あふれる若い人たちが、その芽をつぶされてしまう社会の現実。この老人だって、よく考えたら、戦争さえなかったら、社会的な保障がしっかりしていれば、素晴らしい才能を発揮して、生き生き暮らしていたかも知れないわけです。

最後まで奇跡を起こさせませんでした。それが、現実の社会であり、実際に多くの人が、そういう体験をしている、現実がそこにあるわけです。ハッピーエンドで終わるということは、その現実から目をそむけることになってしまうと思いました。

最後の棺の山を見ていると、その主人公だけじゃないんですね。同じように若い命が、子どもの命も奪われている現実。聖者だけが生き残ればいいのかというとそうじゃなくて、すべての人に、生きて行く希望、才能を発揮できるスタート地点に立てるような環境を、社会が整えてあげなければいけないはずです。そういういみでは、すべての人が聖者になる可能そうを持っていて、それを摘み取られてしまっている現実というのを考えさせられます。

じゃあ、この映画は、何の希望もない、むなしさ、社会の厳しさだけを描いているかというと、そうではないんですね。そこを読みとらないと、ただ単に暗い寒い映画になってしまいます。
この映画は、希望のある映画であるとも思いました。
なぜなら、その青年は、老人に出会ったことで、自分の生きる希望を見出し、逆に老人も、青年と出会うことで、この社会で生き抜く決心をするわけです。この2人の交流はとても温かいし、希望に向かって努力する素晴らしさも感じさせてくれます。人と人とのつながりの暖かさ、お互いがお互いを刺激して生きる希望をもつ。これこそが、この2人の間で起こった、奇跡なのかもしれません。

もうひとつ、若者が、出会った人が幸せにしている映像を想像・・・空想する場面・・・ビジョンを見たというべきなのかもしれないけれど…その場面の明るさがとても印象的で、唯一、明るいシーンなんです。それまでの暗い寒い映像との対比でとても印象に残る場面です。
人間の求める本当に小さな幸せが手に入れることが困難な現実も感じさせてくれます。

ついでにあと一つ、あの施設のベッドの並んでいる風景に驚きました。ハリウッド映画ではなかなか見ることのできない、アメリカの現実に向き合っていますね。

最後にもう一つ、2人の役者がとてもいいですね。